台湾のレースで16歳の東海カート王者、石原翼が優勝!
気軽に楽しめるモータースポーツとして人気が年々高まっている「レンタルカート」。全国のミニサーキットやレーシングカート場が簡易版レーシングカートを導入し、一般客にマシンをレンタルしてサーキット走行のチャンスを提供している。
また、乗って走るだけでなく、各サーキットでは同じスペックのマシンで戦うレンタルカートレースが開催。カート本体や装具の購入という初期投資が要らないため、いつでも始められ、いつでも止められる気軽さもあってか、ホビーやレクリエーションとして楽しむ人が増加傾向だ。
東海チャンピオン、石原翼の台湾遠征に密着
「レンタルカート」を扱うコースは国内で50カ所以上存在するそうだ。中でも多くのコースが点在するのが自動車産業で働く人が多い東海エリア。
昨年、「幸田サーキットyrp桐山」(愛知県)、「美浜サーキット・クニモト」(愛知県)、「クイック浜名」(静岡県)、「フェスティカサーキット瑞浪」(岐阜県)の4つのコースが全5戦のシリーズ「東海スプリントシリーズ」を企画。シリーズチャンピオンには台湾旅行と台湾のレンタルカートコースを走る権利が与えられ、多くのドライバーがこのシリーズで鎬を削った。
そして、同シリーズでチャンピオンに輝いたのが静岡県在住の高校生、石原翼(いしはら・つばさ/16歳)。今回はその台湾遠征に密着した。
台北空港近くの大魯閣カーティングランドへ
台湾はアジアの中でもまだモータースポーツが始まったばかりの国である。中国本土や他のアジア諸国に比べると、モータースポーツの歴史が浅く、サーキットもモータースポーツ人口もまだまだ多くはない。しかし、日々、その熱は高まってきているようだ。
首都・台北の玄関口である「台北桃園国際空港」の近くに「大魯閣(タロコ)カーティングランド」というレンタルカートコースがある。このコースを運営する大魯閣は台湾の大企業「大魯閣繊維」の子会社で、台湾に様々なスポーツ施設を展開している。昨年、日本の鈴鹿サーキットとの提携で高雄市内のショッピングモールに遊戯施設「SUZUKA CIRCUIT PARK」を建設することを発表したことでも話題になった会社だ。(関連記事:鈴鹿サーキットが海外へ輸出?)
桃園市内にある「大魯閣カーティングランド」は1周約700mのカート専用コース。本格的なレーシングカートの走行やレースの開催も可能なコースで、施設内にはカートガレージや広々としたカフェも有する、なかなかお洒落な空間になっている。
取材で訪れたのは平日だったため閑散としているのかと思いきや、なんと多くの学生グループや大人のたちが「レンタルカート」や「レーシングカート」の走行を楽しんでいた。特に印象的だったのは学生グループの楽しそうな表情。男女入り交じってレンタルカートの走行をレクリエーションとして楽しんでいた。何より驚いたのは、学生達のアクセルの踏みっぷり。女子も男子に負けず劣らずのスピードでタイムアタックを楽しみ、走行が終わると一緒におしゃべりに興じていた。
日本のコースでも学生達のグループは居るが、最近は男子ですらユルユルと走り、全く競争しようとしない何とも情けない姿を見かける事が多い。それに比べて台湾の学生達はゲームセンターやバッティングセンター感覚でカート走行を思いっきり楽しんでいた。
何と平日にレース開催が実現した
石原翼は学業を優先しているため、今回は春休み期間を利用した平日の台湾渡航に。当初はチャンピオンのご褒美にコース走行が計画されていただけだったそうだが、「日本からチャンピオンが来るなら」と大魯閣カーティングランドがレースを企画。なんと平日であるにも関わらず、基準タイムをクリアした10人のドライバーがレースに出場し、石原と対決することになった。
その10人の中には「レッドブル」が主宰するアマチュアレンタルカートの世界一決定戦「レッドブルカートファイト」の台湾代表選手も含まれており、非常にレベルの高い面々が揃った。
石原が走り出すと
初の海外渡航ということもあり、やや緊張気味だった石原翼。「大魯閣カーティングランド」に到着すると、いきなり名前入りのレースポスターがお出迎え。コースのスタッフからも熱烈な歓迎を受け、来場していたカップルからは記念写真をお願いされていた。
そして、レース前にライバル達が集まってくると緊張感が一気に高まった。ここをホームコースにしているドライバー達にとっては「負けられない」レース。それだけに闘志剥き出しの雰囲気が漂う。
しかし、石原が走り出すと状況は一変。前日に少し練習する時間はあったが、石原はいきなりトップタイムをマークし、台湾のライバル達に違いを見せつける。さらに予選でもポールポジションを獲得。地元カーターたちはその速さに驚いていた。
そこで、コースのスタッフはレース前に石原翼に話を聞く「交流会」を開催。石原に対してライバル達から「初めてのコースを走る時のポイントはどこか?」などの質問が次々に投げかけられ、16歳の石原がそれに答えるという何とも不思議な雰囲気に。台湾のカーター達は充分な速さを持っている。しかし、上には上が居る事を知り、質問を投げかける勉強熱心な姿には恐れ入った。
決勝レースでも見事に石原翼が独走優勝!
決勝レースは30周の長丁場。ポールポジションからスタートした石原翼はスタートダッシュを決め、3周目には独走状態に。2番手以降は激しくバトルをしていたため、石原との差は開いていってしまった。石原は長距離のレースであるにも関わらず非常に落ち着いたレースを展開し、4番手以降を全て周回遅れにして、海外レース初参戦にして見事に優勝を飾った。レース後、石原は全員と握手を交わし、ライバル達との健闘を讃え合っていた。
「皆さんのおかげで海外に来て、貴重な経験ができました」と語った石原翼。台湾のライバル達からはすぐにFacebookの友達申請をお願いされ、海外とのカートを通じた交流が始まったようだ。
貴重な経験ができたのは石原だけではない。台湾のカーター達も石原と対決したことは良い経験になったことだろうし、大きな刺激になっただろう。台湾遠征をコーディネイトした幸田サーキットのスタッフから「ぜひ日本に来て、私たちのサーキットで開催する耐久レースにも出てください」と声をかけられると彼らは最高の笑顔を見せていた。親日家が多いと言われる台湾。彼らも日本のレースのレベルが高い事はよく知っているし、日本でレースをするのも憧れなんだそうだ。レンタルカートを通じた台湾と日本の交流が今後も増えていく、そんなキッカケを16歳の石原翼が作った。
【石原翼】(いしはら・つばさ)静岡県湖西市出身の高校生ドライバー。
5歳の頃から静岡県のカートコース「クイック浜名」のスクールを受講。それ以来、レンタルカートレースに参戦。2013年は「レンタルカート東海スプリントシリーズ」でチャンピオンに輝いた他、「レッドブル・カートファイト」ではお台場で開催された全国大会ジャパンファイナルに出場した。将来の夢はレーシングドライバーではなく「競艇選手」だそうで、狭き門の試験に向けて猛勉強中。「与えられたどんなマシンでも乗りこなせなければならないレンタルカートは、機材が抽選で決まる競艇の世界でも役に立つはず」と将来の夢を見据えてレンタルカートに打ち込む、しっかりものの16歳だ。