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新しい50代夫婦のトレンドは「卒婚」

斉藤徹超高齢未来観測所
(写真:アフロ)

生活ステージが大きく変化する夫婦50代

一般的に50代は夫婦にとって多くの変化が訪れる時期です。例えば男性では、サラリーマンならば、役員にならない限り、定年(60歳)の前段階で役職定年が訪れます。部下を抱え、一定のラインを掌る立場から、部下を持たないスタッフ職となり、給与も一定程度減額される。「キャリア・プラトー」とは、組織内で昇進・昇格の限界を感じ、働くことについてのモチベーションが低下することを指しますが、まさにそのような気持ちと葛藤しつつ、定年までの働き方を模索していくことになります。またリタイア年齢が近づくにつれ、その後の生活をどのようにすべきか、(再雇用か、はたまた転職か)さまざまに思いを馳せる機会も増えてくことになります。

一方で、女性に関しては、ようやく子供も大きくなり、育児や家事に振り向ける時間にも自由度が増し、可処分時間が増えてくるようになります。趣味に時間を振り向けたり、ちょっとした旅行にも女友達や娘と出かけるゆとりも生まれてきます。一方で、高齢の両親の病気見守りや介護に時間が割かれるケースも生じてくることになります。脇目もふらず、一生懸命に会社の仕事や子育てに猛進した40代に対して、50代は人生の踊り場に差し掛かる時期であると言えます。人生後半の再設計が求められる時期なのです。

「エンプティ・ネスト夫婦」の行動変化

欧米各国では、子供たちは就職すれば一人前を見なされ、自宅から巣立つのがあたりまえです。日本のようないつまでたっても親離れしない「パラサイト・シングル」は存在しません。子供が巣離れした家庭を指して「エンプティ・ネスト(空になった巣)」という言い方をしますが、これは子供が家を離れた後の親たちの虚脱感を示す言葉です。しかし今では逆に、子供が巣立った後、新たな経験にチャレンジできる機会としてポジティブに捉えるケースも増えてきています。夫婦でクルーズ旅行を楽しむ、キャンピングカーで名所旧跡を巡る、さまざまな楽しみにトライする夫婦たちも増えています。

一方で、子育終了夫婦は、鎹(かすがい)としての子が外れることによって、離婚に至るケースも多いとも言われます。一時期「熟年離婚」という言葉がよくメディアで取り上げられました。平成20年から離婚に伴う年金分割が可能となったことから、離婚が大幅に増加するのではないかと話題にもなりました。実際はさほどでもなかったですが、2004年以降各年代とも離婚率は全般的に下がる傾向の中、同居20年以上の離婚率のみは微増しています。離婚を契機に自立に向かおうとするシニア女性の数は少しずつ増えているのです。

変わる夫婦のパワー・バランス

完全離婚とまでは行かないまでも、今までの夫婦生活のやりかたを一旦リセットし、夫婦関係を見直す「卒婚」というスタイルが注目されています。

長年生活を続けたこともあり、離婚までには至らない、ただ、子供がいた頃のようにそれまでの生活を惰性で維持するのではなく、夫婦関係のあり方を一旦リセットしようとする試みです。例えば、「夫と妻が別居生活を始める」「妻は都心で生活し、夫は田舎暮らしをする」「妻が世帯主となり、夫は妻を支える」など、それぞれの夢の実現に向けて活動を始めるのです。

「卒婚」の命名者は、『卒婚のススメ』(静山社文庫)の執筆者、杉山由美さん。自由を認め合って、ゆるやかなパートナーシップを築いていくという“新しい夫婦のカタチ”だそうです。「卒婚」が注目される理由として考えられるのは、夫婦のパワー・バランスの変化です。かつては、結婚を機に専業主婦となり、家事、子育てを行っていた時代、妻は扶養されている意識を持たざるを得ず、夫に対しはっきりとモノが言える時代ではありませんでした。

しかし、時代は大きく変化し、男女雇用機会均等法が施行され、自立意識を持った女性たちが増えてきました。一方で、ワークライフ・バランスにより男性の家事参加も増加し、妻なしでも一人暮らしできる男性の数も増えてきています。このような環境を背景に、お互い自立した対等な関係であり続けたいと考える夫婦が増えてきているのではないでしょうか。

超高齢未来観測所

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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