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松本人志からの「M-1審査員やらへんの?」という問いに「やらないですよ!」と答えた太田光の真意と信念

てれびのスキマライター。テレビっ子
爆笑問題・太田光(写真:つのだよしお/アフロ)

10日に放送された『FNSラフ&ミュージック』(フジテレビ)第1夜で松本人志と爆笑問題が再共演を果たした。

(参考:証言・ダウンタウンの“伝説の漫才” 爆笑問題・太田はどう見たのか?

松本人志と太田光とのやり取りの中でこんな会話があった。

松本「俺も太田に聞きたいことあんねん。『M-1』の審査員とかやらへんの?

太田「やらないですよ! 審査員なんてできないですもん。またどうせボケちゃうし。こういう空気になっちゃうし。絶対我慢出来ないもん。1点とか入れちゃう。俺、ジョーカーと上手くやっていく自信ない

田中「上沼恵美子さんのことジョーカーって呼ぶのお前だけだから!

(※『FNSラフ&ミュージック』フジテレビ、22年9月10日より)

太田が「ジョーカー」と名前を伏せてボケているところにすかさず田中がツッコミを入れつつ補足する“悪さ”も爆笑問題らしいが、ここでやはり注目すべきは松本人志が太田に“公開オファー”ともいえる投げかけをしていることだろう。もちろん、これは太田の漫才師としての実力を認めているという証明に他ならない。

太田光のポリシー

だが、太田は「審査員」は絶対にやらないと事あるごとに語っている。

たとえば、先日も『爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ、22年5月17日深夜)で、おぼん・こぼんから漫才コンテストの審査員のオファーがあり断ったことを明かしていた。その際も「お笑いの評価はしたくない」「俺は審査員やらない主義だから」とその理由を語っている。

また、1月25日深夜の同番組ではとろサーモン・久保田から「巨人師匠も抜けたし、上沼さんも抜けたし。太田さん、審査員の話は来ないんですか?」と聞かれたエピソードを語り、「来ないよ、俺のところなんか。来るわけないじゃん」「もしやったら、2点とか出すから」「だって、俺がボケたいもん。俺の方がウケたいもん」「俺と出場者の勝負だから、もし俺が審査員だったら。で、俺が優勝するから!」と答えて「絶対やるなよ、M-1審査員。断れよ、お前!」と言われたと笑って話していた。

そんな太田が真剣にそのポリシーの真意を語ったのが『林修の初耳学』(MBS/TBS、22年1月23日)だ。そこで太田は次のように言葉を選びながら話していた。

「お笑いの審査員なんかもね、僕はやらないんです。それは笑いにセオリーはないと思ってるから。

そういう意味でいうと『M-1』なんかは基準があるわけでしょ。あそこには松本さんがいて上沼さんがいて巨人師匠がいて、あの人たちの決める基準がひとつの尺度になっていることは確かかもしれない。だけど、本人たちも『なんでもアリ』だと思っているはずだと俺は思うのね。自分の意見ですよってことであそこに参加してると思う。わかんないですよ、聞いたことないから。

マヂカルラブリーの漫才の時に(視聴者の一部が)『あんなものは漫才じゃない』ってなったじゃん。でもさ、俺から言わせると漫才の歴史はたかだか戦後から。伝統芸でもなんでもない。たとえば、落語、講談、浪曲なんていうのは、明治あるいは江戸時代からあったのかな。ずーっと伝統があって型がありますよ。それに入らなかったのが漫才。つまり『色物』。寄席で色物っていわれたのは、漫才、マジック、曲芸。漫才はその中の1つのジャンルでしかないから伝統も何もないんですよ

マンザイブームでさらにその伝統はぶち壊されたんですよ。

いわゆるバランスの悪い漫才なんですよ。ツービートとB&B、ザ・ぼんち、のりお・よしお師匠、誰一人、バランスのいい漫才はいないんですよ。だってそれまでの定番の漫才を崩した素人芸だったから、我々は食いついたわけですよ。ただ面白いことを言う。特にツービートはそうですよね。たけしさんが1人でだーっと面白いことを言って、きよしさんは『よしなさい』って言ってるだけだから。ぼんちのおさむちゃんなんかヒドいですよ。俺らが司会でぼんちさんが出たことがあるんです。持ち時間5分ですよ。『おさ、おさ……おさ、おさ、おさ』って言ったままCM行っちゃったんだから(笑)。『おさむちゃんです』って言えないんだよ! 5分に収まんない。あんなもん漫才でもなんでもない!

マヂカルラブリーなんてよくできてるほうですよ。だから今は視聴者のほうが『漫才はこうあるべき』みたいなことを決めちゃってるみたいなことはもしかしたらあるかもしれないです。いわゆる形にこだわるんです。ツッコミはこうしなきゃなんない、ボケはこうだっていうのを視聴者は知っている。つまり漫才が学問になっちゃった。でも残っていったのはそれを崩していった人たち

(※『林修の初耳学』MBS/TBS、22年1月23日より)

同様のことは「Yahoo!ニュース特集」で筆者がインタビューしたときにも語っていた。

「コンテストのおかげでテレビに出れた自分が言うのもなんだけど、副作用がある。視聴者も含めて全員が批評家になっちゃう。今回も『人を傷つけない笑い』とか言われちゃって本人らもキツいだろうなって。お笑いが、そんな分析されてもなっていう。ナイツの塙(宣之)が、M-1に勝つにはこうするべきだみたいな『言い訳』って本を出して。あんなの出すなよと俺は思うけれども(笑)。みんな若手があれを教科書みたいにして、マニュアルみたいになっちゃうとつまんないじゃん。実際、ナイツ自体は全然あんなのに沿った漫才をしていないからズルいよね(笑)。俺はやっぱりお笑いはなんでもアリだと思ってるから

視聴者も残酷な面があって、勝ち負けで見たほうがより面白いというのもあるし、そこに懸けている若手もいっぱいいるから必要ではあるんだけど、『こういうものがいい笑いだ』というのはまるでないと思うので、審査員はやらないですね

(※「人の違いを面白がれない、そんな殺伐としたものになっちゃっていいのかな」――爆笑問題・太田光が憂う、笑いのガイドラインより)

太田の「笑いは審査するものではない」という強い信念を感じる。

だが、実際、太田が言うように、たとえば松本も「なんでもアリ」だと考えている。

松本「漫才の定義っていうのは基本的にないんですよ。定義はないんですけど、定義をあえて設けることでその定義を裏切ることが漫才なんですよ。だから定義はあえて作るんですが、これは破るための定義なんですよ」

(※『ワイドナショー』フジテレビ、20年12月27日より)

その上で審査をしているのだから、「笑いにセオリーはない」という考え方と決して矛盾するばかりではない。

太田光の変化

太田の信念はなかなか揺るがない。けれど絶対に変わらないかといえばそんなこともない。

太田は、ずっと「テレビ」にこだわり続けてきた。けれど、昨年筆者が行なった『Quick Japan』(Vol.156)のインタビューではその考えを柔軟に変えている。

太田「たとえば俺らがずっとやりたかったコント番組みたいなものは、今まではTVで枠を取って、いちいち企画書出してってやって、ずっとはねられてきたけど。もしかしたら今は、YouTubeとかで、タイタンで勝手にはじめちゃっても成立するのかなって気はしてる。一個セット組んじゃえば、そこで毎週、なにかしらコント撮ったり。それをある程度支持する人がいれば、それはそれでいいんだろうなっていう。昔はゴールデンで視聴率20パーセント取んなきゃって思ってたけど、そうでもなくなってきてるなって

――「純粋な混じりっ気のないコント番組がやりたい」と前からおっしゃってたと思うんですけど、それがTVでなくてもいいと。

太田「今までずーっと俺はTVにこだわってたんだけど、いろんな入り口ができてるから。それこそもしかしたらYouTubeなんかでお笑いができちゃう時代になるのかなって」

―― そうした考えはちょっと前までは持っていなかったと思うんですけど。

太田「そうそう、最近だね

(※『Quick Japan』Vol.156より)

実際、爆笑問題はつい先日、コントを披露するYouTubeチャンネル「テレビの話」を立ち上げたのだ。

未来はいつも面白い

太田光は色紙に「言葉を書いてください」と言われると、「未来はいつも面白い」と書くという。

これは実は『みつばちマーヤの冒険』っていう童話があって。蝶々がいる。蝶はいっつも脳天気に「あーー」って楽しんでるわけ。マーヤは「お前、なんでそんなに楽しそうなの?」って。

そしたら蝶々「だってこんなに楽しいこと無いじゃん!」言い続ける。「だって僕、この間まで芋虫だったんだよ」って言うわけ。「それがこんなになったんだぜ」

だから絶対楽しいんだと。生きてることは楽しいんだと。「みんな僕をバカにする」って言うわけ。「みんなバカにするけど、いっつも僕は生活のことを考えてる」

生活のことって何考えてるのかって言ったら「未来はとても面白い」と。

ていうのはなぜかというと「僕は芋虫だったのにこんなふうに変わった。だからこの先ももっと凄いものに変われる

蝶々はそれ以上変わらないけど、蝶々はそれを信じてるわけ。

未来はとても面白い」って言うんだ。

で、僕はその言葉を気に入って何か色紙に書いてくださいって言われたら「未来はとても面白い」って書くようにしてたの。

ある学校で卒業式があって「爆笑問題さんから色紙を頂きたい」っていうから僕はそこに「未来はとても面白い」って書いたんですよ。そんなのを書いて忘れてたんですけど、その卒業式の感想みたいなのが何かの新聞か何かに送られてきて、そこに「今日の爆笑の言葉最高だったよね」って書いてあったんですよ。

『未来はいつも面白い』って最高だよね」って。

でも俺が書いたのは微妙な違いだけど「未来はとても面白い」だったの。でも彼女には「未来はいつも面白い」に変わったんだ。「未来」と「いつも」ってさ、噛み合わないじゃん、文法的には。でも「未来」は「いつも」面白いのほうが言葉としていいな、って思ったわけ。

俺が『みつばちマーヤ』から取ったその言葉が、俺がそれを書いたことによって、未来にちょっと変化した、そして俺にとってとても面白い言葉になったっていうのはまさに「未来はいつも面白い」ってことがこの場で起きたって。

(※『爆笑問題の大変よくできました!』テレビ東京、11年9月9日)

それが太田の座右の銘になった。

太田は正式に『M-1』審査員のオファーがあったとしてもきっと引き受けないだろう。

けれど、上記の発言の数々でも自明のとおり、屈指の理論派であり、しかも現役で漫才をやり続けている。これ以上の適任者はいない。

もちろん、審査コメントではボケ続け顰蹙を買うに違いない。けれど、点数にかんしては生真面目につけてくれそうな予感もある。

未来はいつも面白い――。

太田の信念に変化が訪れ、松本人志と太田光が審査員席に並ぶようなあっと驚く面白い未来がいつかやってきたら。そんな想像をするだけでワクワクしてしまうのだ。

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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