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新潟を拠点とする航空会社「トキエア」に乗ってみた

鳥塚亮えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。
出発を待つトキエア103便  1月31日 筆者撮影

新潟空港を拠点とする新しい航空会社「トキエア」が昨日1月31日に就航しました。

当面の間は新潟と札幌(丘珠)を週4日、1日2往復体制で運航し、将来的には仙台、神戸、中部、そして羽田路線への就航を目指しています。

トキエアは大手航空会社と競合しないような隙間のマーケットを狙うLCC(格安航空会社)として2020年に構想をスタートしてから、3年以上の準備期間を経て昨日2024年1月31日に就航し営業を開始したのですが、各所にコストを抑える仕組みが見られます。

コスト削減方法 その1

小型のプロペラ機を使うこと。

航空機というのは飛行することによって各種費用が発生します。

燃料代はもちろんですが、航空無線局のような航法援助設備の使用料、空港の着陸料金、あるいは搭乗ブリッジの使用料金などがかかりますが、小型のプロペラ機を使用することによって燃料費だけではなく、こういった各種経費を削減できます。

こちらは昨日同じ新潟空港の隣のゲートから出る札幌行のANAのプロペラ機です。

搭乗ブリッジが取り付けられて、トーイングトラクターが機体の前に付けられています。

搭乗ブリッジを使用する場合と、沖止めといって離れたスポットに飛行機を止めて歩いていく場合とでは空港に支払う使用料が異なります。また、出発のために後ろに飛行機を押すトラクターも、大手航空会社は自前ですが、小さな会社がハンドリングを大手にお願いする場合には金額が変わってきます。

トキエアのように、小型の飛行機が沖止めスポットで出発する場合は、自走してクルリと方向転換できますからトラクターは不要になります。

コスト削減方法 その2

昨今LCCではどこも最新鋭の機材を導入する傾向にあります。

その理由は最新鋭の航空機であればエンジンの性能が向上していますから燃費が良く、さらにメンテナンスにもお金がかからないからです。

1978年にアメリカのカーター政権が航空自由化を提唱した当時は、格安航空会社は初期投資を抑えるために中古の航空機を使っていました。ところが、それが災いしていろいろな事故が発生し、「格安航空会社は危ない」と言われる時代が続きました。ところが昨今では世界的に格安航空会社も最新鋭機を導入するようになり、コスト削減はもちろんですが、安全性も飛躍的に向上しています。

コスト削減方法 その3

地域を巻き込んだ営業戦略を行っています。

具体的には地域企業にスポンサーになっていただいたり、地域行政とタイアップしています。

例えばトキエアでは機内サービスするお茶菓子などは新潟県の米菓などを地域の事業者さんとタイアップして期間を定めて提供しています。

今日筆者が搭乗したトキエア103便では新潟県のお饅頭が機内でお茶菓子として配られましたし、初日の就航記念プレゼントではオリジナルエコバグに入った新潟県産品が配布され、村上のお茶や佐渡のお米などが入っていました。また、県の観光案内パンフレットなどもありましたが、こうすることで乗客にも喜ばれ、地元商品の宣伝にもなるという一石二鳥、あるいは三鳥の効果を上げることができます。

地域に根付いた航空会社ならではのやり方ですね。

新潟県に飛行機は必要か?

筆者は新潟県に住んで4年半になります。

住んでみて気が付くことは、新潟県というところは国際線の航空機が発着する空港がある割には航空の過疎地帯と言っても良いところです。

なぜなら新潟県には上越新幹線、北陸新幹線という2つの新幹線が走っていて、特に上越新幹線の方は開業から40年以上が経過しているからです。上越新幹線の開業前までは新潟-羽田間に航空便が1日何往復も飛んでいましたが、新幹線が開業したときに廃止され、すでに40年が経過しています。

地方都市の皆様方にとっての大きな課題は首都東京との直結です。

ということは、新潟県の皆様は自分たちが東京に行くことを第一に考えますから、新幹線があれば飛行機は要らないのです。

でも、それはあくまでも自分たちが東京へ行く場合であって、日本全国から、あるいは世界から見た場合、新潟がどう見えるかという視点が抜けています。

飛行機というのは、外から自分たちの地域へお客様を運んできてくれる手段としては無くてはならないものです。

また、航空輸送というのは旅客輸送だけでなく、貨物輸送という点でも大切な役割があります。

例えば、地元でとれた海産物や農産物を東京へ出荷する場合、トラック輸送があれば十分だとされています。

夕方出荷すれば翌日には東京の食卓に並びますからね。

でも、世界のマーケットを考えた場合はどうでしょうか。

羽田空港など24時間稼働可能な空港との直行便があれば、夕方から夜に地元を出る便に乗せれば、羽田で国際線の深夜便に積み替えることができます。そうすれば翌朝には東南アジア各国に到着します。

こういう航空網があれば、特に高級食材には有利ですね。

なぜなら高級食材には付加価値をつける必要がありますから、東南アジア各地で新鮮な日本の食材が手に入ることは重要なことだからです。

あるいは、地方の銘菓をその日の午後、都内での茶話会に取り寄せるなどということも東京との直行便があってのことですが、現状、新潟県ではその日の午後に東京に地元の産物を届けることや、翌日に海外の食卓に新鮮な海産物を届けるということは難しい状況にあります。それをトキエアが解決できるかもしれません。

こう考えると、トキエアという新しい航空会社が新潟空港を拠点として飛び始めたことは、新潟県の観光や経済にとって大きな可能性を示すものだと筆者は考えます。

トキエアが起爆剤となって、新潟の航空需要が盛んになって、日本海側の経済が活発になっていることを願ってやみません。

筆者が昨日搭乗したトキエア103便の機内で、機長がアナウンスで夢を語っていました。

機長が航路上の案内などをするのはいつものことですが、夢を語るというのは初日ならではです。

「新潟をはじめとする日本海側は、かつては北前船で栄えました。トキエアが現代の北前船となって、新潟や北海道に新しい経済や文化を呼び起こし、地域に貢献できるようにすることが私の夢です。」

こんな素敵なビジョンがある機長さんをはじめ、多くの職員の皆様方が頑張って就航にこぎつけたトキエアを、皆様で大きく育てていただきたいと筆者は願っています。

※本文中に使用した写真はすべて筆者撮影のものです。

えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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