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照明が故障し、下水管から汚物が漏れ出すも愛すべき球場

豊浦彰太郎Baseball Writer

黒田博樹が先発した現地時間6月14日のオークランドでのアスレチックス対ヤンキース戦は、4回裏開始前にレフトの照明塔の大部分が点灯しないという事態が発生し、試合が38分中断された。故障の原因は明らかではないが、この球場の老朽化と必ずしも無関係ではないだろう。

何せ、この球場は昨年は下水管の故障で汚物が漏れ出し異臭が立ち込めるという事件すらあったのだ。

アスレチックスの本拠地オー・ドット・コー・コロシアムは1968年のオープン。メジャー全30球団でも5番目に古い球場だ。また、92年のボルティモアのカムデンヤーズ開場以降主流となった懐古型デザインの野球専用球場が幅を利かせる中で、現在唯一のNFLとの兼用球場でもある。

今回、故障した照明塔はセンター後方の巨大観客席の両端に建っている2本のうちの1つだ。この野球ファン的には「醜い」観客席が95年にNFLのレイダーズ復帰に合わせ増設される前は、外野後方に美しい山々が望めたものだ。

この球場の外野席両翼にはメジャーで珍しい鳴り物(カウベルとい鐘と太鼓)や大きなフラッグを用いた「応援団」が存在する。実は私も2年前の8月に2日間だけだが、彼らの仲間に入れてもらい、試合前の駐車場でのBBQ(ワゴン車のハッチを空けて座り込むスタイルからテールゲートパーティと呼ばれる)に参加し、試合中は相手チームの外野手に下品な?野次を飛ばし溜飲を下げた。

その時リーダー格の方に聞いた話では、私が訪れた約1ケ月前にヤンキース移籍が決まったイチローは、その寸前のオークランドでのゲームで「初めて彼から声を掛けてきた」のだそうだ。それまでは長年散々野次っても全く無反応だったのに。

また、一般のお客もやや「ワイルド」でNFLのゲームなどで満員の観客が押し掛けた場合など、込んだトイレの行列を嫌いそのあたりで用を足してしまう困った人も出てくるそうだ。

しかし、単に古くて荒っぽいだけではない。’72~’74年にはレジー・ジャクソンらを要し3年連続世界一に、88~90年はホゼ・カンセコ&マーク・マグワイアの「バッシュ・ブラザーズ」で3年連続リーグ優勝を果たしたアスレチックスの栄光の歴史の舞台でもあるのだ。

数年前から同球団のルー・ウルフ・オーナーと「マネーボール」GMのビリー・ビーンは環境の悪さと設備の古さに起因する不入りを嫌い、同じサンフランシスコ湾岸エリアでも富裕層の多いサンノゼへの移転を画策しているが、領有権を有するジャイアンツの反対でこの移転話は暗礁に乗り上げている。

この球場でプレーしている限りビジネス的な展望は描けないのだけれども、心情的にはこのボロくワイルドな球場を愛さずにはいられない。たとえ、照明が点灯せず漏れ出す汚物の異臭が立ち込めても。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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