「役職定年制度」の罪、シニア社員にセカンド・ジョブ制度を

定年前後の働き方に悩む(写真:アフロ)

役職定年制度とは

先般、『「同一労働同一賃金」判決の与えた波紋、揺れ動く定年以降の就労環境』というタイトルでYahoo!個人にアップしたところ、多くの方々から反響を頂きました。これは、それだけ多くのサラリーマンが、定年後の自己の生活に多くの不安を抱いていることの証左とも言えるでしょう。

年金の支給開始年齢が引き伸ばされ、改正高齢者雇用法の施行により65歳までの再雇用が進む中、定年前後の時期をいかに生きるべきか、どのように働くべきかというテーマは、近年大きく各サラリーマン個人の悩みとして浮上して来ているように思えます。

悩みをさらに複雑にしているのが60歳定年の前に訪れる、もうひとつの定年である「役職定年制」です。今回は、この役職定年制度の実態と課題について考えてみたいと思います。

まず、「役職定年制度」とは、いったいどのような制度であるのかを説明していきましょう。これは、一定の年齢になった際、役職段階別に管理職がラインから外れて専門職などとして処遇される制度のことを指します。

元々この制度は1970~80年代に55歳から60歳に多くの企業が定年制を移行した際に、組織の新陳代謝と総人件費の抑制を狙いに導入されたものです。1990年代以降、バブル経済が崩壊し、企業が低成長時代を迎えるに当たり、この役職定年制度を採用する企業がさらに増えました。

加えて近年では、65歳迄の継続雇用義務化が進む中で、全体の賃金カーブを見直す中、再度役職定年制の見直しが再び行われているようです。

大手企業中心の制度

役職定年制度を導入しているのは主に大手企業です。産労総合研究所「平成19年民間企業の勤務条件制度等調査」によると、従業員500人以上の企業では36.6%の企業に導入されています。一方で、100-499人規模の企業の導入率は25.5%、50-99人規模は17.1%となっており、大企業中心に採用されている制度であることがわかります。大企業であるほど、新入社員の獲得も比較的優位であり、そのため組織全体の新陳代謝が図りやすい、その結果としての役職定年制度であることが理解できます。

対象となる役職は、部長級・課長級がメインであり、役職定年となる年齢は、55歳とする企業が部長級では4割弱、課長級では5割弱であり、次いで部長級、課長級とも57歳とする企業が多いようです。

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役職定年以降の給与水準(課長級)については、概ね下がる傾向にあり、役職定年前と比べて下がる企業の割合は8割強となっています。

役職定年後の仕事内容については、「概ね同格の専門職」が5割強であり、次いで「概ね格下の専門職」(3割)「概ね格下のライン職」(1割)といった状況です。いずれにしても、それまでのライン職から外れ、同格もしくは格下のスタッフ職に就くというわけです。

このように見てくると、多くの企業サラリーマンは、仮に同一企業に65歳まで勤務する場合、50代後半から2段階で処遇の見直しを受けることになるわけです。第1段階はこの役職定年に伴うもので、第2弾が60歳定年後の再雇用によるもので、共に2段階で年収減を伴っていくことになります。

低下する中高年社員のモチベーション

このような状況の中で、中高年社員にとっては、モチベーションを維持していくことの難しさが明らかになってきています。2016年5月に経団連が発表したレポート『ホワイトカラー高齢社員の活躍をめぐる現状・課題と取組み』の中でも、「60歳以降の就業率が高くなっているなか、定年前後の処遇や役割の変化に対応できず、モチベーションが低下している社員への対応が、さらなる活躍推進の課題となっている。」と指摘しています。

人生後半期に入ると、必ずしも右肩上がりではない、自分の新しいポジション及び、自分を取り巻く環境への調和が図れず、モチベーション・ダウンを起こしてしまう人々も多いようです。

このような状態に陥らないためにも、自らの後半人生をどのように過ごすか、早い時期からイメージしておくことが重要だと言えるでしょう。マーネージャーでなく、一プレーヤーとして能力発揮できるための人脈とネットワークづくり、この時期をネクストキャリアに向けた準備段階であると捉え、さまざまな準備を始めてみるのも良いかもしれません。会社の業務だけでなく、ボランティアや地域社会への貢献にトライしてみるのも良いでしょう。いずれにしても、イキイキとしていない社員が会社の中に存在することは、本人にとっても企業にとっても望ましくないことであるのは明らかです。

企業にとってもモチベーション・ダウンした社員を雇用し続けることは、人材活用の面からも大きな損失です。そもそも、この「役職定年制度」と前回取り上げた「定年再雇用制度」は、年金支給開始年度を先延ばししたい社会保障側のニーズと総労働人件費を上げたくないという企業の意思の狭間において、その場しのぎの対応を図ってきた、言ってみれば「後手後手の制度対応」の結果とも言えるのです。

シニア社員にこそセカンド・ジョブ制度の導入を

人生90年時代を迎える中で、いかに高年齢社員をアクティブで生き生きと働ける環境を整えていくか。それは、給与などの処遇の問題のみならず、本人がそれまで培ってきた経験やノウハウを敬うことでもあり、一方で彼らにそれだけに留まるのではなく新しいノウハウや知見を吸収させ、時代の変化に柔軟かつ敏速に対応できる体質になれるかということでもあります。そのための50~60代の人事制度設計をいかに再構築するかが企業に問われていると言ってもいいでしょう。

近年若者の就労分野中心に、「パラレル・キャリア」や「セカンド・ジョブ」といった働き方が話題となっています。これは、ひとつの会社に留まりつつも、正規に副業やもうひとつの職業に就くことを会社が正式に認める制度です。これは、単一の価値観に囚われず多様な価値観を持つことで、働き方のレジリアンス(強靭力)を得たいと考える企業側と社員のニーズがマッチしたものです。

この働くことの多様性を得るための仕組みは、実は若者分野ではなく、定年退職前後の中高年社員の働き方にこそ、導入すべき制度ではないでしょうか。単一の会社に働き続け、やや頭が固くなってしまった中高年社員が。後半の人生を再び活力を持って働き続けるためのリ・チューニング期間として役職定年期間を位置づけ、あたらしくトライしたい分野に「パラレル・キャリア」、「セカンド・ジョブ」制度を活用してチャレンジする。超高齢社会が進む中、働き続けることに高いモチベーションを維持し続ける高齢者を増やすことは必須テーマであり、そのための制度構築が求められています。