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5連戦15失点 数字が語る「甘さ」と語れぬ「強さ」/レノファ山口

上田真之介ライター/エディター
5連戦中3度目の4失点=筆者撮影、この記事の他の写真・図も

 J2レノファ山口FCは10月25日、維新みらいふスタジアム(山口市)で水戸ホーリーホックと対戦し、1-4で敗れた。今節までの5連戦は1勝4敗と負け越し、順位は21位のまま。

明治安田生命J2リーグ第29節◇レノファ山口FC 1-4 水戸ホーリーホック【得点者】山口=田中パウロ淳一(後半9分)水戸=中山仁斗(前半15分、後半46分)、山口一真(前半16分)、深堀隼平(後半35分)【入場者数】2584人【会場】維新みらいふスタジアム

 4度目の5連戦となったJ2リーグ。レノファは連戦の最初の2試合で4失点を喫し、2節前こそ1-0で勝ったが、前節も3失点を喫していた。連戦最終戦でホームに迎えたのは水戸。前回対戦で2-4で敗れており、修正を図れる期間が短い中で、どれだけ失点を減らしてゴールへと向かえるかが試合のポイントとなった。

 レノファらしい安定したビルドアップでゲームの主導権を握り、無失点の時間を長く続けられれば勝機は見いだせるはずの試合。だが、現実は甘くはなかった。

早い時間帯で失点。退場も

 維新みらいふスタジアムでは2月以来となるデーゲーム。レノファは今節から鳴り物を使った応援を再開し、声援こそできないものの、スタジアムの雰囲気は少しずつ以前の状態に戻ってきた。

レノファの先発布陣。5人を入れ替えた
レノファの先発布陣。5人を入れ替えた

 レノファは前節から5人を入れ替え、川井歩が先発したほか、FWではイウリと小松蓮がともにスタメン出場。キャプテンの池上丈二はメンバーには入らず、先発が続いていた浮田健誠、高井和馬はベンチスタートとなった。水戸は前節から7人を変更している。

 オフェンスのキーマンと言える浮田や高井、右サイドバックでゲームメークを担う田中陸などをスタートから起用しなかったレノファ。前線からのプレスやハイラインのコンパクトな布陣こそ継続したが、連戦仕様の布陣は試合序盤にマイナス方向の結果をもたらしてしまう。

 「入り方のところで、ボールに対して厳しく行かなければならなかったが、久しぶりに出た選手はリズムに乗るのに時間が掛かってしまった」(霜田正浩監督)

 対人守備の強度が甘く、ボールを簡単に動かされたり、帰陣の遅れや連係のほつれから背後を突かれて決定機を作られてしまう。前半15分には早くも失点。水戸の右サイドハーフで先発した山田康太のクロスに、レノファでのプレー経験がある中山仁斗が軽快に頭を振ってゴールイン。「中の動きを見て早めにクロスを入れることはマサトくんに伝えていた」(山田)と水戸にとっては狙い通りの形でスコアが動く。ここでのレノファ守備陣の反応は鈍く、クロスも、ターゲットに対してもブロックができていなかった。

 その直後にも水戸が追加点を挙げる。レノファのCKを跳ね返した水戸は、そのままカウンター攻撃に転向し、山口一真がドリブルで一気にゴール前へ。高宇洋にコースを狭められるものの、カウンターの勢いとは真逆の落ち着いたシュートをGKの触れない右隅へと流し込んだ。

レッドカードを出す西山貴生主審
レッドカードを出す西山貴生主審

 レノファから見れば瞬く間の2失点。だが、失点よりも想定外だったのは退場者を出してしまったこと。同18分、ヘニキが2枚目のイエローカードを受けてレッドカードを出されてしまったのだ。試合時間を70分以上も残し、レノファは10人で2点差を追わねばならなくなった。反撃するための時間は十分に残されていたが、さらなる失点を食らうだけの時間も残っていた。

スペースを生かした攻撃に活路

 小松とイウリの両FWを先発させたことからも分かるように、レノファは今節、4-4-2の布陣を敷き、左サイドバックが定位置になっていた橋本を一列高い位置に出していた。ただ、センターバックのヘニキの退場を受けて立ち位置を修正。安在和樹をピッチから下げてサンドロを入れ、センターバックに配置。安在がいたサイドバックに橋本を置いた。

 このときのフォーメーションは4-2-3。あえて役割を分けるなら最終ラインとボランチの6枚が守備に回り、前線3人が攻撃を引き受けて、隙を突いていくという布陣。中盤の間延びは避けられないが、「どんどんと裏を狙って行く。一人少ないとなかなか(ボールを)つなげない」(小松)と割り切り、背後へのスプリントを優先する。

橋本健人がオーバーラップする機会は多かった
橋本健人がオーバーラップする機会は多かった

 それでも中盤を省略したカウンター一辺倒の攻撃にはならなかった。中盤にスペースができた分だけ両サイドバックの視界が開け、ボールを持ち出していける場面も発生。前半39分には橋本が左サイドを深く突いてクロスを送るシーンも出てくる。

 前半を0-2で終え、後半の開始とともにクロスの受け手としての安定感がある浮田健誠をピッチに投入。背後への飛び出しを狙う小松と、クロスレシーバーの浮田を攻撃の二枚看板にして、攻勢に出ていく。後半7分には自陣から送り出した川井の縦パスに小松が反応、背後へと突破した際にプレスバックした水戸の守備陣と交錯する。これがファールの判定となり、レノファがPKのチャンスを獲得する。

止まらぬ失点。またも大敗

 キッカーを担ったのは田中パウロ淳一。右のサイドハーフで先発し、途中からは左ウイングに入って敵陣をかき回していた左利きのドリブラーが、ペナルティースポットにボールをセットした。

 「監督はたぶん、健誠(が蹴るように)と言っていたと思うが、僕はPKは外したことがなく、自信があるので蹴った。蹴る方向は決めていないが直感で」(田中パウロ)

PKを決める田中パウロ淳一
PKを決める田中パウロ淳一

 自信に満ちたシュートはGKの反対を突いてゴールネットを揺らし、レノファが1点差とする。これで息を吹き返したレノファは数的不利の状態ながらも、「10人になっても自分たちのプレーモデルはしっかりやってくれた」(霜田監督)と積極的に敵陣に侵入し、田中パウロのクロスや、左から右への大きな展開を生かして分厚い攻撃を継続する。

 しかし、クロスが合わなかったり、シュートの精度を欠いたりして、ゲームの流れを完全に引き込むまでには至らなかった。最近の試合ではセットプレーも得点源となっているが、後半22分にあったFKの好機もサンドロのヘディングシュートは枠を捉えられず、レノファの反撃は1点でストップする。

 水戸もボランチの木村祐志を落ち着かせどころにして右に左にとボールを振り、タイミングが合えばロングフィードで2トップに預けて前線で攻撃を再構築。息の合った攻撃を続け、最終盤には前掛かりになったレノファの最終ラインをテンポの良いパスワークで突破して、再び連続ゴールを挙げる。

 後半35分には右サイドでのワンツーからペナルティーエリアに入った松崎快がシュートを放ち、こぼれ球に反応した深堀隼平が追加点。さらにアディショナルタイムには水戸のサイドバックの外山凌が背後を突き、その流れから中山がこの日2点目の一撃を突き刺した。

 1-4でゲームを閉じ、レノファは2連敗。10月10日からの4度目の5連戦は計7得点を挙げた一方、3試合で4失点を喫するなど計15失点で、連戦は1勝4敗と大きく負け越した。

無理な攻撃をしないために…

 シーズンは29試合を終え、レノファは21位。総得点数の33はレノファのスタイルからすれば少ないが、順位表の中央付近に位置していても不思議はない得点力を誇る。だが、リーグワーストの54失点という守備のもろさが、せっかくの得点を水泡に帰し、順位表のジャンプアップを阻んでいる。

 もちろん、得点を取り返すために前掛かりに出て行き、それゆえにカウンターから失点を食らうというシーンは多い。攻撃にも出ずに失点するよりは、攻撃に出たがゆえの失点のほうが次につながるだろうし、試合を見ている人にはサッカーのおもしろさを伝えられる。今節の試合最終盤で食らった2失点はそういう類いのもので、過度に悲観する必要はないのかもしれない。

 小松は「必死に戦っている姿を見せなければならないとチーム全員で話していた」と振り返り、「諦めている選手は一人もいなかった。一人少ない中でも逆転できると信じてやっていた」と選手の胸中を明かす。確かにレノファは一人少ないというハンディキャップを感じさせないほど、後半は意欲的にボールを動かす時間帯があった。レノファらしい攻撃は消えてはいなかった。

笑顔を届けることはできなかった
笑顔を届けることはできなかった

 それでも試合翌日の新聞やテレビニュースに踊るのは4失点という現実だ。もう少しリアルな話をするなら、月曜日の職場で同僚などから結果を突っ込まれ、『2点差をひっくり返すために、みんなで攻めたけれど返り討ちにあったんだ』と説明するであろうサポーターの心情を考えれば、こういう結果が続くのはやりきれないものがある。チームは点差が広がっていく前に、手を打たねばならなかった。

 今節に関して言えば、キーマンの多くを入れ替えたり、ポジションを変更したりしたことが裏目に出て守備の強度が落ちた。相手のサイドアタックやカウンターの鋭さは警戒していたはずだが、何度も簡単にクロスを上げさせてしまい、失点した場面ではターゲットへのマークも緩かった。

 2失点目のカウンターも防げた失点だった。CK後にセカンドボールを拾えずカウンターを受ける場面は必ずあるが、決してリスク管理を怠っていたわけではなく、レノファ陣内を駆ける水戸の山口に対して高がぴたりと付いていた。だが、シュートコースを限定しながらGK山田元気の及ばない方向へとシュートを飛ばされ、あっさりと失点している。

 安い失点という表現が最も当てはまるのはこの2失点目で、追い込み方やコーチング、GKのポジショニングなど見直すべきポイントは多い。そのほかの場面も含め、1週間のインターバルがある今週は起きた現象に真摯(しんし)に向き合って、修正を図っていくしかない。

 4失点や、連戦の15失点という大きな数字には、上述してきたように「攻めようとする姿勢」が内包されている。だが、誰かが解説をしない限り、無機質な数字はそれを説明してくれない。結果が全てだと言われる所以(ゆえん)でもある。

 田中パウロは試合後、その結果を目指し、再起を誓った。

 「10人になる前も相手に攻められて2点を決められている。そこを反省し、二度とそういうことが起きないようにミーティングや練習で詰めていきたい。次は絶対に勝つ。もう負けない」

 次戦は11月1日に敵地で松本山雅FCと対戦する。次のホーム戦は11月4日午後7時から。維新みらいふスタジアムにザスパクサツ群馬を迎える。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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