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秋から12月にかけて皇室はお誕生日ラッシュ 天皇陛下の節目に贈られた「ボンボニエール」「御盃」とは?

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
天皇皇后両陛下(写真:ロイター/アフロ)

秋は皇室にとって、行事やお祝い事の多いシーズンだ。天皇皇后両陛下が恒例とされてきた地方ご訪問「四大行幸啓」のうち、国民体育大会や全国豊かな海づくり大会、国民文化祭など、さまざまな行事へのお出ましが続いた。

実はこの時期、皇室の方々はまさにお誕生日ラッシュを迎える。9月6日は悠仁さま、9月11日は秋篠宮妃紀子さま、10月20日は上皇后美智子さま、11月30日は秋篠宮皇嗣殿下、12月1日は愛子さま、12月9日は皇后雅子さま、12月23日は上皇さま、12月29日は佳子さまと、毎月のようにお誕生日のお祝いがやってくるのだ。

一般の家庭にとっても、お誕生日はひとつの節目であり、家族で集まって祝う日である。皇室では明治の頃からお子様のご誕生や成年、結婚の時などに、記念品として銀の砂糖菓子入れ「ボンボニエール」を関係者や親しい友人らに贈る慣習がある。

そこで筆者は、天皇陛下が幼い頃から親しく交流し、旧知の仲だという方を訪ね、贈呈されたボンボニエールを見せてもらった。いずれも、結婚式や成年式などの後に行われたお祝いの茶会に出席した際に、記念の品として頂いたものだという。今回、その方の許可を得て、皇室の記念の品を特別にご紹介できることになった。

◆天皇皇后両陛下と秋篠宮ご夫妻の、ご結婚記念ボンボニエール

お菓子の入れ物である「ボンボニエール」は、その中にアーモンドの糖衣菓子を入れて贈り物としていたのだが、ヨーロッパではアーモンドは子孫繁栄のシンボルとされ、子どもが生まれたお祝いや結婚などの慶事に配られていた。

つまりボンボニエール自体がとても縁起の良い器とあって、西洋文化が日本に流入した明治期にお祝い事の贈り物として定着したようだ。もっとも日本では、アーモンドの糖衣菓子ではなく、金平糖が用いられる。蓋を開けた時に、金平糖の赤や黄、青などが華やかに彩り、口に含めば甘くほっと心を癒してくれる。物言わずとも、自然に笑顔がこぼれる、まさに小さな幸せが、この器の中には詰まっているのだ。

1993年(平成5年)、両陛下のご結婚の折に作られたボンボニエールは、円満で仲睦まじい夫婦を意味する、鴛鴦(おしどり)がデザインされている。

いただいた当時はまばゆいばかりに光り輝いていたのだが、純銀で作られているため、長年飾り棚に並べていたボンボニエールは、空気中の成分と化学反応を起こし、黒く変色していた。まさに今年でご結婚29年目を迎える両陛下の、過ごされてきた年月の長さを物語っているようだ。

天皇皇后両陛下ご結婚記念のボンボニエール(筆者撮影)
天皇皇后両陛下ご結婚記念のボンボニエール(筆者撮影)

同じ棚にもう一つ、別のボンボニエールが飾られていた。これは1990年(平成2年)、秋篠宮ご夫妻のご結婚をお祝いする茶会に出席した時に頂いたもの。秋篠宮さまのお印である栂(つが)と、紀子さまのお印である檜扇菖蒲(ひおうぎあやめ)が描かれている。

秋篠宮ご夫妻ご結婚記念のボンボニエール(筆者撮影)
秋篠宮ご夫妻ご結婚記念のボンボニエール(筆者撮影)

◆天皇陛下の人生の節目を飾った記念の品

実はボンボニエール以外にも、皇室の方々の行事に際して配られた貴重な品がある。それが、昭和55年(1980年)、天皇陛下の成年式に作られた陶磁器の「御盃(ぎょはい)」。なめらかな白磁の光を通す透明感は、伊万里焼ではないかと推測される。

デザインは、中央に皇室の紋章である菊の御紋、両横に陛下のお印である梓(あずさ)が描かれている。この御盃とともに、「徳仁親王成年式 昭和55年2月23日」と書かれた紙も大切に保存されていた。

「御盃」には、同じ盃でお酒を飲み干し、心をひとつにしつつ、大切な人とのつながりを強めるという意味が込められている。スポーツの大会で「天皇杯」「皇后杯」が優勝者に贈られるのも、そうした意味合いからなのだろう。

皇族男子にとっての成年の儀式「加冠の儀」に陛下がのぞまれた時は、学習院大学に在学中。愛子さまの今の年齢と同じである。

去年12月、成年の行事にのぞまれた愛子さまであったが、コロナ禍とあって親しい方々を招待したお祝いの集まりなどは控えられたと聞く。もし開催されていれば、陛下の成年式と同様、菊の御紋と愛子さまのお印であるゴヨウツツジが描かれた記念の御盃が出席者に配られただろうか。

左は陛下の成年式に際して作られた御杯、右は陛下の立太子の礼に際して作られた御杯(両方とも筆者撮影)
左は陛下の成年式に際して作られた御杯、右は陛下の立太子の礼に際して作られた御杯(両方とも筆者撮影)

また、違うデザインの御盃も飾られていた。こちらには「立太子の礼 平成3年2月23日」と書かれた紙が一緒に保存されており、かつて天皇陛下が皇太子であることを内外に宣明する儀式「立太子の礼」にのぞまれた折に作られたものだと分かる。

金色の模様には、皇太子が着用する装束「黄丹袍(おうにのほう)」の文様である、「窠中鴛鴦(かのなかにえんおう)」が描かれている。

◆陛下が小学生だった頃の記念品は…

皇室の方々の貴重な記念の品と並んで、飾り棚にこんなものも置かれていた。一本一本に菊の御紋が入った、「恩賜のたばこ」である。

聞けば、天皇陛下が小学生でいらっしゃった頃、お誕生日をお祝いする会で、記念の品として贈られたものだという。

20本入っており、箱の上に「賜」という文字が書かれている。もちろん、他の記念の品と同じく、市販はされていない。喫煙による健康への影響が問題化する中、「恩賜のたばこ」は2006年末に廃止され、その後は和三盆糖菓子に変わったのだと話してくれた。

左は恩賜のたばこ、右は陛下のお印が入った和三盆糖菓子(両方とも筆者撮影)
左は恩賜のたばこ、右は陛下のお印が入った和三盆糖菓子(両方とも筆者撮影)

皇室の方々が主催するお祝い事の会では、招待客の人びとへの贈り物は、とても気を使うものだ。当然ながら金品や商品券などは皇室の意に沿わないし、かと言って高価なブランド品も贅沢過ぎる。小さくても手に取った時に、温かな気持ちを抱いてくれて、そしてずっと大切にしてもらえるような品物として、「ボンボニエール」や「御盃」は、とても適切なのだ。

人生の節目で配られてきた、これらの皇室の品々は、どれも貴重な品であることに変わりはない。しかし、近年、ネットオークションに出されるケースも増えており、少々、悲しい思いにかられてしまうこともある。

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。

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