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MotoGPライダー、モルビデリが堂々ポール獲得!SSTクラスは日本のTONE RTが首位に。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
TONE RT SYNCEDGE 4413 BMW 【写真:FIM EWC】

12月14日(土)に決勝レースを迎えるFIM世界耐久選手権(EWC)の第2戦「セパン8時間レース」は12日(木)に予選、トップ10トライアル予選を開催し、今大会限定のスペシャルチームである「#21 Yamaha Sepang Racing」がポールポジションを獲得した。

モルビデリが格の違う速さを披露

総合ポールポジションを獲得した「#21 Yamaha Sepang Racing」は地元・マレーシアのセパンサーキットが中心となったチームで、ライダーラインナップはフランコ・モルビデリ(MotoGP)、ハフィス・シャーリン(MotoGP)、マイケル・ファン・デル・マーク(スーパーバイク世界選手権)という圧倒的な実力派揃いのチームだ。

TOP10 TRIALに出走するモルビデリ【写真:FIM EWC】
TOP10 TRIALに出走するモルビデリ【写真:FIM EWC】

ヤマハYZF-R1にブリヂストンタイヤの組み合わせという安定のパッケージで、ピットはEWCのトップチームである「#7 YART YAMAHA」と共有。実質的に同じパッケージと考えられる耐久用スーパーバイクで、凄まじい走りを見せたのがフランコ・モルビデリだった。

モルビデリは僅か1日しかない練習走行で普段のMotoGPマシンとは大きく異なる仕様のYZF-R1に順応。MotoGPライダーならではの速さで「#21 Yamaha Sepang Racing」を常にトップに押し込んだ。その速さは予選でただ一人、2分3秒台をマークする脅威的なもので、夜間に行われた上位10台のスーパーポール予選「TOP10 TRIAL」でもアタッカーを務め、堂々のポールポジションを獲得。やはりMotoGPライダーは別格の走りを見せてくれる。

Yamaha Sepang Racingのファン・デル・マーク、モルビデリ、シャーリン 【写真:FIM EWC】
Yamaha Sepang Racingのファン・デル・マーク、モルビデリ、シャーリン 【写真:FIM EWC】

2位にホンダアジアドリームが入る

モルビデリがトップに立つまで、「TOP10 TRIAL」で暫定ポールポジションの位置に付けたのが、「#88 Honda Asia Dream Racing with SHOWA」(ホンダ)のソムキャット・チャントラ(タイ)だ。

同チームは日本人MotoGPウイナーの玉田誠が監督を務め、アジアのバイクレースチームの底上げを担うチームで、全日本ロードレースJSB1000クラスと鈴鹿8耐に参戦している。鈴鹿サーキットの中にあるガレージで整備等を行う日本拠点のチームであるが、実働部隊のメカニック、エンジニア、スタッフはマレーシア、インドネシア、タイなどから派遣されたメンバーで戦う東南アジア混成チームだ。

Honda Asia Dream Racing with SHOWA【写真:FIM EWC】
Honda Asia Dream Racing with SHOWA【写真:FIM EWC】

日本のレースでは監督の玉田がアジア人スタッフに対してゲキを飛ばすシーンが度々見られるが、これは彼らにレースで勝つためのノウハウを叩き込むためにやっていること。東南アジア初開催の耐久レースなのにアジア各国からのエントリーは少ないことからも分かる通り、排気量1000ccのスーパーバイクを扱えて、なおかつ耐久レースでトップ争いができる土壌は育っていない。各国から集められた優秀なスタッフを育てることで、アジア各国のチーム運営面でのレベルアップを図ることが大きな目的と言える。

そんな育成チームがなんと2番手を獲得した。これは誰もが予想しなかった結果と言える。「#88 Honda Asia Dream Racing with SHOWA」のライダーはザクワン・ザイディ(マレーシア)、アンディ・ファリド・イズディハール(インドネシア)、そしてソムキャット・チャントラ(タイ)のこれまたアジア混成ラインナップ。チャントラは今季からMoto2に参戦し、ホンダからは未来のMotoGPライダーとして期待されている逸材。決勝でのパフォーマンスにも大きな期待がかかる。

レギュラー最上位はTSR

スポット参戦のヤマハ、ホンダチームが「TOP10 TRIAL」で光る走りを見せた中で、EWCのレギュラーチームで最上位は「#5 F.C.C. TSR Honda France」(ホンダ)の3位。予選でも上位5位までにボーナスポイントが与えられるが、ポールポジションの最大5点獲得とはならなかった。

しかし、TSRにとってみればこれは想定内。鈴鹿8耐でも予選では決勝用タイヤで挑むことが多く、ポールを取りに行くことで転倒につながるリスクを避ける耐久チームらしい戦法を取るからだ。もちろんライダーとして走るからにはトップを狙いたいところだが、藤井正和・総監督のポリシーを3人の外国人ライダー達はしっかりと理解しており、アタックを担当したジョシュ・フックも決して無理はしなかった。

F.C.C. TSR Honda France 【写真:FIM EWC】
F.C.C. TSR Honda France 【写真:FIM EWC】

鈴鹿8耐とは違い、夜間に行われた「TOP10 TRIAL」ということで、路面温度が昼間と比べて大幅に下がり、レギュラーチームのタイムは伸び悩んだ。4位にはチャンピオンチームの「#1 WEBIKE SRC Kawasaki France」(カワサキ)が入り、5位には現在ランキング3位の「#37 BMW MOTORRAD ENDURANCE TEAM」(BMW)が入り、ポイントを獲得。

一方で、「#7 YARY YAMAHA」(ヤマハ)はトラブルを抱えてペースを上げられずに6位、ランキング首位の「#2 SUZUKI ENDURANCE RACING TEAM(SERT)」は予選11位でノーポイントに終わっている。とはいえ、大事なのは8時間の決勝レースである。土曜日は雨予報が出ており、路面コンディションが刻一刻と変わる難しいレース展開も予想されている。コンディション次第ではかなり面白いレースになっていくのは間違いないだろう。

SSTクラス首位は日本のTONE RT

もう一つのジャイアントキリングと言える好パフォーマンスを見せたのは今回9チームが参加している日本からのスポット参戦組の「#80 TONE RT SYNCEDGE 4413 BMW」(BMW)だ。彼らは市販のベース車両に限りなく近いレギュレーションの「SST(スーパーストック)」クラスに参戦しており、ライダーの平均タイムで争う予選では総合12番手のタイムを獲得。SSTクラスではヨーロッパの強豪チームを抑えて首位を獲得した。

「#80 TONE RT SYNCEDGE 4413 BMW」は全日本ロードレースJSB1000、鈴鹿8耐をBMW S1000RRで戦うプライベートチームで、事前テストも無しで、さらにライダー3人ともセパンサーキットの走行経験が皆無という状態での首位獲得はかなりの大健闘。改めて日本のライダー、プライベーターの実力の高さが証明された形となった。

SSTクラス首位を獲得したTONE RTの渥美心、星野知也、石塚健【写真:FIM EWC】
SSTクラス首位を獲得したTONE RTの渥美心、星野知也、石塚健【写真:FIM EWC】

彼らの最大の武器は日本でも使用するピレリのタイヤ。全日本JSB1000ではブリヂストンのスペシャルタイヤが用意されるメーカートップチームには敵わないが、雨がらみのコンディションになるとピレリユーザーのTONE RTは水を得た魚のように上位進出を果たしてくる。ドライコンディションで行われた予選でも速さを見せたということで、セパンでのマシンの仕上がりは上々。さらに決勝が雨がらみとなれば、総合10位以内の完走も夢ではない展開が期待される。

今回の「セパン8時間レース」は4輪のWTCR(世界ツーリングカーカップ)、FIA F3、FIA F4などとの併催で開催されており、13日(金)はヨコハマ(WTCR)、ジチ(FIA F3)、ハンコック(FIA F4)という様々なタイヤメーカーの4輪レースマシンが走行する。仮にドライコンディションになったとしても、4輪のラバー(ゴム)が乗った路面で波乱のレースが予想される。

日本のプライベーターの活躍で、総合優勝だけでなく、SSTクラスからも目が離せない「セパン8時間レース」は12月14日(土)に、日テレG+、Huluでも生中継される。来年夏の「鈴鹿8耐」に向けた様々なヒントが見えるレースになりそうだ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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