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沢村賞・大野雄大の「完投力」に思う。先発完投型を目指すのは決して時代錯誤ではない。

上原浩治元メジャーリーガー
佛教大時代から高い評価を受けていた左腕が、ついに投手最高の栄誉を手にした。(写真:岡沢克郎/アフロ)

 中日の大野雄大投手が沢村賞に輝いた。突出していたのが、2桁に乗せた10の完投数だ。

 賞の選考は7項目で登板試合数25以上、完投試合数10以上、勝利数15以上、勝率6割以上、投球回数200以上、奪三振数150以上、防御率2・50以下だ。※今季は試合数が120と例年の8割程度ということもあり、登板試合、勝利、投球回、奪三振で基準をクリアした投手がいなかった。

 大野投手の完投試合数10(うち完封が6試合)は、他の投手陣を圧倒した。対抗馬だった智之(巨人・菅野智之投手)が3試合、パ・リーグだと投手三冠(最多勝、最優秀防御率、最多奪三振)の千賀滉大投手ですら、1試合にとどまった。

 減少傾向をたどる「先発完投型」の投手は今後、いなくなってしまうのだろうか。中継ぎ・抑えと分担制への移行が進んだだけでなく、小学校年代などでもけが防止のために試合での球数制限の導入が進んでいる。こうした要因を完投できる投手の減少の背景に挙げる声もある。ただ、「けがの防止」というのは、何にも勝る印籠のように見えるが、私は「球数で選手を守ることも大切だけど、球数で選手を鍛えることも野球をうまくなる上では欠かせない」という考えも持っていいのではないかと思う。

 時代とともに否定される傾向にある「投げ込み」だが、投げることでしかつかない筋肉、肩のスタミナがおろそかにされていないか。

 球数を制限する前に提唱したいことは、まずは「正しいフォームで投げる基礎ができているか」ということだ。肩や肘に負担がかかるフォームだけど、球数が制限されていることで修正の必要性に気づかなければ、いずれけがにつながってしまう。まずはたくさん投げても負担が少ない自分に合ったフォームを身につけることが必要だ。その上で、年代に応じて連投をさせない、球数を守るというのであれば、成長とともに多くのイニングを消化できる投手に成長できると思う。「けがをしてもいい」ではなく、「けがをしない」ためという土台を作る発想の転換が必要ではないだろうか。

 現役時代、「上原は高校まで外野手兼任で肩、肘が使い減りしていないから、故障しない」と言われたことがある。そんなことはない。控え投手だった高校時代、日々の練習で毎日のようにバッピ(打撃投手)を務めていた。相当な球数を投げてきたはずだ。プロに入ってからも投げ込みの重要性は常に持っていた。ブルペンよりも遠投で全身を使って投げることを意識した投球練習をルーティンにしてきた。投げ込みの手法は人それぞれでも、やはり完投できるだけのスタミナはつけていかないといけない。

 

 9回を投げ切るには、投球にも工夫が必要だ。私の理想は1イニングを15球以内で抑えることだった。そうすれば完投で9回を投げて135球になる計算が立つ。中5日、6日で135球なら、先発ローテーションを守れる。球数を抑えるためにはストライクを先行させる必要があり、制球力を磨かないといけない。大野投手をみても明らかだが、ストライクゾーンで打者と勝負できている。完投を意識することで投手として必要な力も培うことにもつながっている。球数に守られても、無駄な四死球を出したりして5回くらいで球数が100を超えるのはもったいない。

 昔のように誰もが完投できる力を備える時代ではない。それができる投手は12球団でもエース級くらいになるだろう。逆に言えば、完投できる力があればエースになれるということだ。分担制の導入が進んでも、エースが投げる日はブルペン陣を温存できれば、レギュラーシーズンを戦う上で、中継ぎ、抑えの酷使を避けることにもつながる。休養を挟むことでブルペンもコンディショニングを維持することができれば相乗効果が生まれる。

 もちろん、完投することは簡単ではない。たくさん投げることは肩、肘への負担が増えることにもつながる。バランスが難しいのも事実だ。だからこそ、日本でもメジャーでもトップの選手は、ウエートトレーニングや体のケア、食生活の管理など複合的な要素も含めて、けがをしない体作りを怠らない。日々の努力の積み重ねて、完投できるスタミナ、技術、力も磨いていく。だからこそ、先発完投型の投手に与えられる沢村賞は誉れ高い。

 「先発完投型」を目指すことは決して時代錯誤ではない。「絶滅危惧種」や時代に逆行などと言われようとも、20世紀最後の沢村賞を戴いた立場からも、21世紀の令和の時代にも9回を投げ切る投手が途切れないことを願っている。

元メジャーリーガー

1975年4月3日生まれ。大阪府出身。98年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目に20勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠、新人王と沢村賞も受賞。06年にはWBC日本代表に選ばれ初代王者に貢献。08年にボルチモア・オリオールズでメジャー挑戦。ボストン・レッドソックス時代の13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇、リーグチャンピオンシップMVP。18年、10年ぶりに日本球界に復帰するも翌19年5月に現役引退。YouTube「上原浩治の雑談魂」https://www.youtube.com/channel/UCGynN2H7DcNjpN7Qng4dZmg

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