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GLAY通算60枚目のシングルにTAKUROが込めた平和への願い

内田正樹ライター 編集者 ディレクター
(GLAY。写真提供:(C)loversoul)

■通算60枚目のシングルをリリース

GLAYが9月21日に通算60枚目となる4曲入りシングル『Only One,Only You』をリリースする。

〈くだらない夢想に巻き込まれて 歴史の闇が顔を出す〉

という歌い出しから始まる表題曲の「Only One,Only You」は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けてギター/リーダーのTAKUROがリリックを書き下ろした一曲だ。この曲に乗せた戦争や平和への思いとは? そして60枚目を迎えたシングルリリースへのモチベーションとは? TAKUROに聞いた。

(『Only One,Only You』ジャケット。写真提供:PONY CANYON)
(『Only One,Only You』ジャケット。写真提供:PONY CANYON)

■「今この問題を歌わずして何を歌うんだ?」

TAKURO:今回の侵攻が始まった頃、ロサンゼルスの自宅でニュースを観て、心底から憤りを覚えました。元々9月に何かしらの作品をリリースするつもりだったんですが、すぐに「今この問題を歌わずして何を歌うんだ?」と思いました。今回のロシアのウクライナ侵攻は、やはり過去の事件との類似点も多い。独裁者のやり方というのは千年経っても変わらないんだな、とか、改めて自分なりに歴史を見直しながら、リリックの視点を、被害者なのか、加害者なのか、はたまた傍観する第三者のものにするのかと考えました。

(GLAY「Only One,Only You」オフィシャルMV)

そこでTAKUROは若い兵士、特にロシアの若い兵士をイメージした。リリックにはこうした生々しい描写も綴られている。

〈きっと訓練とは違うだろう 思う様にはいかないだろう〉

〈自由とは何かと問われて すぐに答えれる自分でいろ〉

〈それでも僕らは息を殺し潜んでる やりたくはないがそれが正しいと教えられた〉

TAKUROロシアの若い兵隊さんたちは自分たちがやっていることを一体どう思っているのだろうかと思いを巡らせました。このインターネットの時代、恐らく情報統制も北朝鮮ほどではないとすると、例えば20代の兵士なら20年間洗脳されていて自分の行為を全て正当化できるという時代でもないだろうし。自分が撃った銃やミサイルの一発がどういう結果を招くのかということに対して、実は苦悩や躊躇といった自問自答の中で喘いでいるんじゃないのかと。例えばアメリカ独立戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦における戦争行為と現在のような情報社会になった21世紀における戦争行為とでは、若者の心構えも異なるのではないか? 国や軍隊、部隊への忠誠心はあれども、気持ちとしてはどの国の若者ももっと平均化しているというか、本心ではもっと善悪が分かっているんじゃないか? そんな自分なりの仮説のもと、21世紀の戦争における若者たちをテーマにリリックを書きました。

(TAKURO。写真提供:(C)loversoul)
(TAKURO。写真提供:(C)loversoul)

■身近な痛ましい出来事に鈍感になってはならない

今年3月、TAKUROは今回の紛争を受けて日本赤十字社に1000万円の寄付を行っている。彼はかねてからロシアとウクライナへの興味を強く抱いていたという。

TAKUROGLAYの故郷の北海道・函館はロシアというか旧ソ連南部とゆかりがあって。僕らの函館の仕事場の周りにもロシア料理やウクライナ料理の店や領事館があったんです。向こうへ行ったことのある知人からも10年ほど前から「ロシアの音楽シーンって結構熱いんだよ?」と、よく聞かされていたので、一度行ってみたいと思っていました。

リリックの終盤では

〈いつかまた会おう 瓦礫の街に花戻る頃 未来誓った者同士〉

という描写で、紛争の集結する日に思いを馳せている。

TAKURO:いまも酷い状況ですが、ベトナム戦争後の兵士の精神的な負担や病の重さが証明している通り、いつか紛争が終結した後の恐ろしい事態も予想出来る。92年のロス暴動にも近年の暴動にも似たような構図を感じましたが、マクロな人類の話も大事だけど、人一人が怪我をするとか死ぬということは、誰かの子であり夫かも妻かも兄弟かも大切な人かもしれない人が傷つき亡くなるということなんです。極めて自分の身近に関係する痛ましい出来事になるということに、人は決して鈍感になってはならないと思うんです。

(TAKURO。撮影:岡田裕介。写真提供:(C)loversoul)
(TAKURO。撮影:岡田裕介。写真提供:(C)loversoul)

■GLAYの姿勢、TAKUROの夢

2001年にはTAKURO個人として坂本龍一が中心となった地雷排除活動「地雷ZERO」に参加し、同プロジェクトから生まれたチャリティーソング「ZERO LANDMINE」でギタリストを務めた。またGLAYのナンバーにも「ALL STANDARD IS YOU」、「CHILDREN IN THE WAR」など戦争や平和について歌われた曲が数多く存在する。

TAKURO:たぶん9月21日にリリースされるシングル作品で、戦争を扱った曲なんてほとんどないと思います。でも、誰も歌わないからこそ、ロックバンドの原点に立って、声を大にして言いたいことも、小さな思いも、全て大きな音で歌いたい。あとは人への興味ですね。3分のパーティソングではどうしても描き切れない、極めて不合理で全く説明のつかない、可視化や数値化の出来ない人間の業みたいなものを思う時、今回のような曲が生まれます。日本語という不自由な言語を使って、分かり合えない人たちを何とか結び付けたいと思ってしまう。難しい仕事だけど、きっと自分には何かしらの役目があってこの音楽の世界に居させてもらえているのだろうから、そこには常にトライしていたい。

その原動力には彼がデビュー当時から抱き続けてきたGLAYの姿勢と自身の夢がある。

TAKURO僅かな力でも議題を机に上げる役を担いたい。それはGLAY結成以来の一つの大きな課題でもある。もしもGLAYの曲が誰かの心の殻を破ったり、誰かの勇気を後押しすることが出来たなら。巡り巡って、いつかその先にあるかもしれない何らかの悲劇を食い止められる行為に繋がるかもしれない。そう期待しているし、そんな期待を僕はきっと死ぬまで持ち続けるのだと思います。

(今夏のファンクラブ発足25周年記念ツアーから。撮影:岡田裕介。写真提供:(C)loversoul)
(今夏のファンクラブ発足25周年記念ツアーから。撮影:岡田裕介。写真提供:(C)loversoul)

■シングルはショートムービー、アルバムは長編大作

今回の「Only One,Only You」はGLAYにとって通算60枚目のシングルとなった。CDバブル(1997年)を迎える直前の1994年にデビューしたGLAYは、これまでに「HOWEVER」、「誘惑」、「Winter,again」(※この3作は全てミリオンセラー)など数々のヒットシングルを世に送り出してきた。

(GLAY「HOWEVER」オフィシャルMV)

(GLAY「誘惑」オフィシャルMV)

(GLAY「Winter,again」 THE FIRST TAKEより)

TAKURO:多くのリスナーの方々に長年ヒット曲を愛聴していただけているのは本当に有り難いこと。でもヒットした曲がそれ以外の曲よりも優れているとか特別だと思ったことは一度もないんです。たとえば「Yes,Summerdays」(※日本レコード協会ゴールドディスク認定)は宝飾ブランド、「Winter,again」はJR東日本と、どちらのヒットも当時のCMタイアップやスタッフの努力に助けられたおかげ。「ヒットは総合的な要素から生まれる」という一つの回答を20代のうちに得られたことで、自分の技力に懐疑的になることもなく何とかここまで来られました。

CD不況を経てストリーミング隆盛の昨今、コンスタントなシングルリリースを行わないベテランアーティストも多い。しかしTAKUROは「今後も許される限りリリースし続けたい」と語る。

TAKUROシングルはショートムービー、アルバムは長編大作みたいなもの。バンドらしい営みとしても、いまそこに歌いたい思いがある以上、テーマの大小に関わらずシングルは切り続けていきたい。昔も今も、アーティストがシングルを切る時ってどこかで「シングル級の曲でなくては」とか「キャッチーでなくては」と考えがちになる。でも僕はそこにあまり拘らない。それよりも音楽を続けながら、メンバーやスタッフと一緒に登山でもするように、長い道のりも、険しい坂も、楽しく歩いていくことに力を注ぎたい。

■人間らしさをさらけだすGLAYでいたい

あくまで自然体で音楽に臨み、無理はしない。この姿勢が近年のGLAYを支えているとTAKUROは笑う。

TAKUROそもそも人生なんてしょうもない場面だらけだし、人間の心臓だって、おだやかな動きの時もあれば速く脈打つこともある。調子が悪くて停滞してしまう場面だってあるでしょう? いつも同じテンションを維持して、ずっとシリアスな顔をしながら気障な台詞ばかり言ってはいられないし、作家としてもそんな重圧は耐えられない。そういう人間らしさもGLAYはシングルやアルバムでさらけ出していきたい。たとえレコーディングで調子が出なくても無理して自分たちを追い込まず、時間が来たら家に帰ってそれぞれの時間を大事にした方がいい。何かが上手く行かなくてもあまり落ち込まず、「じゃあ61枚目は、62枚目のシングルはこうしようよ?」と、みんなで酒でも飲みながらわいわいと話し合う方がよっぽど建設的ですよ(笑)。そういう文化祭的なノリもまたGLAYらしさなんです。

(今夏のファンクラブ発足25周年記念ツアーから。撮影:田辺佳子。写真提供:(C)loversoul)
(今夏のファンクラブ発足25周年記念ツアーから。撮影:田辺佳子。写真提供:(C)loversoul)

今夏、GLAYは大阪・仙台・幕張でファンクラブ発足25周年記念ツアーを展開し、のべ6万4000人のファンを動員した。またこのツアーでメジャーデビュー以降のライブ通算1000公演も達成した。今年10月からは2002年にリリースされた7枚目のアルバム『UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY』の収録曲を全曲披露するホールツアーも予定している。さらにメジャーデビュー30周年を迎える2024年にはイタリア・ベネチア公演も計画中だという。

TAKURO:いつか死ぬ間際にメンバーと「一緒にやれてよかった」、「GLAYに誘ってくれてよかった」と互いに言い合えたら十分お釣りが来る。そんなバンド人生の全うを目指したい。

軽快かつグラマラスなロックや切ない恋心を歌うラブソングを奏でる一方で、時世についてリアクションをし続けるミュージシャンとしてのスタンスをも維持し、共に集い歩むバンドマンとしての悦楽も忘れないGLAY。自分たちの歩幅で前進を続ける彼らの今後に注目したい。

GLAY 60thシングル特設サイト

GLAY 公式サイト

GLAY 公式 YouTube

GLAY 公式Twitter

ライター 編集者 ディレクター

雑誌SWITCH編集長を経てフリーランス。音楽を中心に、映画、演劇、ファッションなど様々なジャンルのインタビューやコラムを手掛けている。各種パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/ディレクション/コピーライティングも担当。不定期でメディアへの出演やイベントのMCも務める。近年の執筆媒体はYahoo!ニュース特集、音楽ナタリー、リアルサウンド、SPICE、共同通信社(文化欄)、SWITCH、文春オンラインほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』などがある。

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