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北九州の若手劇団、3日まで東京公演。人間らしさを詰め込んだ群像劇

上田真之介ライター/エディター
チラシからも「ブルーエゴナク」の不思議な世界観が伝わる

1年半ほど前に知人から勧められて観劇した北九州の若手劇団がある。「ブルーエゴナク」という、名前からして不思議な劇団。チケットを手に向かったのは小倉都心部の端っこにある小さなハコだった。

作品名もまたよく分からない。「悪者とオプマジカリアルテクノ」。何だ・・・? 不安ばかりを抱いて雑然とした通路を抜け、その先へ。繰り広げられていたのは荒削りのドタバタ感をそのままに、いくつものストーリーが複雑に重なり合う群像劇だった。――おもしろい。そう率直な感想を抱いた私はその劇団を追い続けることにした。いま例えてみれば恩田陸さんの小説「ドミノ」のようだと言えばいいのだろうか。場面転換の妙に惹きつけられ、時間が経つのも忘れてしまう。

その「ブルーエゴナク」が8月3日まで、新作を引っ提げ、東京北区の王子小劇場で初の東京公演を行っている。この週末、ちょっと現実離れ、浮世離れしてみたいならば、少しその世界を覗いてみてはいかがだろうか。東京公演を前に代表の穴迫信一さんら主要メンバーに話を伺った。記事としてまとめたので以下に紹介したい。

北九州だからこそ生まれた湿っぽさ

代表の穴迫信一さん
代表の穴迫信一さん

都市の持つ光と影を北九州の色眼鏡で見つめ、表現する若手劇団「ブルーエゴナク」。場面転換の多いリズミカルな作品が特徴的で、最新作「交互に光る動物」も4組のカップルが織りなす群像劇だ。劇団代表で演出家の穴迫信一さんは北九州市小倉生まれの23歳。笑いあり涙ありの湿っぽい人間ドラマに「北九州だから生まれた作品たち。ここの匂いや色が出ていると思う」と話している。

同劇団は2012年1月に旗揚げ。年2~3本程度の公演を北九州市小倉北区の小さなホールで行ってきたが、「同年代だけでなく中高年の方でもリピーターの方が増えている」(制作のチづるさん)と北九州の演劇好きの間でも少しずつ話題に。2013年にはツアー公演に挑戦し、今年は会場規模も拡大。最新作は北九州市八幡東区の枝光本町商店街アイアンシアターと福岡市の西鉄ホールで上演した。さらに初の東京公演も決定。8月の1~3日、東京都北区の王子小劇場で「交互に光る動物」を披露する。

東京公演用のチラシ。小倉北区で撮影した
東京公演用のチラシ。小倉北区で撮影した

穴迫さんが3週間で書き上げたという最新作「交互に光る動物」にも北九州らしさが織り込まれている。作品のヒントになったのも小倉の街中で見かけた人(おばさん)だ。とはいえ穴迫さんが表現したのは人間の持つ湿っぽさが凝縮した、空間としての北九州。観光案内のような地名の羅列も、カタコトのような方言も出てこない。北九州の人間模様から得たインスピレーションと情景だけを抽出して作品にした。「みんなが決しておしゃれではないし、不器用な部分もある。そういうところ」が登場人物のカップルたちによって表わされる。

群像劇。描き出される人間ドラマの交錯

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もっとも穴迫さん本人も奥深い魅力がある。小学生からラップに興じ、自宅にはたくさんの自筆ノートがある。最初の公演場所に選んだ場所もDJブースのある小さなホール。劇中の挿入曲も自作だ。一方でお笑いにも傾倒。コントもやっていたが、人間ドラマを描こうとしたときにコントに劇の要素を入れるのではなく、演劇をベースにお笑いや音楽を組み込むことにしたという。

脚本は先にキャストを選んでから作り込んでいくため、実は同じタイトルの舞台でも役者によって中身が変わってくる。「交互に光る動物」も北九州公演と東京公演では役者の入れ替わりがあり、少し手が加えられているという。

4組のカップルが付かず離れず繰り広げる群像劇。穴迫さんは「主役が誰か分からないのが好き。どこに感情移入していくかは見る人に委ねている」という。ステージも大きなセットは組まず、舞台上にはいくつかのイスがあるだけ。セリフや役者の持つ小物や衣装が手がかりとなるだけで、イスの周りはコンビニだったり街角だったりと変化する。「想像力に任せる部分はあるが、そういう転換ができるのも魅力」と、スモールスケールの舞台にこだわりを見せている。

北九州の目線で人間の湿っぽさを描き出すブルーエゴナク。「日常と事件の狭間のエレクトロ群像劇」ともサブタイトルが付けられた東京公演は8月1~3日。北九州発の若手劇団が放つじめっとした人間ドラマが東京の小劇場で繰り広げられる。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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