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【将棋】初代白玲は西山女流と渡部女流の争いに。最終戦展望も~第1期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦~

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 第1期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦がいよいよフィナーレを迎える。

 順位決定トーナメントは1戦を残すのみで、初代白玲を決める七番勝負へ進出したのは西山朋佳女流三冠と渡部愛女流三段だ。

 七番勝負進出を決める一戦となった2局や七番勝負の展望。

 そして順位決定トーナメント最終戦の見どころを解説する。

 各組の成績と順位決定トーナメントの全結果は公式ページをご参照いただきたい。

順位決定リーグ戦A組~D組

順位決定リーグ戦E組~H組

順位決定トーナメント

準決勝

 七番勝負進出を争った2局について振り返る。

 「2強」の一角、西山女流三冠は加藤圭女流二段と対戦。

 得意の振り飛車から豪快にさばくと、相手に粘るスキを与えずに圧倒した。

 苦手とする序盤にきめ細かい工夫で作戦負けを回避するなど、充実した内容だった。

 敗れた加藤女流二段だが、今期白玲戦での躍進は見事の一言だ。

 強豪揃いだった順位決定リーグを全勝で駆け抜け、順位決定トーナメント1回戦ではタイトル戦の常連である伊藤沙恵女流三段を攻め倒した。

 20代でのプロ入りからまだ3年。晩学でも活躍できることを知らしめた。

 個人的にも同じ一門であり、今後に期待している。

 まずは来期A級での戦いぶりに注目したい。

 もう一局は「2強」の一角である里見香奈女流四冠が渡部愛女流三段に敗れた。

 里見女流四冠が得意とするゴキゲン中飛車に渡部女流三段が見事な作戦を見せて優位をつかむ。

 終盤は里見女流四冠がしぶとく食い下がって一度は逆転に成功したが、時間切迫もあり攻め間違えて暗転。最後は渡部女流三段の猛攻をかわしきれなかった。

 渡部女流三段の最近の充実ぶりは著しい。

 タイトル獲得経験もある実力者だが、その時よりパワーアップしている印象を受ける。

 七番勝負は「西山の振り飛車vs渡部の居飛車」という構図で間違いない。

 持ち時間は各4時間と長くなる。これは長時間の対局を得意とする渡部女流三段にプラスの条件といえよう。

 実績でいえば西山女流三冠のほうが上だが、七番勝負はまったくの五分、どちらが勝っても不思議はないと筆者は考えている。

最終戦の大一番

 今期白玲戦は第2期に向けた順位付けを行っている。その戦いも1戦を残すのみ。

 来期の所属するクラスが変わる一番があり、これは昇級決定戦ともいえる大一番だ。

 その3局をみていきたい。

A級最後の椅子をかけた戦いは、千葉涼子女流四段-山根ことみ女流二段だ。

 千葉女流四段はタイトル獲得2期。前期マイナビ女子オープン本戦では準決勝まで進むなど、息の長い活躍を続けている。

 女流棋界は20代の層が厚く、白玲戦でもAクラスで40代以上は中井広恵女流六段だけ。千葉女流四段はベテランの意地を見せられるか。

 対する山根女流二段は、先日のタイトル挑戦は残念ながら失敗に終わったが、「2強」を追う若手女流棋士の一人だ。A級の座を確保し、来期は白玲への挑戦を狙っているだろう。

 ベテランと若手の熾烈な戦いとなる。

B級最後の椅子をかけた戦いは、室谷由紀女流三段-小高佐季子女流初段だ。

 室谷女流三段はタイトル獲得まであと一歩に迫っている実力者。ただ、昨年タイトル獲得をあと一歩で逃した反動か、今期はもう一つ調子が上がらない。それでもB級入りの一番までこぎつけた。

 対する小高女流初段は10代の女流棋士では最高順位を得ることが決まっている。

 ここで室谷女流三段をくだしてB級入りとなれば躍進といえよう。

 リーグ戦でも開幕4連勝で一時は里見女流三冠と1位を争っていた。有終の美を飾ることができるか。

C級最後の椅子をかけた戦いは、村田智穂女流二段-堀彩乃女流1級だ。

 村田女流二段は先日の女流棋士総会で副会長に選任された。役員としても活躍が期待されるが、当然ここでC級の座も確保したいところだろう。

 堀女流1級は、順位決定リーグ最終戦で加藤(圭)女流二段をあと一歩のところまで追い詰めるなど、実力をつけてきている。

 ここで勝ってC級に滑り込むことができれば大きな実績といえよう。

大詰め

 昨年11月13日に開幕した第1期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦もいよいよ大詰めを迎えている。

 棋士の順位戦でもどのクラスに所属しているかということは、現時点での実力を表すものであり一つのステータスである。

 そして棋士の順位戦は、下を見る怖さもある。それは降級ということであり、順位戦から陥落すれば引退が近づいてしまう。そこが他の棋戦との違いだ。

 一つの白星、黒星が棋士人生を大きく左右することもある。

 それゆえ、人間ならではの心が揺れる戦いになりやすい。

 筆者も先日の順位戦では、10時に始まった対局が双方持ち時間(各6時間)を使いきる熱戦となり、終局は0時近かった。性も根も尽き果てる、そんな戦いだった。

 最後の一戦、初代白玲の争いはもちろんのこと、上にあげた3局もそれぞれにとって女流棋士人生を左右しかねない大一番である。

 各女流棋士が一年間かけて戦い、思いをこめてきた。そのフィナーレにご注目いただきたい。

 様々な女流棋士に密着して知られざる素顔をみせてくれる、BSフジで放送中の『白玲 ~初代女流棋士No.1決定戦~』。

 次回は7月18日(日)に予定されている。

 筆者もいつも楽しみに観ている。リンク先では過去の放送回を観ることも可能なので、ぜひご覧ください。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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