Yahoo!ニュース

緊急事態宣言は辛いが役立つ

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
在宅ワーク70%は難しい(提供:tanabetomiwo/イメージマート)

1月7日に緊急事態宣言が出されてから2週間以上がたちました.テレワーク率を70%にという訴えもむなしく電車は相変わらず混雑しているようです.感染経路の多くが会食と会社らしいので,テレワーク70%は効果的だとは思うのですが,そう簡単にはいかないようです.

というわけで,1か月間の緊急事態宣言は我々の感情にどのような影響を与えたのでしょうか?前回ほどの効果がないと言われてはいますが,果たして人々の感情にも訴えかけるものはなかったのでしょうか?

ここで,感情の変化を見てみたいのですが,直接的に人々の感情を計測することは困難です.そこで,近年では人々の感情を調べる代替手段としてソーシャルメディアを利用するという方法が良く取られます.

ツイート分析

そこで,緊急事態宣言の影響をソーシャルメディアのデータ,特にTwitterのデータから分析してみたいと思います.前回は2020年12月16日に「勝負の3週間」ツイッター上の雰囲気はどう変わった?として記事を書きましたが,その後どうなったでしょうか.

ツイッターから新型コロナに関するツイートを収集して分析しました.

まず,PCR陽性者数とツイート数の関係についてみてみましょう.

コロナ関係ツイート数とPCR検査陽性者数(著者作成)
コロナ関係ツイート数とPCR検査陽性者数(著者作成)

これより,第2波のころと比べるとツイート数は少ないものの,陽性者数が増えるにしたがってツイート数が増加しており,ツイッター上でのコロナに関する投稿はそれなりに社会的状況を表していることが分かります.

感情の変化

では,次に,緊急事態宣言が出る前後から人々はどのような感情を持っていたのか分析してみましょう?

ツイートに含まれている感情を抽出し,その変化を見てみました.ここでは一週間分のツイートを使って,各ツイートに含まれる感情語をML-Askを用いて抽出しています.

なお,人々の感情を分析する際に,リツイートやニュース記事などURLを含んだツイートはノイズとなってしまうため,オリジナルツイートかつURLを含まないツイートのみを対象として分析をしてみます.

ここで得られた感情が過去のどの時点と類似しているかによって,どんな感情だったのかを見てみましょう.

まず,第3波直前の11月初めの感情を過去の感情と比較してみましょう.

11月1日の感情との類似度(著者作成)
11月1日の感情との類似度(著者作成)

これを見ると,第2波~第3波までの間はほぼ感情に大きな変化はなく,第2波直前と類似していたことが分かります.油断の感情が出ていた可能性が高そうです.

次に,第3波で感染が拡散し始めた12月末について,12月20日と12月29日について感情の類似度を過去と比較してみます.

12月末の感情との類似度(著者作成)
12月末の感情との類似度(著者作成)

12月20日の段階では,第2波や第1波の頂点から終わりかけのころと感情が類似しており,緊張感があったのではないかとみられます.特に,第2波と第3波との間との類似度が低いことから,油断期間とは異なる感情が出ていたと考えられます.しかし,12月29日の感情は第2波が収まってからの期間との類似性が高く,油断していた可能性が示唆されます.

その結果かどうかは分かりませんが,12月31日から感染爆発が生じ,一気に感染者数が日本全国で増加し,緊急事態宣言へとつながります.

では,ここで緊急事態宣言が出ることが決まった1月7日の感情を過去の感情と比較してみましょう.

1月7日の感情の過去との類似度(著者作成)
1月7日の感情の過去との類似度(著者作成)

これは今までにない形です.実は,これほどまでに過去と類似性の異なる感情が出たことはありません.第3派の爆発的な感染を受けて人々の感情が大きく変化したとともに,緊急事態宣言への期待が表れていたのかもしれません!いったいこの時期はどんな感情が多く表出されていたのでしょうか?1月7日の感情分布を見てみましょう.

1月7日のコロナ関係ツイートの感情分布(著者作成)
1月7日のコロナ関係ツイートの感情分布(著者作成)

「恥」の感情が突出して表出されています.ん?恥?緊急事態宣言が出ないことが恥ずかしかった?んなバカな.

と思って調べたところ

逃げ恥2021が,コロナ禍リモートワーク等いろいろな社会問題を盛り込んでいてすごい

というツイートが1万回以上RTされているのが見つかりました.なるほど「逃げ恥」の恥が感情として引っかかってしまっていました.一週間の感情を取っているので,1月2日に放送された影響が7日にも残っていたようです.こういうのがあるからツイート分析は難しいんですよね.ここまで影響の大きいノイズも珍しいですが.

緊急事態宣言後の感情

というわけで,気を取り直して,緊急事態宣言が出た後の感情として,1月21日の感情と過去の感情を比較してみます.参考までに,12月20日との比較も行ってみました.

1月21日の感情と過去との類似度(著者作成)
1月21日の感情と過去との類似度(著者作成)

これより,12月20日ごろと同様,第1波,第2波あたりと類似した感情が出ており,緊張感のある状況にあるのではないかと考えられます.特に,最初の緊急事態宣言時と類似した感情となっているため,緊急事態宣言には人々の感情への影響という意味では一定の効果があったと言えそうです.

緊急事態宣言も出されてから2週間ほどたち,緊張感が薄れているのではないかという話もありますが,1月21日現在の感情は1月10日から類似性が高いまま維持されていることから,少なくとも2週間の間は緊張感が維持されている可能性が高そうです.

間もなくワクチン接種も開始されるようです.なんとかこの緊張感を継続させて,拡散数を抑えて,早く日常に戻ってきて欲しいものですね.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

鳥海不二夫の最近の記事