Facebookがホールディングカンパニー制を採用し、ホールディングカンパニーをMeta(メタ)と名付けた。事業をさまざまな業種に拡大する時の手続きとして定款を書き直す必要がなくなるからだ。つまり、旧Facebookはこれから先に、SNS以外への事業に乗り出す計画があることを意味している。それがまずはメタバースの応用である可能性が高い。

 メタは「超」という意味であり、バース(Verse)は宇宙のUniverseから来ている。つまり現実の世界を超えた、超宇宙あるいは超世界とても訳すべきだろうか。とにかくメタバースという言葉が独り歩きし始めた。それもFacebookをはじめとするインターネットサービス業者だけではない。半導体メーカーのQualcommやNvidiaのトップがメタバース向けの半導体チップを開発し始めているのだ。

 今のところ考えられている応用はゲームの中で自分のアバターと仲間が一緒に戦ったり行動を共にしたり、ZoomやTeams、WebExなどのビデオ会議を表現するようなことが想定されている。結局、今のところメタバースはVR/AR(仮想現実/拡張現実)の延長で考えられており、人の没入(immersive)体験を表す技術だと捉えられている。「メタバースの最大の特長はテレポーティング機能だ」とMeta社CEOのMark Zuckerberg氏は述べている(図1)。テレポーティングとは、まるでタイムマシンのように場所を瞬間移動するという意味。現実には人間が瞬間移動することができないため、アバターがその代わりを果たしてくれるという考え方だ。

図1 Meta社CEOのZuckerberg氏 出典:Viva Technology社カンファレンスビデオから
図1 Meta社CEOのZuckerberg氏 出典:Viva Technology社カンファレンスビデオから

 メタバースをまだ漠然として全体像を捉えられず、場合によってはバズワードで終わる可能性もありうるという指摘はある。

一方で、「メタバースはAIなどを使って、デジタルとリアルをつなぐ新しい手法」とQualcommのCEOであるクリスチアーノ・アモン(Christiano Amon)氏は明確に位置付けている。

 Nvidia社CEOのジェンスン・ファン(Jensen Huang)氏は、3D-CADで設計したクルマやロボットの設計をみんなで相談し、内容を共有しながら変更したり改良したりするというシーンなどを想定している。これは、デジタルツインの表現する手法の一つだという捉え方だ。QualcommのアモンCEO(図2)は、「Snapdragon(同社のアプリケーションプロセッサの名前)はメタバースへのチケットだ」と述べ、自動車産業へのインパクトが大きいと見ている。「例えば、自動車メーカーがゴーグルをかけてクルマの情報を見る場合、クルマの走行情報やサブシステムの部品情報などが見られるようになる」として、メタバースの応用はゲームやビデオ会議に留まらず産業全体への影響が大きいと見ている。

図2 Qualcomm社CEOのクリスチアーノ・アモン氏 出典:2021年度第3四半期決算報告会から
図2 Qualcomm社CEOのクリスチアーノ・アモン氏 出典:2021年度第3四半期決算報告会から

 デジタルツインは、現実に開発している製品や生産ラインを3次元(3D)シミュレーションなどで表現し、不都合を見つけたり、性能や機能を上げる方法を見つけたりするデジタルトランスフォメ―ション(DX)の中核技術だ。ここにメタバースの没入体験に満ちた世界を描くことで、問題をわかりやすい表現に直し、解決へ早期に導くことができるという訳だ。

 メタバースでは、VRのゴーグルや眼鏡を世界中の工場のエンジニアたちがリアルタイムで一緒に設計に参加できるようになる。3次元画像で描かれたクルマやロボットをみんなで見ながら、どこを調整したり改良したりするのかを理解し共有できるようになる。世界中のエンジニアがみんなで設計できる環境なら、モノづくりのスピードは圧倒的に速くなり、しかも世界の工場すべてにおいて同時に製品生産を立ち上げることができるようになる。

 ある意味、モノづくりの革命の重要な技術になる。これまでなら、誰がどうしてこんな設計をしたのだろうか、と首をかしげるような設計があっても、どうにもできなかった。しかし、世界中みんなで設計できるようになれば、何が問題なのか、に関しても共有できる。

 特にシステムのどこに問題があり、なぜ問題が起きたのか、それをどうやって解決できるのか、世界の複数の工場で問題も解決策も共有できる。しかも現実の製品とほとんど同じものをデジタルツインで再現しているのであるから、話を理解することは早い。しかも記録として残すことも容易だ。

 メタバースはデジタルツインと共にVRなどを通して使われるので、モノづくりの設計や、問題の同定と解決、さらには情報共有までもが世界レベルで同時にできることになる。

 このようなメタバースの世界に必要な半導体は、グラフィックスプロセッサGPUであり、世界中の人がリアルタイムで見られるようにするためには、高速伝送するための5Gの進化も求められ、そのための第2世代の5Gチップ(ミリ波用のRFやモデム、アンテナアレイなど)も必要になる。もちろんディスプレイドライバIC、PMIC(電源IC)も欠かせない。GPUよりももっと速い専用回路を作りたければFPGAを使う手もある。メタバースを実現する半導体の開発はすでに始まっている。