Yahoo!ニュース

藤井聡太竜王と渡辺明名人の覇権争い。割って入るのは永瀬拓矢王座か関西勢か?!-2022年将棋界展望-

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
藤井聡太竜王は、年明け早々に渡辺名人とタイトル戦で激突する(写真:森田直樹/アフロ)

 あけましておめでとうございます。

 昨年の年明けより希望が持てる社会情勢になっていることを、素直に嬉しく思います。

 2022年も棋士ならではの視点を交えて将棋界の動向をお伝えしますので、お付き合いのほどよろしくお願い致します。

2021年のタイトル戦振り返り

画像作成:筆者
画像作成:筆者

 まずは2021年のタイトル戦を振り返ってみよう。

 話題の多かった一年だが、意外にもタイトルが動いたのは2棋戦のみ。

 どちらも藤井聡太竜王(19)が挑戦して豊島将之九段(31)からタイトルを奪ったものだった。

 渡辺明名人(37)は3つのタイトルを全て防衛。フルセットまで持ち込ませない強さを見せた。第92期ヒューリック杯棋聖戦で四冠を目指したが、藤井棋聖の前に3連敗を喫してしまった。

 永瀬拓矢王座(29)は虎の子の一冠を死守した。2021年はタイトルを増やせなかったが、2月から始まる第47期棋王戦五番勝負で二冠目を目指す。

 最高とはいかなかった一年でも、内容面の充実ぶりは光っている。永瀬王座が藤井竜王と渡辺名人の覇権争いに割って入る可能性は十分にある。

 2021年の年初時点でのタイトル保持数はそれぞれ、

渡辺明:三冠

豊島将之:二冠

藤井聡太:二冠

永瀬拓矢:一冠

 2022年の1月2日時点では、

藤井聡太:四冠

渡辺明:三冠

永瀬拓矢:一冠

 パワーバランスが崩れつつあるのがおわかりだろう。

 「4強」という言葉も聞かれなくなっている。

 1月から渡辺王将に藤井竜王が挑戦する第71期ALSOK杯王将戦七番勝負が開幕する。

 ここで藤井竜王が奪取すると、タイトル数が「藤井4-渡辺3」から「藤井5-渡辺2」となり、藤井一強時代の到来へカウントダウンが始まりそうだ。

 2022年は藤井竜王と渡辺名人の覇権争いから目が離せない。

割って入るのは関西の若手棋士か?

 昨年12月26日(日)にSUNTORY将棋オールスター東西対抗戦2021決勝戦が行われた。

 この棋戦は、ファン投票で2名、予選で3名を東西から選出し、5対5の団体戦を行う準公式戦で、今年初めて開催された。

 結果は藤井竜王、豊島九段を擁する関西チームがなんと5戦全勝!関西の勢いを象徴する出来事だった。

 覇権争いに割って入る棋士も関西所属に有力候補が多くいる。

 タイトルを失ったとはいえ、第42回将棋日本シリーズで藤井竜王をくだして優勝した豊島九段は今後もタイトル戦に絡んでくることは間違いない。

 第80期順位戦A級で首位を独走する斎藤慎太郎八段(28)。2敗で追う糸谷哲郎八段(33)は、どちらも当然タイトル戦線に絡んでくるだろう。

斎藤八段の名人連続挑戦&羽生九段の残留争いの行方は?ー第80期順位戦A級中間展望ー

 先日放送された第29期銀河戦決勝で渡辺名人をくだして優勝を飾った菅井竜也八段(29)。

 順位戦B級1組で藤井竜王に黒星をつけた稲葉陽八段(33)もタイトル戦への再登場が待たれる。

 関西にはイキのいい若手棋士も揃っている。

 若手棋戦を2つ制覇、2期連続となる王位リーグ入りを決めている池永天志五段(28)。

 今期NHK杯で強豪をなぎ倒してベスト8入り。順位戦C級1組では連続昇級を狙う出口若武五段(26)。

 昨年、若手東竜門となる第11期加古川青流戦を制し、今期勝率は8割近く。第4回ABEMAトーナメントでの活躍でも話題になった服部慎一郎四段(22)。

 この辺りの若手棋士もタイトル挑戦争いに顔を出してくるかもしれない。

中堅・ベテラン棋士の巻き返しは?

 しかし何故関西に若手有望株が多いのだろうか。

 理由は複合的だが、一番の要因は藤井竜王の存在だと筆者は思う。

 身近に目標となる存在がいることで、全体の士気が上がっているのではないか。

 もちろん関東にもタイトル戦線に絡む可能性のある若手棋士もいる。

 中でも藤井竜王と同学年で、第52期新人王戦で優勝した伊藤匠四段(19)は、近い将来タイトル戦に出てくる可能性を秘めている。

 1月に始まる第63期王位リーグで、伊藤四段の今の立ち位置が見えてきそうだ。

 昨年は羽生世代と呼ばれる棋士の活躍も目立った。

 タイトル獲得通算100期へあと1つとせまる羽生善治九段(51)は、タイトル戦にはあと一歩届かなかったが、若手たちに対抗できる実力を見せ続けている。

 会長職をこなしながら順位戦A級に在籍し続ける佐藤康光九段(52)。

 佐藤九段と共に第47期棋王戦でタイトル挑戦争いに絡んだ郷田真隆九段(51)も実力のあるところを見せている。

 昨年、40代以上では唯一のタイトル戦出場者となった木村一基九段(48)。挑戦に失敗してから調子を落としているが、必ず巻き返してくるだろう。

 最近は年齢を重ねても輝きを失わない棋士も多くいる。一つのキッカケで爆発的に活躍する若手棋士も多い。ここで名前の出なかった棋士にもチャンスはある。

 皆さんが応援している棋士の名前がなかったとしても、ガッカリせずに応援を続けていただきたい。

 2022年はいったいどんな一年になるのだろうか。

 様々なドラマが生まれ、歴史に残るような出来事が起こるかもしれない。

 この一年も将棋界にどうぞご注目ください。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

遠山雄亮の最近の記事