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キュレーションはジャーナリズムに立脚しているか

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

キュレーションメディア事業部を巡るトラブルで、DeNAの南場智子会長をはじめ首脳陣が謝罪会見を行った。weblioによると、キュレーション(Curation)とは、人手で情報やコンテンツを収集・整理し、それによって新たな価値や意味を付与して共有することである、という。しかし、英語のサイトを見ると(参考資料1、2)、コンテンツキュレーションは、様々なメディアからニュースをつまみ食いして、意味を付加することではない。様々な断片的なコンテンツから、新しい考え方を生み出すことで、ブレーンストーミング作業と似ているともいう。ジャーナリズムの本質を知らない「素人」が机の上で意味を追加すると「ねつ造」になりかねない。

さまざまな情報源から、断片的な情報をとってきて(すなわち取材し)それを整理し、ある視点から見ると新しいニュースやコンセプトに見えることがある。これがニュースの切り口とか、新しい視点という考え方である。

ところが、問題となっているキュレーションメディアは、インターネットから様々なコンテンツをつまみ食いして、勝手に別の意味を付け足しているから、「ねつ造」に相当する。実際に現場に行って取材して、ネットコンテンツの真意を確認していないのなら、そのような「ねつ造」はジャーナリズムとは大きく異なる。単なる「流布」や「噂」に過ぎない。こういった「ねつ造」が独り歩きした「流布」が出回ると多くの人たちが迷惑をこうむることになる。

従来は、井戸端会議で勝手な噂を作り出し、流してもそれほど広くは伝わらなかった。しかし、インターネットは「拡散」や「コピペ」などで他人が勝手にほかのホームページに張りつけることで日本中に広く拡散させることができる。出所を明らかにしても、事実ではない「流布」や「噂」を勝手にもっともらしく追加してあたかも独自記事のように見せかけるから、質(たち)が悪い。

いろいろなメディアからニュースを寄せ集めるだけならまだ許せる。ニュースピックアップは昔から、ニュースクリップとして何が起きているかを断片的ながら事実を集めて読むことができた。たくさんのニュース情報から見えてくるものを探ることはできなくても、事実だけを拾うことには価値があった。

さまざまなニュースから独自の視点でモノを書くとはどういうことか。独自記事を生み出す(創造する)ことは大変な作業である。だからこそ、著作権が発生する。さまざまな裏付け、資料、取材などを通して事実を整理し、まるでデータサイエンティストのように、起きている断片的な事実の根底に流れるトレンドを見出す。しかも見出したらそれを取材によって検証するのである。この作業ができるのは、ジャーナリズムを知り尽くした人間でなければできない。素人ができることではない。

おそらくキュレーションメディアと称する媒体はジャーナリズムの本質を知らないのであろう。だったらそのようなまねごとをすべきではない。キュレーションメディアの経営者は少なくともジャーナリズムを勉強してほしい。あくまでも事実をもとにコンテンツを作るという基本を勉強してほしい。ジャーナリズムには本来、「ねつ造」や「でっち上げ」、「うそ」があってはならない。事実は事実以外の何物でもない。その中から、ある視点で見ると全く新しい切り口が見えてくることがある。これがそのまとめ記事のタイトルとなる。

本来、コンテンツキュレーションは、社会問題を考察し論文にまとめて発表することと似ている。ここに「うそ」や「ねつ造」があっては、意味がないだけではなく、人々の判断を迷わせることになり、社会に悪影響を及ぼすことになる。事実を集めるだけではなく、裏付けをとり、事実だけで表現できないのであれば、コンテンツキュレーションというビジネスを行うべきではない。「うそ」や「でっち上げ」は、決して許される行為ではない。

参考資料

1. 17 of the Best Content Curation Tools to Use in 2015 (2015/04/06)

2. How to Curate Killer Content Ideas (2015/02/05)

(2016/12/10)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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