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ANA、マレーシア行きロングステイ向け新運賃、ビジネスクラス往復9万円台という衝撃

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
マレーシアの首都・クアラルンプール(写真は全て筆者撮影)

 ANA(全日本空輸)は、11月20日に自社のウェブサイトで販売する東南アジア路線としては、これまでで最も安い往復9万円代というビジネスクラス運賃を羽田・成田~クアラルンプール線に設定したことを発表した。

最低でも9日間以上の滞在が必要だが、ビジネスクラスで往復10万円を切る

 ただし条件があり、ロングステイ向けの運賃であることから最低9日間の滞在期間が必要(最長6ヶ月)。ビジネスクラス利用で往復9万円、エコノミークラス利用で往復4万円に設定したが、日本発の東南アジア路線でANAが発売するビジネスクラス運賃では最安となる。販売期間・搭乗期間は限定されており、販売期間は11月17日~12月31日まで(加えて日本出発の28日前までの購入が必要)、搭乗期間は来年(2018年)1月10日~9月30日までとなる。ANAは、羽田~クアラルンプール、成田~クアラルンプールを各1往復運航している。

 11月20日時点では、空港施設使用料や燃油サーチャージが往復で7870円かかる(羽田発着の場合)ことから、実際の支払額で見ると、ビジネスクラスで9万7870円、エコノミークラスで4万7870円となる(為替や燃油サーチャージなど購入時のタイミングによって多少異なる)。長期滞在者(ロングステイ)向けの運賃ということで、予約変更やキャンセルにも柔軟に対応し、予約変更は手数料1万円で可能となっており、復路便の予定がはっきりしない長期滞在にも使える。ANAに話を聞くと「今までロングステイのお客様のニーズを十分取り込めてなかったところがあり、今後シニア層も含めて、新しい需要を取り込みたい」と話す。

ANAは2015年9月に成田~クアラルンプール線を就航した(写真はクアラルンプール空港での歓迎セレモニー)
ANAは2015年9月に成田~クアラルンプール線を就航した(写真はクアラルンプール空港での歓迎セレモニー)

年間158万人の日本人が海外で2週間以上滞在している

 ロングステイ財団の弓野克彦理事長によると、日本から海外へ出かける旅行者(2016年は1712万人)の中で推定158万人が海外に2週間以上滞在しており、その中でもマレーシアは11年連続でロングステイ希望国・地域ランキング1位となっているそうだ。マレーシア政府観光局のアズラン東京支局長は「物価も安く、マレーシア・マイ・セカンド・ホーム・プログラムという、10年間の長期滞在が可能なビザがあり、リタイアした方やお子様の教育の為など年齢の制限もない。10年間の長期滞在ビザを使わなくてもビザなしで90日まで滞在できる」と長期滞在がしやすい国ということをアピールしている。

東京都内でロングステイ向け運賃に関する記者発表が行われた
東京都内でロングステイ向け運賃に関する記者発表が行われた

 ANAはこれまで北米・ヨーロッパ・アジア・オセアニアなどで65日~1年間滞在できる長期滞在型運賃を発売しているが、エコノミークラスのみでビジネスクラスで販売するのは初めてとなり、期間も9日間以上となった。年齢の設定もなく、年齢に関係なく誰でも利用可能な運賃として発売される。羽田・成田~クアラルンプール線のビジネスクラスは、ボーイング787型機の「ANA BUSINESS CRADLE」仕様の機材が投入されており、完全フルフラットシートではないが、ビジネスクラスに片道5万円以下で搭乗できるというのは、かなり思い切ったことであることは間違いない。

クアラルンプール線のビジネスクラスは「ANA BUSINESS CRADLE」仕様となっている
クアラルンプール線のビジネスクラスは「ANA BUSINESS CRADLE」仕様となっている

マレーシア線はLCCも含めて4社が就航する競争が激しい路線

 成田~クアラルンプール線ではJALとマレーシア航空、羽田~クアラルンプール線にはマレーシアを拠点とするLCCのエアアジアXが就航している。エアアジアXも含めて全便にビジネスクラスが搭載されており、東南アジア路線でも競争が激しい路線の1つとなっている。ANAによると2017年度の羽田・成田~クアラルンプール線の平均搭乗率は8割程度であるが、長期滞在者においては片道単位で購入するエアアジアXの利用も多い。

 フルフラットに近いリクライニングシートを採用しているエアアジアXのビジネスクラスは、片道5~8万円程度が相場であるが(エコノミークラスでは日によっては片道2万円を切ることもある)、食事も軽食の提供のみとなり(エコノミークラスの食事は有料販売)、機内食やシートテレビなどの高品質なサービスを求める人にとってはANAやJALなどのフルサービスキャリアを利用したいところであり、今回の価格設定はエアアジアXにも対抗できる運賃といえる。

クアラルンプール国際空港のチェックインカウンター
クアラルンプール国際空港のチェックインカウンター

日本発の航空券は片道の割引運賃がない

 日本発のフルサービスキャリアの運賃の欠点としては、片道の割引運賃の設定がなく、往復で予約変更ができる有効期限が長い航空券がもの凄く高い。そういった意味でも予約変更可能で最大半年間滞在できる割安な今回の運賃設定は長期滞在者にとっては魅力的な運賃になるだろう。ロングステイにおける日本とマレーシア間の往復にエアアジアXを利用する人も増えているが、シニア層においてはLCCに抵抗がある人も多い。

 特に荷物が多い時にLCCの場合は追加の料金が必要となるが(エアアジアXでは、エコノミークラスは1個目から有料、ビジネスクラスは30キロまで無料)、フルサービスキャリアであればその心配もなく(今回の運賃ではエコノミークラスは1個あたり23キロまで×2個、ビジネスクラスは1個あたり32キロまで×2個)、ビジネスクラス利用時は最大64キロまで預けることができる。機内サービスを含めて安心して利用できる点も大きい。

 長期滞在者向けの航空券選びに一石を投じたことだけは間違いなさそうだ。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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