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「働く高齢者」はなぜ働き続けるのか。

斉藤徹超高齢未来観測所
働く高齢者数は増え続けている(提供:イメージマート)

前回記事「高齢者が”働かない理由”を調べてみた。「働くのに疲れた高齢者」の割合は27%」では、高齢者が働かない理由について調べてみました。今回は、逆に高齢者が働き続ける理由について調べてみたいと思います。

高齢期になっても働き続ける人の数が増え続けています。労働力調査によると、2021年の高齢者就業者数は過去最高の909万人。18年連続の増加となりました。65〜69歳に限ると就労率は50.3%で、60代の後半でも約半数の人が何らかの形で働いていることになります。

人生100年時代と言われる中、元気なうちは何らかの形で働き続けたいと考える人は増えているでしょう。また、現在の年金では生活維持が困難という理由で働き続けている人もいるでしょう。

高齢期になっても働き続けている人は、どのような理由で働き続けているのでしょうか?アンケートシステム「ミルトーク」を使い、働き続けている64歳〜84歳、119人の方に、「働き続けている理由」を自由回答形式で回答いただきました。(回答をアフターコーディングし、回答に複数の内容が含まれる場合は、複数の選択肢といたしました。)その結果を並べてみたものが表1になります。

図表1 働き続ける理由

筆者作成 (N-119、複数回答)
筆者作成 (N-119、複数回答)

働き続ける理由で最も多かったのは「健康に良い、老化防止のため」というものでした。

・「働かないとボケるので、それと誰かと話したいので」(65歳男性・群馬県)

・「動けるうちはボケない、体力を落とさないためにも働きたいです」(66歳女性・長野県)

・「身体が動くうちは金銭ではなく働き続けたい」(76歳男性・東京都)

など、金銭を主目的とするのではなく、働き続けたいという意見が最も多数を占めました。

本来、働くということは、「収入を得る」という主目的に、それに加えて、「仕事を通じて自己実現したい」「会社の中で地位を得たい」「他者とのネットワークを築きたい」などといった副次的効能が加わり、働くことに関する「全体的意味」が形成されていると言えるでしょう。

高齢期になると、「収入」という主目的よりも、「健康維持」という副次的効能が、前面に現れ、逆転することになります。65歳を過ぎると、多寡はあれど多くの人が公的年金を受給するようになるので、別の目的が浮上してくるのでしょう。

働くことで、身体を動かし、人と交流することによって、健康を維持したい、老化を防止したいという気持ちは、高齢期ならではの働く理由であると言えるでしょう。

次いで多いのが「生活のため」という意見です。

・「年金だけでは厳しいので…」(65歳男性・北海道)

・「生活費を少しでも増やしたい」(67歳女性・埼玉)

など、年金は支給されているのだけれども、それだけでは苦しいので、プラス・アルファの収入を得たいという方々は、一定数いるということは容易に想像がつきます。

公的年金も、本年4、5両月分から0・4%減額され、来年度も実質減額になるという報道がなされています。物価上昇が続く昨今、働き続けざるを得ないシニアの方も増えているでしょう。しかし、とは言っても、「生活のため」と回答された方の中でも、同時に「外に出て友達と話したり楽しいことがある」(65歳女性・和歌山)、「金銭的理由と健康維持の両方です」(67歳男性・山梨)と副次的効能を併せて答える方もいらっしゃいました。

3番目に多かったのが、「社会との繋がり」を挙げる声です。

・「働く事で生活にメリハリが有る。人との繋がりを持てる。自分の存在価値を持てる」(70歳女性・広島)

・「社会との繋がりを持ちたいから、認知症予防のため、身体が健康なうちは働いてお金を稼ぎたい」(71歳男性・山梨県)

など、70歳以上の方で「社会との繋がり」を指摘される方が多かったように感じました。

現役時代の仕事が終了すると、社会との繋がりは、趣味やスポーツを通じた繋がりや、子供や孫、親戚との付き合いなどに限られ、極端に減ることになります。社会との繋がりが減ることで、自信を喪失したり、引きこもり状態になる可能性も否定できません。働くことの副次的効果として「社会との繋がり」は重要なポイントと言えます。

4番目、5番目の項目には、「働くことが生きがい」「会社に求められて」が続きます。

・「仕事が楽しい。社会と繋がっていたい。若い人たちとの交流が楽しみ。通勤で電車に乗ったり歩いたり健康的。パソコンを使うのでボケ防止になる。沢山の情報を吸収できる」(70歳女性・大阪)

・「取引先で動けなくなるまで来てくれと頼まれているし、今の仕事が好きなので」(73歳男性・神奈川)

・「会社から必要とされているうちは、元気で働けるうちは、人生現役をめざし、心身活性化になり、生き生きと過ごしたいので」(76歳男性・東京)

このような働く環境と会社との関係が築けた人は、ある意味で幸せな人と言えるかもしれません。

このように見ていくと、高齢期の働く目的はさまざまであることがわかりました。いずれにしても、高齢期に自分がどのような形で「働くこと」との関係を築いていけるかを、前もって考えてみることは大切でしょう。

しかし、自分が望む働き方を全ての人が実現できるわけではありません。そのための事前準備や試行錯誤も、これからの時代には求められているのかもしれません。

超高齢未来観測所

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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