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ながらスマホがまねいた踏切事故の悲劇

鳥塚亮えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。
事故が発生したのと同じ路線の別の踏切。(筆者撮影)

都内の踏切で痛ましい事故が発生しました。

歩きながらのスマホに気を取られて自分が踏切の中に取り残されていることに気が付かぬまま電車に接触してお亡くなりになられたようで、大変お気の毒な事故だと思います。

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人身事故、あるいはお客様が列車と接触する事故は、一般的に自らの意思で命を絶つ行為が多いと思われていますが、実際にはホームからの転落の多くは酔って足元がふらついたり、あるいは今回のようにスマホなどに気を取られて注意が散漫になって転落したりしていることが、警察の現場検証でホームのカメラ等に記録された映像の解析などから判明しています。

このため、多くの鉄道会社では、近年、ホームからの転落事故を防ぐためにホームドアを設置したり、あるいはホームのベンチの角度を線路に直角になるように変更したりしています。

しかしながら、それでも転落事故は多く発生しています。

電車から降りた乗客が、本来なら電車に沿って歩いて改札口に向かう所を、スマホをしながらそのまままっすぐ進んで反対側の線路に転落したりする光景が、事故後の現場検証でホームの監視カメラに映っていたりすることが多く、鉄道会社の注意喚起だけでは防ぐことは不可能です。かといって、全部の駅にホームドアを設置することは経営的には難しい点がありますから、乗降客が多い駅、危険が隠れていると判断できるような駅から、優先順位をつけて数年がかりで設置工事を進めている状況ですが、それでも全部の駅に設置することはなかなか現実的ではありません。

踏切も同じで、できれば線路を高架化や地下化することによって踏切を解消することが求められてはいるものの、計画段階からでは数十年、工事開始後も数年かかるのが現状です。

では、踏切事故を防ぐためにはどうするかというと、障害物を感知するセンサーを設置して遮断機が下りているときに障害物となる物体が踏切内に進入した際に、危険信号を発報させて列車を停止させる装置が都市近郊ではほとんどすべての踏切に設置されています。

ところが、この感知センサーにも問題点があって、列車が踏切に差し掛かる直前に障害物が進入した場合には列車が停止できないこと。あるいは、障害物が小さい場合にセンサーが感知できないなどの弱点があります。

自動車のような大きな物体が、踏切が鳴動した直後から踏切内に取り残されたような場合は十分に対応できるとされていますが、人のような小さな物体では踏切上の線路の中を動き回らない限り感知できないことがほとんどで、今回のように踏切内であっても線路の外側に人が存在した場合にはセンサーで感知できず、かといって踏切内ですから結果として通過する列車と接触してしまったと考えられます。

まして時間帯は夕方の薄暮の頃。一番見通しがきかない時間帯ですから運転士の発見も遅れがちであったことが悲劇につながったのではないでしょうか。

昨今では住宅街にある踏切などでは警報機が鳴りだして数秒間は大きな警報音で注意を喚起しますが、近隣への騒音対策のために遮断機が下りて少しすると警報音が小さくなる踏切も多くあります。

事故のあった踏切では渡っている人に警報音と共に「踏切の外へ出てください。」と音声で知らせる装置も付いていましたが、イヤホンをしていれば気付かないことになるでしょう。鉄道会社側としては正直申し上げて、この種の事故に対してこれ以上対策を立てることは難しいのではないかと筆者は考えます。

駅のホームや踏切など線路の近くには危険がたくさん潜んでいます。ご自身の身の回りの危険を認識し、ご自身で回避していただくことがこの種の事故を未然に防ぐための対策であり、それは一人一人が行っていただかなければならない安全確保の基本となります。

列車の運転が停止すれば大都市近郊では何万人という利用者に影響が出ることを踏まえて、一人一人のお客様が列車の安全運行にご協力いただくことで都市交通というシステムが成り立っていることをご理解いただきたいと考えます。

事故でお亡くなりになられた方のご冥福をお祈り申し上げます。

えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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