ドラフト目前の今考える日米の育成システムの違い 「強豪の看板」か「実戦経験」か

強豪校では一度も公式戦に出ることなく引退する球児も多くいるという(写真:アフロ)

 プロ野球ドラフト会議がまもなくやってくる。長男の一真がアメリカで野球をしていることもあり、最近は野球界のすそ野についての関心を抱くようになった。

息子が昨年秋から通うIMGアカデミーはフロリダにある。学校の敷地面積が東京ドーム55個分と言われ、行内の移動にカートを使うほどの広さだ。テニスの錦織圭選手のように世界的なトップ選手を育成できるような環境も整備されている。野球場だけでもフルサイズで6面あり、内野手用がさらに3面ある。指導者も技術指導を専門とするコーチは現役時代にほとんどがマイナーの3Aでプレーした経験があり、元メジャーリーガーもいる。オリオールズ時代のコーチもIMGの指導者になっていた。食事も栄養が管理され、環境はプロと変わらないほど恵まれている。自分が息子と同じ中学年代なら、これだけ恵まれた環境で野球ができたら、楽しくて仕方ないだろうなと思ってしまう。ただ、勉強にも力を入れていて、野球だけをやっていればいいということもないのもアメリカ流。息子にもまずは野球が楽しいと思ってくれればいいと思って送り出した。

 そんなアメリカと日本の最大の違いは、実戦経験を重視することへの温度差だ。

アメリカでは基本的に「補欠」を作らず、全員が出場できる人数でチームが編成されている。IMGの野球部は年齢ごとにカテゴリーが分けられて練習し、コロナ禍の今年はIMG内でリーグ戦を行う。チームは様々な学年で混合した構成になり、アカデミーのコーチがドラフトして選手を振り分ける。

 また、通常、夏季休暇中はIMGだけでなくどこの学校も部活動が中断され、地域のクラブチームに在籍するのもアメリカの特徴だ。ここでも同様に各チームは平均15人くらいで編成されている。しかも、チームに所属するためにはトライアウトを受験し、合格しなければならない。もしも不合格になれば、他のチームのトライアウトに挑んで所属先を見つける仕組みだ。

 そして、どのチームも試合を行うときは、すべての選手を試合に出場させることが義務付けられている。チームの中では10人近くが投手をできる。エースと10番手の実力差は大きいが、ストライクを入れるのがやっとの10番手の選手にも登板機会は用意される。勝ち負けはもちろん大事だが、実戦経験を積むことで育成させるという方針が全米各地で徹底されているようだ。

 実は、試合の中で選手を育てるというシステムはマイナーリーグにもあてはまる。メジャーはルーキーリーグからロークラス1A、ハイクラス1A、さらに2A、3Aと傘下に多くのチームを作り、どのカテゴリーも基本的には試合に必要な人数で構成される。日本のように2軍でも出場機会がほとんど与えられないまま、ユニホームを脱ぐということはない。

 すそ野の話に戻すと、日本では高校野球が顕著だが、1学年5、60人という強豪校も珍しくない。高校3年間で1試合も公式戦に出場しないまま、卒業する生徒もかなりいると聞く。背景にあるのは「甲子園」という日本特有の存在だろう。甲子園に出場できる学校は各都道府県でもどうしても限られる。強豪校の門をたたき、厳しいレギュラー争いを勝ち抜いた先に甲子園がある。もしも、かなわなくても、仲間を応援して一緒に甲子園に行きたい。日本で野球をしていれば、この気持ちはすごく理解できる。私自身も甲子園にあこがれた元球児であり、部員数が多い学校を批判する気もない。本人が行きたいと思って進学したのだから尊重されるべきだ。

 ただ、野球は「試合に出てナンボ」というのを、改めてアメリカのすそ野をみて実感させられたのも事実だ。並行して、日本の野球人口の減少には警笛を鳴らしたい。底辺を広げないと上のレベルも上がらない。いまは逆ピラミッドのようになっている。

 出場機会を広げることで、野球の楽しさを再発見する機会になるのではないか。そのことで野球人口がまた増えていくのではないかという一石は投じたい。1チームに100人いる強豪校は本来なら5チーム作れる。ベンチにも入れず、スタンドで応援している選手の中には、実戦経験を積むことでレベルが飛躍的に向上する可能性だってあるはずだ。やっぱり、打った、投げたという楽しさは試合でしか感じることができない。世界は広い。息子は「甲子園って何」と首をかしげるだろう。もちろん、日本の高校球児の夢を否定するつもりはない。

 一方で、大人のしがらみで進学先を決めなければいけないような事情も耳にする。そんな弊害は吹き飛ばしていい。高校進学の段階で、スカウティングというのはどうなのかとも思う。もちろん、最後に決めるのは選手本人であり、その決断は尊重されるべきだと思う。何よりきれいごとかもしれないが、野球を楽しめる環境が一番。楽しむ定義は個々によって違うが、いろんな楽しみ方があればこそ、野球の未来も明るくなるのではないだろうか。