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4失点大敗。自滅的失点のサイクルを断ち切れず/レノファ山口

上田真之介ライター/エディター
4失点で敗れ、無言で引き上げる選手たち=筆者撮影、この記事の他の写真・図も

 今季序盤戦で見たような失点劇を繰り返した。J2レノファ山口FCは8月24日、維新みらいふスタジアム(山口市)に順位が近接するV・ファーレン長崎を迎えたが、ゲーム運びが落ち着かず4失点で大敗。14位からの浮上が遠のく、手痛い黒星を喫した。

明治安田生命J2リーグ第29節◇山口0-4長崎【得点者】長崎=呉屋大翔(前半13分、同31分)、玉田圭司(後半24分)、澤田崇(同30分)【入場者数】12105人【会場】維新みらいふスタジアム

 「ボールの失い方が悪いとこういう結果になるのは、もう何回もやってきていること。しっかり学習しなければならない」

 試合後の会見で語った霜田正浩監督の言葉が、この試合で起きたできごとを明快に表現する。1万2千人以上が集まったスタジアムで、またも同じ光景が繰り返された。イージーミスでボールを失うと、それをケアできないままカウンターが失点に直結するというサイクル。起きるべきではないミスが起きたのも事実ながら、ミスをカバーできなかったのも事実で、言い訳のできない敗戦に終わった。

前節が出場停止となっていた菊池流帆(後列左から2人目)が先発復帰した
前節が出場停止となっていた菊池流帆(後列左から2人目)が先発復帰した

「ミス」「カウンター」「失点」の直結

 8月16日までの夏の移籍期間(ウインドー)でレノファからは4選手が移籍した。特に左サイドは痛手で、左ウイングバックのスタメンだった瀬川和樹が7月下旬に栃木SCに移籍。高木大輔を右から左に移したものの、その高木もガンバ大阪からのオファーを受け、J1に挑戦するべく旅立った。

レノファの先発布陣
レノファの先発布陣

 新たに即戦力となる3選手を迎え入れたが、いくつものタスクが求められるレノファのサッカーにすぐにフィットするのは難しく、前節のヴァンフォーレ甲府戦ではウイングバックを置かない4-2-3-1に変更した。今節もシステムは継続し、佐藤健太郎と前貴之のドイスボランチ(ダブルボランチ)とし、1.5列目の中央には三幸秀稔を配置。ボールを受けたり、配ったりを得意とする選手で中央を固め、パスコンビネーションで主導権を掌握するという狙いがうかがえる顔ぶれとなった。

 試合直前の強雨でピッチコンディションは悪かったものの、実際にピッチ中央でボールを失うことはなかった。しかし、起きるべきではないミスが最終ラインからのビルドアップや前線でのパス回しで起きてしまう。原因の一つは長崎が仕掛けた高い位置からのプレッシャー。ベンチ入りできない手倉森誠監督に代わって指揮を執った原田武男コーチは「山口に押し込まれると苦しくなる。主導権を持って高い位置からボールを奪うという狙いがあった。それが狙い通りに行き、結果につながった」と説明。レノファの攻撃力を無力化しようとプレスを掛け、それにレノファがはまってしまった。

 ゲームは早い時間帯に動き、前半13分、長崎は澤田崇が最終ラインの背後へと抜け出し、折り返しのクロスに呉屋大翔が合わせて先制する。さらに同31分、レノファのパスミスを突いてカウンターに出て、澤田が縦にスルーパス。これを拾った秋野央樹がペナルティーエリアに侵入し、低いクロスに再び呉屋が右足で合わせた。呉屋は暫定でJ2得点ランキングのトップに並ぶ今季17ゴール目を挙げた。

前半途中からピッチに立った池上丈二
前半途中からピッチに立った池上丈二

 相手のプレスをいなせないまま、カウンターで2点を失ったレノファ。前半のうちに手を打ち、同33分、川井歩を下げて池上丈二を投入したほか、選手の立ち位置を変更する。池上を比較的自由にボールを動かせるトップ下に置き、前を右サイドバックに、三幸をボランチにとそれぞれ1列ずつ下げ、前線では宮代大聖と山下敬大の位置も入れ替えた。

 この変更は一時的とはいえ効果を見せ、池上がバイタルエリアでボールを引き出し、前向きな攻撃が復活。同40分にはスルーパスに抜け出した宮代がシュートまで持ち込んだが、惜しくも左に逸れた。また、CKのチャンスには菊池流帆が打点の高いヘディングシュートを放ったが、これもゴールポストの上部を叩いてゴールとはならなかった。

決定力も欠き、ゴールを奪えず

田中パウロ淳一(左)は特徴を生かしてボールを保持した
田中パウロ淳一(左)は特徴を生かしてボールを保持した

 レノファはハーフタイムでも手を加える。霜田監督が「マイボール時のミスからカウンターを食らわないようにしよう」と指示したほか、後半のスタートから田中パウロ淳一を入れ、ボランチを削って攻撃の枚数を増やした。田中は「溜めを作れるところがなかったので、できるだけ溜めを作ろうと思ってプレーした」と話し、実際に右サイドで何度もボールを回収。そのままドリブルでペナルティーエリアの中へと仕掛けたり、三幸や前とパス交換して攻撃に絡んでいく。

 ただ、ペナルティーエリア周辺でのブロックは堅く、なかなかシュートまで持ち込めない。ミドルシュートの選択もほとんどなく、攻めあぐねていると、再び長崎が決定機をものにした。

 後半24分、長崎はペナルティーエリアの手前でFKのチャンスを獲得する。セットしたのはレノファとの前回対戦でも決めていた玉田圭司で、壁の1メートル前に3枚のスクリーンを置いてGKの視界を制限。左足で放ったシュートを左隅にしずめ、試合を決定的なものとする3点目を奪った。さらに同30分、ここでもレノファのミスが絡み、澤田がパスカットしてカウンターへ。呉屋、ビクトル・イバルボとつなぎ、中央から駆け上がった澤田が拾い返して、ゴールに流し込んだ。

試合を決定的なものとした3失点目
試合を決定的なものとした3失点目

 レノファは最終ラインの枚数を削ったり、選手の立ち位置を変えたりと1点でも返すべく策を講じるがゴールが遠い。池上や途中出場の工藤壮人がシュートまで持ち込む場面はあったものの、1点も挙げることはできず、0-4で敗れた。

コンビネーションを生かせる安定感を

 この日はレノファが多くのイベントを開いたほか、長崎からも多くのサポーターが集まり、入場者数は1万2千人を超えた。しかし、レノファらしいサッカーを見せることはできず、1点も取れないまま敗戦。霜田監督は「初めてスタジアムに来てくれた人がいるかもしれない。そういう人たちにレノファのサッカーがおもしろい、もう1回見に来たいと思ってもらわなければならないが、そういうことができなかった。本当に申し訳なく思う」と無念をにじませた。

霜田正浩監督は険しい表情でピッチを後にした
霜田正浩監督は険しい表情でピッチを後にした

 厳しいゲームとなった要因として、霜田監督は「サッカーの中で経験値がどれだけ大事かを、試合をやりながら思い知らされているというところだ」とも語っている。ミスの連続やラインコントロールを見れば、経験値が足りなかったのは言うまでもないだろう。

 前節はボランチで高宇洋が先発したが、今節は出場を見合わせ、このポジションに前を起用。これによって本稿冒頭にも触れたように、中盤にボールが入ったときのポゼッションは安定した。前はJ2で129試合目、佐藤は290試合目、三幸は132試合目の出場。J2だけでなくそれぞれJ1でもゲームに出てきた経験があり、「経験値」で言えば申し分ない。ただ、中盤に彼らを置いた代償として最終ラインが若手中心の構成となり、長崎のプレッシャーに対してリスク管理がおろそかになったり、攻撃のファーストパスが決まらなかったりと安定を欠いた。

 途中から前を右サイドバックに下げ、このサイドで後手になる場面は減ったものの、ミス絡みでの失点が重なったことを考えれば、やはり最初の設定に無理があった。三幸は「相手の技術や戦術でうまく行かない時間帯が続いた中、修正できずに失点を繰り返した。踏ん張らないといけないが、自分たちのメンタリティーの弱さが露骨に出てしまった」と話したが、ピッチ内での修正には限界があっただろう。4バックは1週間前の試合で戻したばかり。ボランチだけに着目しても、前節から顔ぶれが変わったほか、前半の途中から選手が入れ替わった。

 前半は最終ラインでのミスが目立ち、徐々に全体に波及。4失点目では前と田中のパス交換が合わず、田中の出したボールが相手にカットされた。田中も今節がJ2で139試合目の出場。経験値だけで言えばクリティカルエラーが起きるとは考えにくいが、週替わりのシステム変更や90分の間での立ち位置の変更がそれを引き起こした可能性も否定できない。

 中盤をショートカットするサッカーではなく、コンビネーションを生かしてゲームを進めるレノファにとって、ボールを失わずにビルドアップできるかは生命線だ。夏の移籍期間が終わり、今後は現有戦力の流出を恐れることなくチームの編成が図れる。レノファらしさを取り戻すため、どのようなシステムを選択し、誰を基幹となるセンターラインに配置していくのか。惨敗を受け止め、チームの骨格を急ピッチで再構築していきたい。29試合を費やした学びを結果に変換していく時が来ている。

 レノファは次節もホーム戦で、9月1日午後7時から、維新みらいふスタジアムでファジアーノ岡山と対戦する。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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