Yahoo!ニュース

エルフの「居場所」はここにある あるいは、賞レースのネタの影にビスブラ原田あり

てれびのスキマライター。テレビっ子
(提供:イメージマート)

12月9日に開催された女性芸人ナンバー1を決める『THE W』(日本テレビ)。

今年は、5回目の決勝進出となる紅しょうがが圧倒的なパワーでなぎ倒すように優勝を果たしたが、全体的にも年々レベルが高くなっているような印象がある。

死のグループ

中でも今回の「Cブロック」は激戦だった。

まず、「初代王者」でもあるゆりやんレトリィバァが「エアハムスターショー」なるシュールなネタを披露。それにバカバカしさの極地のようなネタで対抗したのが、あぁ~しらき。この異次元の対決に「どっちも負けっていうのはあるんですか?」と笑う麒麟・川島を含め審査員一同が頭を抱えた。結果、しらきが王者を破るアップセット。

そのしらきをかわしたのは、ぼる塾。酒寄が“復活”し4人体制の「完成形」となった彼女たちは、カルテットならではの漫才で勝ち残る。

そして、最後に登場したのがエルフだった。2年連続の決勝進出。すでに荒川は「ギャル芸人」としてバラエティ番組に引っ張りだこの存在だ。そんなキャラクターそのままの、すべてを肯定するかのようなコントは特に心に残るものだった。

そのコントの前半はこんな展開だ。

久々に実家に帰ってきた荒川演じる姉。引きこもり状態の高校生の妹・はるを両親ともども心配している。
「こっちだって色々あんねん!ほっといてや!」
と反抗的な妹に「ホンマに私の妹?」と戸惑う姉。
たまらず妹の部屋を覗くと「ポテポテー!」と意味不明なフレーズを叫びながら生配信をしているらしい妹の姿が。
ここでツッコんでもおかしくないが、姉は嬉しそうに言う。
「パパー、大丈夫そう!あの子は実質、外出てるー!」
スマホでそのまま妹の配信を見ている姉。
そこで妹が寄せられたコメントに対し語りだす。
「私、学校が嫌いっていうか、居場所がないっていうか。でもこんなネットばっかやってたらダメですよね…」
それを聞いた姉は思わず部屋に入って行き言うのだ。
「別にええやん!自分が楽しいなって思える場所、1個でもあったら、それが居場所やん!

荒川がギャル芸人になるまで

そんなコントを生み出したエルフ荒川だが、お笑い芸人に憧れてNSCに入った当初は、そこに“居場所”はなかった。

尖りに直面し「ひどい……なんでそんなん言われなあかん……?」とキツい思いをしたという。

荒川:「さむい」とか「自分のこと面白いと思ってしゃべってくんな」とか「おもんない」とか、ほかの人に対しても「あいつ、おもんないよな」とか。みんな明るい人ばかりやと思ってたから、そんなん別にいいやーんみたいな。でも、今となってはそこがいいところなんだろうなって思ってます、 明るい人ばっかりだったら面白くないから。
(『OWARAI AND READ』vol.4)

NSCの「相方探しの会」で、普通なら憧れの芸人などのお笑いの話をする中、ひたすら「妹がめっちゃかわいい」と話している荒川を見て面白いと思ったはるが荒川を誘いコンビを結成した。

しかし、結成当初、荒川は芸人としての型に従うようにギャル語を“封印”していた。

はる:だって最初、謎の超ネクタイつけてたりしましたもん。見た目は金髪やのに。荒川的にはたぶんどこかでそうしたらあかんと思っていたというか。
(『OWARAI AND READ』vol.4)

ギャル全開のキャラで行こうと決めたのはある先輩のトークライブに出たことがきっかけのひとつだった。そこで試しにいつものギャルのノリで話したらウケたのだ。そこからネタでも取り入れるようになった。そんな荒川を肯定してくれたのが蛙亭・イワクラだった。

荒川:蛙亭のイワクラさんが「いや、面白いよ」って言ってくださって、それで心が落ち着いたんです。そのころはお笑いナメんなみたいな感じで言われることが多くて、「え~、私もお笑い好きやのに~!リスペクトあるのに~!」って思っててもそれが伝わらなくて。でも、イワクラさんは「荒川は時間かかるけど、絶対みんなわかってくれるから」って言ってくださって、私はその言葉のおかげで生きていけました。
(『OWARAI AND READ』vol.4)

ギャルを全開にしたことでお笑いの世界が彼女の“居場所”になったのだ。

オチを生んだビスブラ原田の助言

エルフは『THE W』の2日後の11日、自身のYouTubeチャンネル「エルフのギャルJAPAN」で準優勝に終わった本大会を振り返る動画を更新した。

はるは、「1本目のコントがめっちゃ楽しかった」と言う。

最初は緊張して手が震えたが、最初に「ポテポテー!」と言った瞬間に最前列の女性客が崩れ落ちているのが見えて「伝わった」と感じた。それが勇気に変わり、そこから楽しくて楽しくて仕方なかったという。

また、実はこのコントで特に印象的だったオチは、大会直前に生まれたものだったことが明かされる。

荒川: 名前出していいかわからんけど、先輩に「お父さん、あそこまで重要人物やったら最後おってほしいけどな」って。「いや、そうなんですよ…でも……あそこにおるし、時間もあとちょっとで…そうなんですけど、どうしよ?」みたいな。それでなんかネタ試す時に(思いついて)じゃあこれ1回やってみようかで笑ってもらえたから。ビスブラ原田さんなんですけど。

ちなみに、荒川に助言したビスケットブラザーズ・原田は、他の賞レースのファイナリストにも的確なアドバイスをして、ネタをブラッシュアップさせている。

たとえば今年の『R-1グランプリ』で優勝した田津原理音のカードゲームネタに対して。

田津原「最初はフリップ(サイズのカード)やったんです。でっかいカードでやっていたら、ビスケットブラザーズの原田(泰雅)さんが『本物のカードを作った方がいいんじゃない』と言ってくださって、“ほんまにそうや!”と。趣味がカメラなのでPhotoshopもいじれるし、イラストも描けるので、一回やってみたら周りの芸人の反応が良くて、“これでいこう!”と。それが5月くらいです」
WEBザテレビジョン

さらに今年の『キングオブコント』ファイナリストの隣人のネタも。

中村: 原田(泰雅)さんから「5分間の中で、こいつら(キャラクター)の過去とか、未来が見えるコントって強いで」って聞いて「なるほどな」と思ったんですよ。それまではその(ネタの)5分しか切り取ってなかったんですけど、過去と未来を勝手に想像したら、自ずと出る言葉もあって……。それから結構ガラッと変わった感じがしました。
FANY Magazine

『THE W』は「人生」

荒川は前述の動画で今大会をこう振り返っている。

荒川: ほんまにしんどすぎて、この1年間。仕事とネタと賞レースみたいな。なんかこれ意味あんのかなみたいに思ってたけど、あの日でほんまになんか、言葉合ってるかわからんけど、報われた。間違ってなかったのかなってめっちゃ思ったし。こう元気になってもらいたいなと思って芸人になったから、あ、夢が叶った!って感じ。

そして大会前の記者会見で「Wは人生」と発言し、微妙な空気にしてしまったことを反省しつつ、ピンネタから漫才、コントまで同列に戦う『THE W』の特異性に触れつつこう続けた。

荒川:でも私はほんまにそう思うねん!マジで人生のぶつかり合いやと思うねん。(略)
「私たちはこうやって今ここにいます!」みたいに思えてきて、「青春すぎな、W!」と思ったもん!

大会後、荒川はSNSに「今の自分達の全てをぶつけた日でした」「みんなの居場所はここにある」と投稿した。

ちなみに、1本目のコントのタイトルは「居場所」だ。

Huluで配信された「大反省会&最速フィードバック会」では、「浜崎あゆみさんみたいになりたくて、自分の気持ちをネタに入れるっていうのを心がけてるので」と堂々と語っていた荒川。

そのネタは彼女たちの思いが詰まったものだった。

2本目の漫才の冒頭には、賞レースで絶対にやりたかったという「ギャル占い」を披露した。

その占いの“結果”はこうだ。

今日の運勢1位は~、生きてるみんな全員ー!!

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

てれびのスキマの最近の記事