オダギリジョーは「謎の男」である
朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK)では深津絵里演じる2人目のヒロイン・るいとオダギリジョー扮する大月錠一郎(通称「ジョー」)との年齢不詳な2人の瑞々しく微笑ましいやりとりが話題となっている。
このオダギリの役柄について、出演が発表された際、以下のように報じられた。
そう、「謎の男」である。
劇中では「宇宙人」とも形容されているが、オダギリジョーを一言で形容するなら「謎の男」という言葉が思い浮かぶ。
事実、彼は意外なほどメインキャスト以外での出演も多いが、その出演を報じるニュースでは上記同様、「謎の男」と伝えられていることが少なくない。
近年でいえば、たとえば『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年、フジテレビ)。第6話にサプライズで登場した後のニュースではこのように書かれている。
『深夜食堂』シリーズ(2009年~、TBS)では、警官役を演じる一方で、謎の男・カタギリを演じている。
さらに子供向け音楽教育番組『ムジカ・ピッコリーノ』(2016年~、Eテレ)にも自ら志願して出演。やはり役どころは「謎の男」のドクトル・ジョーだった。
『ムーミン』のスナフキンのようにどこからともなく独特な風貌と雰囲気であらわれ、なにか心に刺さる印象的な一言を残し去っていく。そんな役柄が多い。
加えて上記のように「カタギリ」だとか「ジョー」など、「オダギリジョー」の名前を思わせる役名が少なくないのも特徴的。それは当て書きされたキャラクターで起用される所以だろう。
今回の『カムカムエヴリバディ』のジョーも、オダギリが出演を決めた経緯をこう語っているように、やはり当て書きのようだ。
それだけ彼の個性が異質で際立っているということだ。
黒歴史
『カムカムエヴリバディ』でオダギリ演じる20代のジョーの言動を見ていると、彼がかつて演じた「飄々とした能天気な性格で、変わり者」で、どこか影のある好青年・五代雄介をどうしても思い起こしてしまう。オダギリジョーを最初に世に知らしめた『仮面ライダークウガ』(テレビ朝日)の主人公だ。
この作品はオダギリにとってだけでなく、テレビ史にとっても大きなターニングポイントになった。彼が『仮面ライダー』シリーズでブレイクしたことで特撮ヒーロードラマが本格的に若手俳優の登竜門的な位置づけになったのだ。
だが、一時はこの作品をオダギリにとっての「黒歴史」と見る向きもあった。
オダギリの略歴に『クウガ』が載っていないことがあった(デビュー作でもないため省略された)り、ヒーローものが嫌いといったニュアンスのことをインタビューなどで公言していたためだ。
何しろ『クウガ』の前年の戦隊ヒーロー『救急戦隊ゴーゴーファイブ』(テレビ朝日)のオーディションに参加した際、「僕が、俳優の勉強をしているのは、リアルな芝居をやりたいためであって、『変身』とか、『ヒーロー』とか、そういうものになるつもりはありません」ときっぱり言い放ってつまみ出されたというエピソード(『高寺成紀の怪獣ラジオ』15年10月30日)もあるくらいだ。
しかし、そうしたオダギリの意識と、それまでの『ライダー』シリーズを「壊して」新しい『ライダー』像を作りたいという『クウガ』のプロデューサー・高寺成紀とか運命的にマッチし、リアリティを追求した新しい『仮面ライダー』を創造し、大人のファンも魅了する「平成仮面ライダー」シリーズが生まれたのだ。
ちなみにオダギリは高寺を「リーダー」と呼んで慕い、彼が東映から角川に移籍後初めてプロデュースした『大魔神カノン』(2010年、テレビ東京)の最終回にずっと「謎」のままだった主人公の兄・巫崎フーガ役で特別出演している。そのため「黒歴史」などと呼ぶのはナンセンスなのだ。
2004年には三谷幸喜脚本の『新選組!』(NHK)で大河ドラマデビュー。特撮ヒーローから大河ドラマへという昨今の若手俳優の“出世コース”の先鞭をつけたともいえるだろう。
オダギリジョーの演技論
映画・ドラマに出演する彼は常に“異質”な雰囲気を醸し出している。だからこそ「謎の男」がよく似合う。その一因は彼の一風変わった「演技論」にあるのではないか。
オダギリが最初に演技を学んだのはアメリカだった。映画監督志望だった彼は高校卒業後、母に懇願しカリフォルニア州立大学フレズノ校に留学。監督養成コースを志望していたが、願書の記入ミスによって俳優養成コースに入り、2年間演技を学ぶことになる。その変わった経歴がいかにもオダギリジョーらしい。その後も、日本の名監督たちだけでなく海外の監督の演出を受けて彼なりの演技論を身につけた。
よく俳優は「役になりきる」ことが是とされるが、オダギリは「役になりきる」という言葉を「あんなの勘違いですよ」と笑って否定する。
そう考えているからこそ彼は受け身には決してならず新しいフィールドに挑戦し続ける。
そんなオダギリが30歳になった年に出演したのが『時効警察』(テレビ朝日)だ。
『帰ってきた時効警察』、『時効警察はじめました』とシリーズ化した作品だが、オダギリ自身の大きな変化といえるのが、2007年の『帰ってきた~』の第8話でオダギリが脚本・監督を務めたことだ。
この時期からオダギリは作り手志向も強めていく。
2009年には小学生時代の同級生である次長課長・河本準一を主人公に抜擢した『さくらな人たち』を制作。さらに2019年には初の長編映画『ある船頭の話』を制作し、第56回アンタルヤ映画祭・国際コンペティション部門の最優秀作品賞などを受賞した。そして2021年、オダギリが脚本・監督を務めた上で自身も「犬」として出演した『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』はNHKで連続ドラマとして放送され、ギャラクシー賞月間賞を受賞した。
オダギリジョーは、画面の中だけでなく俳優の枠を超えて異質な存在でいるからこそ、画面の中で「謎の男」たるミステリアスな魅力を保ち続けていられるのだ。
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