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グーグル、アップル、みんな半導体を持ちたい

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

1年前の常識で半導体産業を見ていたら、周回遅れになってしまう。そのくらい世界の半導体産業はめまぐるしく動いている。昨日まで半導体を買っていた企業が、今日は半導体を自分で作るようになった。

昨年暮れに、グーグルやアマゾンに続き、テスラも自前の半導体チップを開発している様子を伝えた(参考資料1)。これまで半導体メーカーではなかった企業がどんどん半導体産業に進出してきている。グーグルやアマゾンだけではない。アップルは半導体を強化している。さらにHPC(高性能コンピューティング)やサーバ、パソコンのHPE(ヒューレット-パッカード・エンタープライズ)までが自社の独自チップを持つようになった(図1)。

図1 HPEが開発した半導体チップ HPEの好意による
図1 HPEが開発した半導体チップ HPEの好意による

グーグルはこれまでTPU(テンソルプロセッシングユニット)と呼ぶ、ディープラーニングを行うニューラルネットワーク向けのチップを開発してきた(図2)。さらに、グーグルは2017年あたりからアップルからアプリケーションプロセッサの開発者を連れてきていた。グーグルの半導体はもはやTPUだけにとどまらなくなってきた。

図2 グーグルの設計したTPU実装ボード 出典:Google
図2 グーグルの設計したTPU実装ボード 出典:Google

なぜ半導体をこれまで作ってこなかった企業がこんなに半導体チップを持つようになったのか。半導体チップこそ、システムを差別化できるツールだからである。そして、半導体産業は、設計と製造だけではなく、もっと細かく役割分担するような水平分業が進み、工場を持たなくても、そしてLSI設計言語を知らなくても、自分だけの半導体チップを持てるように産業構造が変わってきた。

これまで日本の半導体産業は先ず初めに工場がなければ始まらない、という考えでずっと垂直統合を標榜してきた。世界は1980年代後半からファブレス(設計のみ)とファウンドリ(製造だけを請け負うサービス業者)に分かれてきたが、日本はこの流れにずっと抗してきた。結果、日本だけが没落した。その結果、ファウンドリはおろか、ファブレスの中身さえも知らずに半導体は斜陽産業という認識でやってきた。

一口にファブレスと言っても、半導体の設計はHDLやVerilogといった半導体特有の言語で論理機能を記述する。ほとんどプログラミングの仕事と同じであるが、特殊な言語でプログラムを書く。だからデバッグ作業や検証、シミュレーションなどの作業が必要だ。プログラムを確認し問題なければ、回路配線図を描く。そのあともデジタルのタイミングで機能通りを実現できるかを検証したら、回路ブロックの配置や回路ブロック間やブロック内の配線を行い、タイミング検証を確認したのち、マスクデータを作成する。この最後のマスクデータをファウンドリに渡すのである。

こういった一連の流れを知らなくても自分だけの半導体を手に入れることはできる。HDLやVerilogで論理機能を記述するプログラマの人たちがいるデザインハウスに自分の欲しい半導体チップの機能や仕様を伝えるだけでよいからだ。自分でプログラムしなくてもプログラムを書いてくれるデザインハウスに依頼すればよい。グーグルやアマゾンは、半導体チップの設計しか使えないプログラム言語を勉強して自分でプログラムする必要はない。

製造だけを請け負ってくれるファウンドリの最大手TSMCは子会社にデザインハウスGlobal Unichip社を持っている。だから、「私はこんなチップが欲しいのだが」と依頼するだけでプログラム言語まで習得しなくてもいい。つまり、HDLやVerilogを知らなくても半導体チップを持てる時代になったのだ。こうなるとグーグルやアマゾンなどのITサービス産業でも半導体チップを持てる。そして自分だけの競争力のある機能を織り込むことができ、差別化できるテクノロジーを手に入れることができる。

ところが、自分の半導体を持ったグーグルは、自分でも半導体を設計しようとし始めている。スマートフォンの台湾HTCを昨年暮れに買収した後、アプリケーションプロセッサ(APU)を独自に開発するため、アップルから人材を続々連れてきている(参考資料2345)。

アップルはマッキントッシュパソコンを作っていた時代は、半導体チップを外部から購入していたが、iPhoneを設計し始めた時から自分でプロセッサを持つようになった。ARMのプロセッサコアをライセンス購入し、それを高速化するため、イントリンジック社を買収、消費電力を上げずにクロック周波数GHzを達成した。そして昨年、APUに搭載するグラフィックス回路を、従来のイマジネーションテクノロジーズからの購入をやめ、自社開発に踏み切った。さらに電源ICもダイヤローグ社から購入していたが、これも自社開発に切り替えた。つまり自分でIC設計言語を習得しマスクまで設計するようになった。さらに2017年12月には、イメージセンサの企業インビセージ社を買収した(参考資料6)。今までソニーから買っていたイメージセンサが今後いらなくなるかもしれない。アップルはもう立派な半導体メーカーとなった。

グーグルも同じ道をたどりそうだ。グーグルにとってアップルのAPUよりも優れたプロセッサを手に入れたい。だからアップルからエンジニアを引き抜いた。来年にはグーグルも立派な半導体メーカーになっているかもしれない。

参考資料

1. グーグル、アマゾンに続きテスラも自前の半導体チップを開発

2. Google Bets a Billion Dollars More Brains Can Help Take On Apple

3. Google hires Apple chip designer John Bruno

4. Google is dabbling in chip design: what does that mean?

5. Google’s new hire from Apple could help design custom chips for future Pixel phones

6. GSA Market Watch Q4 2017

                                                       (2018/02/02)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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