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「天皇皇后両陛下―令和を迎えて―」の3つの注目点 雅子さまのお人柄が伝わる場面も

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
令和の時代の幕開け(写真:長田洋平/アフロ)

 去年五月、天皇から皇太子への譲位が約二百年ぶりに実現し、元号も「平成」から「令和」へと変わった。その直後から様々な儀式が次々に執り行われ、天皇皇后両陛下にとって大変ご多忙を極めた一年であった。

 即位に伴う諸行事は、令和になった五月一日、三種の神器など皇位の証を新天皇に引き継ぐ「剣璽等承継の儀」から始まり、大きなものだけでも「即位後一般参賀」、「即位礼正殿の儀」、各国首脳などを招いての「饗宴の儀」へと、過密なスケジュールがひしめきあっていたが、両陛下はこのすべてをこなされたのだ。

 その後、台風の襲来のため延期されていた「祝賀御列の儀」(即位パレード)が、十一月十日に行われ、宮中祭祀の中で最も重要と言われる、天皇にとって一世一代の祭祀「大嘗祭」が十一月十四日、十五日に執り行われた。「大嘗祭」は、皇祖神の天照大神とすべての神々に、国家の安寧と五穀豊穣を祈る、とても大切な皇室伝統の儀式だ。

 こうした即位に伴う一連の諸行事は、当然ではあるが毎年あるものではなく、オリンピックのように四年に一度など、決まったスパンで行われるものでもない。「天皇のご即位」という国家として非常に大切かつ稀な出来事が生じる折に行われるものだ。

 だからなのか平成生まれの若い世代にとって、初めて知る古式ゆかしき諸行事の世界は、とても興味深いものに映ったのだろう。政府インターネットテレビの「天皇皇后両陛下ー令和を迎えてー」という映像コンテンツが、人気を呼んでいるのだという。

 それは五十六分の記録映像を時系列に再編集したコンテンツで、六月二十二日に公開されている。

 そこで使用されている映像素材は、テレビ各局の皇室番組でも放送されている既存の素材だったが、実は注目すべき点が三つある。

 まず一つは、テレビ局の番組では、分かりやすく端的に情報を伝えようとするため、必要十分なシーンだけを編集する。しかし、政府インターネットテレビでは、カットされるような部分も丁寧にすくい上げ、一連の儀式の詳細を伝えている。

 特に「大嘗祭」は、古色蒼然とした皇室の伝統的祭祀をたっぷり取り上げ、まるで平安時代にタイムスリップしたような感覚を味わえる。

 二つ目は、歴史資料としての意識の高さがあげられる。

 現代の映像素材は、今、この時代を未来へ伝える貴重な歴史資料という価値を有しており、令和元年の即位一色の一年に、何が行われたのかを残す必要があった。つまり、五十年後、百年後の後世の人びとが、令和元年の様子をつぶさに知ることができるよう配慮し、編集されていたのだ。もちろん元の映像素材は、貴重な歴史資料としてすべて保存される。

 そして三つ目は、皇室取材における映像の多様化があまり進んでいない点だ。

 ニュースで使用される映像の多くが、各局持ち回りで担当する代表取材のカメラで撮影されたものであるため、似通っているケースも少なくない。地方公務などでは、独自のカメラクルーを出動させることもある。また、お正月の天皇ご一家の映像などは、宮内庁嘱託のカメラマンが撮影したものを各局が使用している。

 それらの映像はどれも貴重なものだが、各局横並び感が強く、多様な皇室報道はなかなか難しいというのが実情だ。そのため各局ともに周辺情報や関係者取材に力を入れて、少しでも斬新な切り口の番組作りに工夫を凝らしている。

 今回の映像のラストには、「企画 宮内庁」とクレジットが入っている。そもそも、なぜこのような映像を企画したのだろうか?

 宮内庁に二十年以上勤めた、皇室ジャーナリストの山下晋司さんに聞いた。

「宮内庁には映像を編集する職員はいませんから、皇室の映像を持っている会社に委託して制作します。今回制作したのは日本テレビ系列の会社なので、宮内庁嘱託が撮影した映像、代表取材の映像、日本テレビが撮影した映像をもとに編集したと思われます」

 

 また山下さんは、宮内庁が独自に撮影しているオリジナル映像が、実は他にもあり、皇室にとって節目などの折にそれらの映像が各局に提供されることもあると話す。

 宮内庁嘱託カメラマンが必ず撮影するのは、「お正月の天皇ご一家お揃いの映像」、「天皇陛下や皇族方のお誕生日に配信する映像」、そして欠かせないのが「天皇陛下の稲作」と「皇后陛下の養蚕」だという。

「今回は入っていませんでしたが、宮内庁嘱託が撮りためた映像の他にも、皇室の方々あるいはお側に仕える職員が撮影したものも公開される場合があります」

 今回の政府インターネットテレビで公開された映像とは別に、例えば秘儀と言われ儀式の詳細が分からない、大嘗宮の奥の院の映像も存在するかもしれない。また両陛下や愛子さまのプライベートビデオもおそらく大量にあるはずで、公開されずとも、それらもまた歴史資料として未来に残されていくのだろう。

  余談ながら、筆者が今回の映像を見て印象に残ったのは、雅子さまの輝くような笑顔を随所で見ることができたことだった。また、雅子さまのお人柄が伝わってくる、テレビではあまり取り上げられなかった貴重なシーンも収録されていた。

 それは、即位礼正殿の儀が行われた日の夜に開かれた「饗宴の儀」でのこと。宮殿・豊明殿に陛下に続いて雅子さまが入場され、その時、立ち上がろうとしたスペインのレティシア王妃のドレスの裾を、雅子さまがさりげなく直してあげたシーンだった。一瞬の出来事で、撮影しているカメラ位置からはよく見えないのだが、自然にそうしたことができる雅子さまのお心遣いが伝わってくる貴重な映像だ。

 百年先、もしかしたら二百年先の人びとは、令和の即位の模様と天皇皇后両陛下の笑顔を見て、どんな思いにかられるのだろうか。そんなことを考えながら、今回公開された「天皇皇后両陛下ー令和を迎えて―」を見ると、また感慨もひとしおなのではないだろうか。

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。

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