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緊急事態宣言後の47都道府県オンライン広報力の格差を何とかしたい

鶴野充茂コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授
全国で外出自粛を呼びかける(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス感染拡大で緊急事態宣言の対象が全国に拡大されて1週間経ち、在宅勤務や外出自粛によって世の中の情報収集も「リモート」で「オンライン」が中心になってきた。こうした社会変化に対応して、全国47都道府県庁が「オンライン広報」にどのように取り組んでいるか調査したところ、格差があることが分かった。中にはほとんど手つかずの県もあり、緊急の見直しと強化が必要だ。

 

 ※以下、ボリュームあります。注意です。

 

 災害時には公的な情報ニーズが急激に高まるため、公的機関にはそれに対応した情報発信が求められる。今回は物理的な移動の制限が全国にかかり、離れて暮らす家族のいる遠隔地の情報を求める動きや、休業要請、公的支援、教育、病院、交通などテーマとしても幅広く、また長期間に渡るオンライン広報の対応が必要になっている。

 これまで災害時の自治体広報をウォッチしてきた(東日本豪雨熊本地震2017年の台風18号など)が、その発信力の差が如実に表れるのは、アクセス集中時にも情報閲覧を可能にする災害版HPの整備と、速報性と拡散力の観点で最も有効なツイッターの活用だ。

 

 この観点から、4/16に緊急事態宣言が全国に拡大された後の47都道府県庁の状況を調査した。すると、HPを災害版に切り替えているのは4/23夕方現在で8府県しかなかった。

 ツイッター活用では、1日平均19件(4/16~23)の発信をする県(鳥取)もあれば、5県(宮城・千葉・岐阜・福井・島根)はツイッターの広報公式アカウントの開設すらされていなかった。緊急事態宣言の直前に開設した県も1県(愛媛県)あった。

 

 どこが劣っているかをあげつらうことは目的ではない。実は災害広報には基準がなく、何をどうするかは自治体任せになっている。そのため大きな差が出やすく、今だからこそ対策の強化をするのが広く社会にとって有益と考えた。災害時に自治体から得られる情報に大きな差があるのは、どこにいるかで命の差に繋がりかねない重大な問題だからだ。

 

 

 こうした考え方に基づいて、今回は次の2点にしぼって47都道府県の状況を調べた。

1.多アクセス対応の災害版HPへの切り替え

 災害時には多くの人が情報を得ようとアクセス集中することが多いため、自治体などではデータ量を減らした災害版HPを用意している。災害版HPは、同時に、その地域が災害モードであることを利用者に分かりやすく伝え、更新した情報を見つけやすくする役割もある。

 

 今はまだ通常版でネットワーク状況が問題なく運用できている場合でも、感染者の急増や新たな施策の発表でアクセスが急増する可能性があり、緊急事態宣言のような明らかな非常時の開始時点で、災害版に切り替えておくのが妥当と考える。

 今回は、(1)災害版HPに切り替えているか否か (2)災害版HPの場合、外国語対応の状況 (3)利便性の観点からHP上でツイッターアカウントがすぐ見つかるかどうか を評価した。

 

 

 

<災害版HP結果>大阪府が最強・6県は対応が急務

 

・4/23夕方時点で災害版HPに切り替えていたのは、栃木石川福井京都大阪奈良兵庫鹿児島の8府県だった。

※それ以外の都道府県でも緊急情報の掲示などはしている

・災害版HPの8府県のうち、外国語の案内を表示していたのは京都・大阪・奈良の3府県。トップページから直接ツイッターアカウントを案内していたのは大阪府だけだった。

 見方を変えれば、今回の調査時点で、災害版HPを見に来て、素早く継続的に情報を得ようとするニーズを最も意識して制作されていたのは、大阪府だったと言えるだろう。

大阪府の災害版HP(4/24時点)
大阪府の災害版HP(4/24時点)

 

 

・通常版HPで、広報の公式ツイッターアカウントが(運用中にも関わらず)わかりにくいのは、岩手富山岡山福岡熊本沖縄の6県。至急、HPデザイン自体の改良が望まれる。

2.ツイッター活用状況

 災害時のSNSといえばツイッターという認識も広がり、積極活用する公的機関が増えている一方で、都道府県レベルでも未だ公式アカウントさえ持っていないところがある

 また平時には部署ごとに異なるアカウントを運用している場合もあるが、災害モードでは都道府県の代表窓口となる広報の公式アカウントが、圏内のさまざまな概況をとりまとめて外部に伝える体制になっていることが重要だ

 

 広報のアカウントに加えて、防災専門のアカウントを運用する県も多いが、実際の災害時に県全体の状況をとりまとめて発信するアカウントがどちらなのかを明確にしておきたい。いくつものアカウントをフォローしなければ情報がとれないのは利便性に欠ける

 

 

 今回は、広報公式アカウントの有無や活用度を4段階で評価した。

<ツイッター結果>優秀アカウントは10都道県、19府県が強化必須

・47都道府県の広報(ない場合等は防災)アカウントの4/15~4/23のツイート数をグラフにし、最高A評価のアカウントをハイライトした。

都道府県ツイート数のグラフ
都道府県ツイート数のグラフ

 ツイッターは、投稿数だけでなく内容面の精査が不可欠だ。投稿数が多くても、HPの更新情報を(自動)投稿しているだけの場合がある(青森愛知など)。そうした県は、土日の投稿が著しく落ちているのが特徴であり、低評価とした。

 

 47都道府県のアカウント一覧と日毎のツイート数、そして評価は次の通り。

 

アカウントと評価一覧表
アカウントと評価一覧表

 

  

  

  

※尚、評価基準は以下の通りとした。

A評価:ツイッターの性質を踏まえた活用法で最新情報を一日平均5件以上発信している

B評価:ツイッターの性質を踏まえた活用をしている

C評価:不活性かHPの更新情報に留まり、きちんと運用されている感がない

D評価:アカウントがないか発信がない

【優秀10都道県】

・最高A評価の運用は、10の都道県だった。

北海道岩手山形新潟群馬茨城東京三重鳥取(防災)広島

A評価群の各アカウントにはそれぞれ異なる特徴がある。参考にしたい。

 北海道:毎日手洗い・咳エチケット励行をリマインド

 岩手:知事のメッセージほか、県内の様々なアカウントをシェア(RT)

 山形:検査数と陽性数、退院情報も。会見・生活情報など多彩にカバー

 新潟:高頻度発信 HP更新情報に加えて県内情報のRTも

 群馬:コロナ専門アカウントのRTも多い

 茨城:生活情報など多彩な内容、県内情報のRTも

 東京:動画など複数チャンネルをまとめて発信

 三重:キャラアカで土日も運用

 鳥取:キャラアカで防災情報・県内情報もカバー

 広島:やさしい日本語も活用

 

群馬山梨長野山口などはコロナウイルス対策の専門アカウントを開設して運用している。

【対策必須19府県】

・ツイッターの強化が必要と思われたのは、C・D評価の19府県(青森・宮城・栃木・千葉・富山・石川・岐阜・愛知・福井・京都・奈良・兵庫・島根・山口・長崎・熊本・宮崎・鹿児島・沖縄)だ。発信の少ない不活性のアカウントが多く、何とか早急に強化したい。

・宮城、千葉、岐阜、福井、島根、長崎の6県には広報のツイッターアカウントがないか全く稼働していない。早急に立ち上げて運用に力を入れる必要がある。

・ツイッターの情報の最後にすべてHPのリンクを表示している県が少なくないが、アクセス集中するとHPに多大な負荷がかかりそれが原因でHPが見れなくなる状況が災害時にはよく起きる。ツイッター上で情報が完結できるものはHPに飛ばさない方がいい。リンク先がPDFなどは二次被害を生む。

 

 

 

最後にお願い

 

 

 HPやSNSの運用担当は組織の中で評価される機会が非常に少ないが、災害の時などは非常に重要な役割を担っている。そして長期に渡ってネットの動きをウォッチしていなければ効果的な体制と運用の構築が難しい領域でもある。今回、高評価となった都道府県の担当者をぜひこの機会に日頃の努力を讃え、どうか褒めてあげてほしい。

 災害時はアクセスの急増でまったくHPが見られない状況が生まれる。新型コロナウイルスの場合にも、この先、状況の変化で同様の事態が起きないとも限らない。ぜひ少しでも余裕のあるうちにしっかり対応しておきたい。

 ツイッターはアカウントを開設しても、不活性アカウントが少なくない。現場からは、どのような情報をツイッターに出すかに悩むという声も聞く。

 新型コロナウイルスに関する情報の場合、毎日情報のアップデートがほしいのは具体的には次のような内容だ。

 1)Facts/Data(検査数・感染者数・死者数・退院数など)

 2)会見情報(生中継のリンクや知事の発言要旨など)

 3)生活情報(支援や要請、窓口など)

 4)県内の動き(市町村からの情報、交通なども。RTでも可)

 5)その他(啓発メッセージなど)

  

  

 今回の比較調査は、分かりやすさを意識し、評価基準を単純化しすぎた嫌いがある。災害時の情報の出し方はきめ細やかで表現などもその都度適したものを考える必要があるが、はじめに書いたように災害時の広報には基準がなく、なおかつ今回のような全国一斉・オンライン広報の災害モード比較は過去にもおそらく例がないので、これを基準づくりのきっかけにしてもらえたら幸いである。

 

 広域災害では、マスメディアの報道もすべてをカバーすることが困難になる。そこで必要とされるのは公的機関から発信される一次情報である。緊急事態宣言の対象が全国に拡大され、同時に全国の都道府県の発信が比較できる今こそ、他の自治体などを参考にして強化につなげたい。

コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授

シリーズ60万部超のベストセラー「頭のいい説明すぐできるコツ」(三笠書房)などの著者。ビーンスター株式会社 代表取締役。社会構想大学院大学 客員教授。日本広報学会 常任理事。中小企業から国会まで幅広い組織を顧客に持ち、トップや経営者のコミュニケーションアドバイザー/トレーナーとして活動する他、全国規模のPRキャンペーンなどを手掛ける。月刊「広報会議」で「ウェブリスク24時」などを連載。筑波大学(心理学)、米コロンビア大学院(国際広報)卒業。公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会元理事。防災士。

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