原点回帰、収穫のドロー。川井はJ初ゴール/レノファ山口

試合後に選手たちに声を掛ける霜田正浩監督=筆者撮影、この記事の他の写真・図も

 J2レノファ山口FCは5月11日、維新みらいふスタジアム(山口市)で大宮アルディージャと対戦し、2-2で引き分けた。連敗は2でストップ。川井歩はプロ初ゴールを挙げた。

明治安田生命J2リーグ第13節◇山口2-2大宮【得点者】山口=川井歩(前半36分)、田中パウロ淳一(後半46分)大宮=フアンマ・デルガド(後半26分)、小島幹敏(同38分)【入場者数】6266人【会場】維新みらいふスタジアム

先発5人を入れ替え。岸田が初先発

前節から5人変更
前節から5人変更

 自分たちのミスから試合を壊してしまう試合が続き、試合開始前の段階で2連敗となっていたレノファ。今節はメンバーを大きく入れ替え、半月板の負傷で離脱していた岸田和人を先発起用するなど5人を前節から変更した。

 メンバーを変えただけではなく、レノファは攻守両面での戦い方を整理。複雑になっていた部分をシンプルにし、先発した岸田を生かして得意とする裏を狙わせたり、守備では相手にボールを持たせる余裕を与えず昨季のようなハイプレスを仕掛けた。

「大宮は質の高い選手が揃っているが、五分五分のボールにすることで僕らにもチャンスが出てくる。そういう意味では前からプレッシャーを掛けるというのは決めていた。それが僕らの原点。それをやることによってもう一度自分たちの足元を見つめ直す試合にしたい」(霜田正浩監督)

レノファの先発布陣
レノファの先発布陣

 前節はフィールドプレーヤー10人の動きがまとまらず、間延びした時間が続いていた。試合前の取材では霜田監督だけでなく、選手も異口同音に「10人が同じ絵を描く必要がある」と話し、高い位置からプレッシャーに行くと同時に、二列目以降も連動してコンパクトさを保つことを確認。今節は前半からボールを前線で奪ったり、最終ラインがずるずると下がらずにオフサイドを取ったりと、一定のレベルで目に見える成果を挙げた。

 佐藤健太郎、池上丈二の先発で中盤にもボールを意図的に動かせる顔ぶれが揃った。ただ、岸田へのロングボールが途中でカットされたり、セカンドボールを回収できなかったりとうまくレノファのペースに引き込むことはできなかった。前半15分過ぎからは大宮の山越康平、奥井諒などのサイドアタックを受け、後退しながらのディフェンスで何度もセットプレーのチャンスを与えてしまう。大宮は大前元紀の安定したプレースキックなどをストロングに、セットプレーからの得点が多いチーム。レノファはGK山田元気を中心に確実に跳ね返したとはいえ、連続するセットプレーで耐える時間が長く続いた。

池上がピンポイントのFK。川井が先制弾

今季初先発の池上
今季初先発の池上

 セットプレーは前半30分頃までは間断なく続いたが、決定的なピンチを山田の好セーブではねのけると、同36分、逆にレノファが敵陣の右サイドでFKのチャンスを獲得する。

 この好機にボールをセットしたのが池上だった。池上は右距骨(かかと付近)の負傷で昨夏から戦列を離れ、3月末にようやく途中出場できるまでに回復。まだ万全とは言えないが、精度の高いキックを持ち味とする池上はこのシーンで長所を見せつけた。

 池上はディフェンスラインとGKの間をターゲットに右足を振り、果たして「狙い通り」(池上)にボールを落とし込んだ。タイミング良く飛び込んだのが川井歩で、池上のクロスに頭で合わせJリーグ初ゴールを奪取した。

FKに飛び込み、ゴールを決める川井
FKに飛び込み、ゴールを決める川井

「前節もああいうチャンスがあって外してしまっていたので、今日はチャンスがあったら決めきりたいと思っていた。うまくスペースに走り込めばボールは来る。池上選手はいいボールを蹴れるので、信じていた」。山口県岩国市出身の川井はそうゴールの場面を振り返り、起用に応えるゴールシーンを作った池上は「GKとディフェンスの間を狙っていこうという話はしていた。うまく歩が合わせてくれた」と19歳の初ゴールをたたえた。

 前半を1-0で折り返し、迎えた後半も気温は30度を超えていたが、レノファは前線から厳しくボールを奪いに行く。しかし、後半6分、センターバックのドストンが負傷し、最初の交代カードを意図しなかった事態に使うことになった。

 ただ、まだ時間は40分を残しており、レノファの攻撃スタイルは継続。直後には前貴之が鋭くミドルシュートを放ち、オフサイドにはなるものの、GKの弾いたこぼれ球から二次攻撃を仕掛けるなどゴールに迫った。

 ところが、前半同様に徐々にセットプレーを相手に献上するようになったほか、イージーミスに起因したショートカウンターも食らい、敵陣に進む回数が減少。耐えていたディフェンスにも緩みが出るようになり、大宮の選手交代とシステム変更から生じたズレも拡大した。

 ついに後半26分、奥井に背後への突破を許すと、数的不利のままクロスを送られてフアンマ・デルガドに同点弾を決められた。さらに同38分にはカウンターから崩され、小島幹敏に逆転ゴールを決められてしまう。

勝ち点をゼロから「1」に

 終盤で2失点を喫したレノファ。今季は失点するとメンタル面で持ち直せない試合が多く、逆転された段階で、「今までであれば負けていたゲーム」(霜田監督)になるところだった。

途中出場の田中パウロ。右サイドから仕掛けPKを奪取
途中出場の田中パウロ。右サイドから仕掛けPKを奪取

 難局で鼓舞する手を叩いたのは9試合ぶりの先発となった楠本卓海や交代出場した選手たち。同40分、前から途中出場の田中パウロ淳一にパスが渡り、さらに三幸秀稔を経由して、同じく途中からピッチに立った山下敬大がゴールを狙う。このプレーでゴールへの意欲がまだ残っていることを示すと、アディショナルタイムに入ろうかというタイミングで再び田中パウロが右サイドからドリブル突破する。シュートは打ち切れなかったが、「自分たちのボールを持っている時間を続けないと点を取れない」とペナルティーエリア内でボールを保持。そのままドリブルで駆け抜けようとして引っ掛けられ、PKの奪取に成功する。

 レフティーの田中パウロは自らボールを置き、GKの反応とは逆を突いてネットを揺らした。「(霜田監督が)点に絡むプレーを期待してくれていたし、どんなプレーでも全力でやってほしいといつも言ってくれている。試合に出るときも言ってくれたので、もっと頑張らなくてはいけないという気持ちで入った」(田中パウロ)。スタメンから外れながらも執念のゴールを見せ、スコアは2-2に。このまま得点は動かず、レノファは個の力に勝る上位・大宮から勝ち点1を得た。

前線からのディフェンスで勢いをもたらした岸田(右)
前線からのディフェンスで勢いをもたらした岸田(右)

 原点回帰という言葉が最も良く当てはまる試合だろう。前線からがむしゃらにボールを追いかけ、最終ラインも高い位置を保った。手にしたものが勝ち点3ではないのは残念だが、前線に人数を掛け、相手陣でプレーすることでセットプレーのチャンスを得た。複数得点はレノファらしく、もしかしたら前のめりになることによる複数失点も、レノファらしいのかもしれない。

 アグレッシブさというチャレンジャー精神を体現したのは言うまでもなく岸田だった。「ちょっとしたところからチームのために勢いを出したかった。前線もやっているから、後ろもやろうと思ってもらえるようなプレーをしようと考えていた。少しでもそういうように(周りの選手が)感じてもらえれば」。試合後も熱気にあふれた口調で語り、チームに本来の熱さをさらに求めた。

 もっとも、戦術面を見ていくとやはり大宮を相手に真っ向勝負は難しく、耐える時間が長く、ボールを意図的に保持できる時間は少なかった。30度を超える暑さによる疲労も決して看過できるものではなく、今後のさらなる改善は必要になってくる。

 霜田監督は「しっかり崩して決定機を作ることが今日はできたので、これは続けていきたい」としながらも、「行くときと行かないときをどうコントロールするか。自分たちがボールを持つ時間をどれだけ長くできるか」を課題に挙げ、レノファらしさの積み上げに意欲を示した。

ジャッジに揺れるも…

 この記事を締めくくるにあたり、チームの成否には直接関係しないが、試合を通してジャッジに関してレノファと大宮双方にストレスが溜まる場面があった点は付言しておきたい。ピッチを上から見たり、映像で見たりして感じるのではなく、選手やコーチングスタッフの視座に近いピッチサイドで写真を撮っていても、疑問を抱くシーンは他の試合に比べて多かった。

両指揮官がジャッジに疑問を呈した
両指揮官がジャッジに疑問を呈した

 試合後、高木琢也監督は「両チームともにジャッジに揺さぶられた部分があった」と話し、普段の試合では選手が苛立っても「切り替えろ」と声を掛ける霜田監督も、今日の試合では大きく手を広げて不満を示す場面があった。

 試合終盤で田中パウロがPKを得た場面は決して疑問を抱くようなジャッジではない。だが、似たような状況が大宮側に起きた直前のシーンをはじめ、ファールの基準は必ずしも前半から一定していなかったように見えた。

 こういう状況が起きるとVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)や追加副審などの先進制度を求める声も上がるだろう。ただ、制度以前の段階で、ジャッジ精度や審判団内のコミュニケーション、選手へのジャッジ理由の説明などが十分だったかは検証の余地がありそうだ。

 本稿でジャッジに関する私論を挟むのは避けたいと思うし、ジャッジには必ず理由があり、ファールを取る取らないに関わらず判定はリスペクトされなければならないという認識にあるが、疑心暗鬼が生じたまま試合を進めたり、結果的にもやもやが残るような試合にしないためにも、改善すべきところがあれば改善を求めたい。

 もっとも、スタジアムの空間を構成するのはチームや審判団、スタッフだけではなく、サポーターやメディアも90分間のエンターテインメントに責任を負う。選手を奮い立たせる声をもっと掛けられたのではないかと自戒を込め、こういう試合のあとだからこそ、もっとポジティブに次の試合に目を向けたいと思う。

 レノファは次戦もホーム戦。5月19日午後2時から、維新みらいふスタジアムで東京ヴェルディと対戦する。今節は原点回帰を図り、「ホームのサポーターに半歩だけ応えられた」(霜田監督)。むろん次に目指すは大きな一歩。上位相手に得た勝ち点1を自信に、勝ち点3を取りに行く。