19日、第69期王座戦挑戦者決定戦が行われ、木村一基九段(48)が佐藤康光九段(51)に勝って挑戦権を獲得した。

 永瀬拓矢王座(28)との五番勝負は9月1日に宮城県仙台市「メトロポリタン仙台」で開幕する。

強さの秘訣は

 【百折不撓】とは、「幾度失敗しても志をまげない」という意味で、木村九段が好む言葉としてファンによく知られている。

 6度にわたるタイトル挑戦失敗。それを乗り越えての王位獲得。

 そして昨年はそのタイトルを藤井聡太二冠(19)に奪われた。

 48歳ともなれば、成績が下降しても致し方ない年齢だ。しかしその年齢にして再びタイトル戦の舞台へ戻ってきた。

 まさに「百折不撓」。その言葉を体現する活躍ぶりだ。

 木村九段は48歳になった今も何故強さを増しているのか。

長年の経験に裏打ちされた技術

 数年前までの将棋は、「堅さ」を重視する傾向にあった。自玉周辺に駒を集めて玉の守りを重視する戦い方だ。

 しかし近年は将棋AIの影響もあり、「バランス」を重視する傾向に移りつつある。全体に駒を配置して、自玉の守りは堅くなくてもスキをなくす戦い方だ。

 その代表格が雁木囲いであり、「堅さ」の代表格である穴熊の採用率はガクンと落ちている。

 木村九段は「堅さ」を重視する時代にも「バランス」を重視して、玉の守りが薄い陣形での戦いを得意としてきた。

 いま、時代が木村九段に追いついてきた。そして木村九段が長年かけて磨いてきた「バランス」感覚は確かな経験となり、一昨年のタイトル獲得、そして今回のタイトル挑戦につながった。

 50歳を過ぎてもA級に在籍して活躍する佐藤九段も、近年はこの「バランス」型の将棋を好んでおり、それが年齢を重ねても活躍する原動力になっていると筆者はみている。

 佐藤九段の序盤戦術は一見すると突飛にみえることもあるが、それも全て「バランス」を重視しているからであり、その認識がないと本質を見誤る。

 本局も「バランス」型の将棋に進み、木村九段の構想力が上回った。

第69期王座戦挑戦者決定戦▲佐藤康光九段ー△木村一基九段 38手目△5五歩まで
第69期王座戦挑戦者決定戦▲佐藤康光九段ー△木村一基九段 38手目△5五歩まで

 この△5五歩と5筋の位を取った手が木村九段の会心の一手だった。「バランス」をとる将棋では、位を確保できると優位に立ちやすい。

 一方で位は攻撃目標となりやすいため、確保に苦労する位を取るのは禁物なのだ。

 その辺りの危機管理能力に木村九段は長けている。この5筋の位は相手の攻撃目標にはならず、盤面を制圧する柱となった。

 木村九段が長年かけて磨いてきた感覚であり、類まれなる技術といえる。

(※)位を取る=盤上の5段目に歩を進めること。その歩をすぐに取られないことが条件。

鍛錬に裏打ちされた読み

 序盤で作戦勝ちを得て、相手に無理攻めを強いる木村九段が得意とする展開に進んだ。

 その極めつけともいえるのがこの△5二玉だった。

第69期王座戦挑戦者決定戦▲佐藤康光九段ー△木村一基九段 74手目△5二玉まで
第69期王座戦挑戦者決定戦▲佐藤康光九段ー△木村一基九段 74手目△5二玉まで

 相手の桂成り(6二桂成)を防ぐため、4一から玉を移動させた。

 大将自ら相手の攻めを封じる、これぞ木村将棋といえる一着だ。

 ギリギリの受けはわずかな齟齬も許されないため、相手の攻めを丹念に読む必要がある。

 こうした場面で日々の鍛錬の成果が現れる。鍛錬を怠っていると読みが甘くなり悪手を指してしまう。

 日々鍛錬を行うには勝ちへの執念と実力向上の高い志が必要である。

 そして日々鍛錬を欠かさないためには健康も大切だ。

 19歳の藤井二冠であれば考える必要もない問題だが、30、40と年齢を重ねると精神面と健康面が常に満足とはいかないのが人の常だ。

 木村九段は48歳の今も鍛錬を欠かさず、体力維持にも余念がない。

 他人には見えない鍛錬がこうした場面で真似のできない強さとして現れる。

 筆者も同じプロとして木村九段のこうしたところに敬意を持つのである。

五番勝負について

記事中の画像作成:筆者
記事中の画像作成:筆者

 王座戦五番勝負は9月1日に開幕する。

 永瀬王座も虎の子の一冠を失うわけにはいかない。防衛に全力を振り絞るだろう。

 木村九段の強さとして日々の鍛錬をあげたが、永瀬王座も日々の鍛錬の凄まじさを知られる一人だ。

 勝利への執念はプロの中でも最上位クラスと筆者はみている。

 実力向上の志も高い。

 木村九段の2度目の戴冠を望むファンも多いが、永瀬王座は簡単な相手ではない。

 年齢差を考えると、永瀬王座有利の声が多いかもしれない。

 しかしこれまでの対戦成績は3勝3敗2千日手と全くの互角だ。

 長い戦いをいとわない二人だからか、8度の対戦で千日手が2回もあることに目をひかれる。

 全くの五分と筆者は予想する。

 毎局力のこもった長い勝負となるだろう。

 熱戦を、そして熱いシリーズを期待したい。