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天皇ご一家 それぞれのお人柄に触れる歌会始のお歌

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
天皇皇后両陛下(写真:ロイター/アフロ)

皇室における新年お馴染みの恒例行事と言えば、「歌会始の儀」である。天皇皇后両陛下をはじめ皇室の方々の、四季折々に抱いた心の発露や、ふとした出来事に思いを致す感性の豊かさがにじみ出て、普段知ることのない素顔に触れる貴重な機会でもある。

一般から募った詠進歌も披講され、市井の人びとが日々何を思い暮らしているのか、皇室の方々だけではなく、その時代を映す言葉の世界が紡ぎ出されるのも、「歌会始の儀」ならではの面白さだ。

◆今年の「歌会始の儀」 陛下が御製に詠まれた願い

昨日1月18日に、皇居・松の間で「歌会始の儀」が催された。今年のお題は「友」。お歌の中に「友」の文字が詠み込まれていればよく、「友人」、「友情」、「交友」のような熟語でもかまわない。

このお題が発表されたのは、去年の「歌会始の儀」の直後であった。一般からの詠進歌を選ぶ5人の選者の中には、皇室で和歌の指南役を務めていた御用掛の歌人・篠弘(しの ひろし)氏も含まれていた。

しかし、篠氏は昨年12月12日、89歳で逝去された。日本歌壇を率いてきた大歌人であり、天皇陛下から信頼も厚かった篠氏は、その最期の時まで皇室の方々のお歌にアドバイスをし、全国から届けられた詠進歌に目を通していたに違いない。

筆者は生前篠氏から、皇室がお歌の伝統を受け継いで長く守り続けている意味や、その味わいの深淵についてお話をうかがい、和歌の魅力に引き込まれていた。そうした意味でも、筆者にとって今年の「歌会始の儀」は、感慨深いものであった。

そして、もうひとつ興味を深める要因が、今年のお題の「友」だ。皇室の方々にとって、友と呼ぶ人との交流が、31文字の中にどのように凝縮されるのか、プライベートな一端に触れるのも楽しみであった。

天皇陛下の御製(ぎょせい)は、新型コロナで不自由な日々に即したお歌を詠まれた。コロナ禍に言及されたお歌は3年連続となる。

「コロナ禍に友と楽器を奏でうる 喜び語る生徒らの笑み」

宮内庁の解説によれば、2021年10月、和歌山県で行われた第36回国民文化祭に、両陛下がオンラインで出席された際、吹奏楽を演奏した高校生の様子をとらえたものだという。

感染症対策の一環で、思うような練習ができなかった中、友達と一緒に演奏できる喜びを語った姿を陛下はうれしく思い、人びとに早く日常の生活が戻ることを願う気持ちを詠まれている。

友との吹奏楽の演奏を目標とし、友情の絆はコロナ禍を嘆くことなく、それさえも乗り越えて強く固く結ばれていく姿は、青春という名にふさわしい清々しさを与えてくれる。陛下のお心にも、彼らの笑顔はきっと眩しく映ったことだろう。

世知辛い世の中ではあるが、陛下の御製は、一服の清涼剤のように素直にすっと心に入ってくる。

◆皇后雅子さまがお歌にこめられた感謝

皇后雅子さまの御歌(みうた)は、昨年のお誕生日に際してのご感想に呼応するような印象を受けた。そのご感想では、皇室に嫁いでからの道のりに、多くの支えがあったことが語られている。

「これまでの人生を思い返してみますと、29歳半までの前半にも、また、皇室に入りましてからの後半にも、本当に様々なことがあり、たくさんの喜びの時とともに、ときには悲しみの時も経ながら歩んできたことを感じます。(中略)天皇陛下を始め、多くの方々に私の歩みの一歩一歩を支え、見守っていただいてきたことを思い、心から感謝したいと思います」

(令和4年、雅子さまお誕生日に際してのご感想)

雅子さまの深い感謝の思いは、陛下や皇室関係者ばかりではなかった。

「皇室に君と歩みし半生を 見守りくれし親しき友ら」

雅子さまの、奥ゆかしく謙虚なお人柄を表すかのように、多くの人びとの支えに対して、心から感謝したいというお気持ちが強く伝わってくる。

雅子さまにとって、“友”とは、とてもありがたく、尊い存在なのだろう。

◆愛子さまが友人に抱くお気持ちは…

両陛下の長女・愛子さまも歌会始にお歌を寄せられた。

「もみぢ葉の散り敷く道を歩みきて 浮かぶ横顔友との家路」

この歌は、愛子さまが昨年の秋、皇居で散ったもみじの葉に覆われた道を歩いた際、かつて友人と一緒にもみじの葉を踏みしめながら歩いた下校時のことを思い出し、友人のことを懐かしく思った気持ちを詠まれているとか。

コロナ禍によってリモート授業が続き、大学入学以来、友人とリアルに会う機会がなくなってしまった中、ふと思い出された懐かしい日々。枯れ葉となったもみじを踏みしめる音まで聞こえるような、愛子さまらしい繊細でしみじみとした味わいを感じさせる。

もみじの葉に覆われた道(写真:イメージマート)
もみじの葉に覆われた道(写真:イメージマート)

天皇ご一家のお歌3首は、そのいずれも「友」を題材にしているものの、それぞれまったく違う視点で詠まれている。

篠氏は生前、「その人に合ったテーマを見つける」ことが大切だと言っていたが、天皇陛下は国民の平穏な日々を願い、雅子さまは感謝、愛子さまは思い出をお歌にこめられた。

まさに、ご一家3人のお人柄からにじみ出るテーマであるようにも感じるのだ。

さて来年のお題は「和」と発表された。そして篠氏の後任には、細胞生物学者でもある京都大学名誉教授の歌人・永田和宏氏が任命されている。

「女性皇族が装いで発信するメッセージ 愛子さまの決意、雅子さまと佳子さまは…」https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20230110-00332170

「皇室の方々がSNSで発信する時代は来るのか 宮内庁広報室の対応どうなる」

https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20230126-00334195

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。

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