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忍者空港から忍者高速船にお乗換え。セントレアの不思議 パート2

鳥塚亮えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

昨日お伝えした忍者空港セントレアのパート2

実はこの空港の目の前から海上交通として「忍者高速船」が出ているのを見つけました。

中部国際空港セントレアのような海上空港へのアクセスは、鉄道や高速道路ばかりでなく、船というルートも有効な手段なのですが、意外にも日本は海洋国家と言いながらも内航海運と呼ばれる船舶による国内旅客輸送はあまり発達していません。

どちらかというと陸上交通に主眼を置きがちなのは国も国民も同じで、国内各地のフェリーの路線も統廃合が続くなど、結構苦戦しています。

でも、緊急事態などには海からのルートというのはとても重要で、それが昨年秋の台風で関西空港へ渡る連絡橋が破壊されたことで、広く知れ渡ることとなりました。

昨今では災害時の避難所としての船舶の重要性や、大きなイベント時の宿泊施設としても有効だという議論が始まっていますが、セントレアでは三重県津市とを結ぶ海上アクセスルートとして、高速船が運航されています。

セントレアの中を探検していたら、高速船があるのが目に留まりました。

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ターミナルビルから鉄道の駅へ向かう通路の延長線上に、まっすぐ行ったところに「高速船乗り場」という表示を見つけました。

歩いて行ってみると、通路の上の方に旗がかかっています。

よく見ると、

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忍法「高速移動!」

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海が育てる美しい宝石

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伊勢の国のおいしさギュ~っと

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海のビーナス

三重県を代表する観光コンテンツが順番に表示されています。

セントレアは愛知県ですが、これから高速船で向かうのは三重県ですよ。

そういうメッセージが伝わって来て、わくわくします。

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通路の突き当りには桟橋があって、こんなかっこいい高速船が待っています。

でも、この船をよく見ると、

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「忍者高速船」と書かれています。

さっそく切符売り場で切符を買おうとすると、

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忍者高速船きっぷ売り場と書かれています。

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そしてお客様が続々と船に乗り込んでいかれます。

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船の中はこんな感じ。

ゆったりとしていて電車やバスとは比べ物にならないほど快適です。

そして、船の中をよく見ると、

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救命胴衣の付け方を忍者が教えてくれています。

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他にも忍法豆知識や、

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忍者文字の解説や、

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船の中での注意事項など、きちんと学習するように忍者から指示されています。

読んでみると

「お手洗い、自動販売機は船内後方にございまする。

突然の揺れがございまするので、移動の際は十分ご注意くだされ。」

「船内はすべて禁煙でござる。」

などなど、忍者が使うような言葉で書かれています。

船に乗り込んだら、安全運航と緊急事態のために、お客様はしっかりこれらを学習しなければなりません。

なぜなら、しっかり学習しているかどうかは、

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船内のどこかに潜んでいる忍者がちゃんと見張っているのです。

とまあ、こんな楽しい忍者高速船ですが、これは「津エアポートライン」という船会社で、セントレアと対岸の津市なぎさまちとを45分で結ぶきちんとした海上輸送手段。

ではなぜ、このように忍者高速船にしたのかというと、セントレアが観光客誘致のために忍者キャンペーンを行うに当たって、忍者のふるさと三重県に直行する高速船を忍者高速船としてお客様に楽しんでいただくことで三重県をPRしようという船会社の企画なのです。

そう、この津エアポートラインという会社は、皆様ご存じの和歌山県のタマ電車(和歌山電鉄)を運営する岡山の両備グループの会社なのです。

そして、この企画を考えて実行したのはこの方です。

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津エアポートライン株式会社 シニアエキスパート

山田和昭さん。

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、山田さんはおととしまで鳥取県の第3セクター鉄道である若桜(わかさ)鉄道で社長をされていた方です。

社長の実績と力量を両備グループの小島代表に認められ、現在、三重県津市とセントレアを結ぶ高速船「津エアポートライン」の企画運営を任されていらっしゃいます。

筆者とは旧知の間柄ですが、少し前に「東洋経済」に山田さんの記事が掲載されていましたので、この面白い高速船を体験させていただこうと先日山田さんを訪ねてきたときの写真です。

船も競争の時代でなかなか大変なようですが、冒頭で述べましたように、日本では内航海運(海上旅客輸送)がほとんど知られていませんので、大切なのはまず高速船の存在を知ってもらうこと。そのための忍者高速船は強力なツールになると考えます。

実際、船はほぼ1時間に1本の割合で走っているわかりやすいパターンダイヤになっていますし、津市のなぎさまちから乗り換えなしの45分でセントレアに来ますから便利この上ありません。筆者が訪ねたときは平日の日中時間帯でしたが、100名乗りの船に6~7割の乗船率でしたので、なかなかの利用率だと思いました。

「この分だと、もう少しお客様が増えたら乗り切れなくなりますね。次の船を用意しなければならないのでは。」

筆者がそう尋ねると、

「鳥塚さん、そう簡単に言わないで下さいよ。鉄道車両も高額だけど、船はもっと高いんですから。それに、船員さんの確保も難しいんです。」

とのこと。

利用者を増やすのも大変ですが、ビジネスの成長に合わせてビジネスチャンスを逃さないようにするのも大きな課題のようです。

とはいえ、こんな楽しい船が走っているのですから、皆様ぜひ、忍者高速船に一度ご乗船いただきたいと思います。

中京地区の皆様でしたら、名古屋から名鉄線でセントレアに来て、セントレアで空港探検を楽しんだ後、忍者高速船で三重県津市へ渡り、近鉄電車で帰って来ると、ちょうどよい1日コースではないでしょうか。

忍者高速船で三重県へ渡った先で何をするか、どこを見るかは、「津エアポートライン」のWebサイトでご確認ください。

津エアポートライン 忍者高速船のご案内

Webサイト上では、初めての方でもわかりやすいようにきちんと三重県の観光需要開拓もしてあるのはさすが山田さんですね。

▼山田さんの東洋経済の記事はこちらをご覧ください。

若桜鉄道の社長はなぜ「船会社」に転職したか

忍者空港セントレアから忍者の国へ向かう忍者高速船。

この国も何だか面白くなってきていると最近筆者は感じています。

※注:文中に使用した写真はすべて筆者撮影です。

取材協力 津エアポートライン株式会社

えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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