藤井聡太二冠の▲4一銀は「人間には指せない手」のはずだった

衝撃の銀捨てで勝利した藤井聡太二冠(写真:森田直樹/アフロ)

 23日に第34期竜王戦2組ランキング戦準決勝、藤井聡太二冠(18)ー松尾歩八段(40)が行われ、75手で藤井二冠が勝利した。

 横歩取りで始まった本局は華麗な手が飛び交う展開の中、藤井二冠が驚きの一着を指して一気に押し切った。

衝撃の▲4一銀

 中盤戦もたけなわ。藤井二冠の手番で迎えた局面。

 将棋を知っている人が100人いたら100人飛車を取る場面だった。

 中継中のABEMA将棋チャンネルの将棋AIが常軌を逸した手を示している。

 それはタダで取れる飛車を取らず、持ち駒の銀をタダで取られる場所に打って王手をかける▲4一銀だった。

 なるほど、AIの読み筋を見れば一理あることがわかる。

 とはいえ、タダで銀を捨てるにしては効果が見えづらい。

 もし失敗したら負けに直結するヒドイ手だ。

 飛車が取れるのだから普通はそんな手を指さないだろう、そう思って観ていた。

 その局面で藤井二冠がピタリと動かなくなった。まさかその手を指すのか。

 解説者も盛り上がる。人間には指せない、そう話す。

 いくら藤井二冠が強いと言っても人間なのだ。この手は人間には指せない。筆者も同じ考えだった。しかし藤井二冠は飛車がタダで取れる局面で延々と考え続ける。だんだんと▲4一銀が現実味を帯びてきた。

 そして考えること59分、藤井二冠は▲4一銀と指した。

 まさかその手を指すのか。筆者には信じられなかった。解説も沸く。将棋ファンもWeb上で大きくざわついた。

 将棋AIは時に人間には気付けないスゴい手を示す。将棋には多くの可能性があることを見せてくれる。

 ただ、人間には到達出来ないレベルがある。将棋は人間には難しすぎる。人間もAIにより上達しているが、やはり限界がある。どう足掻いても指せない手がある。▲4一銀はその類の手だった。

▲4一銀、その時

 当時のツイートを並べてみた。筆者のその時の驚きがわかるだろうか。

 藤井二冠は局後のインタビューで、「詰めろを続けるにはこの手かと思った」とサラッと述べている。

 つまり銀をタダで捨てておくことで、後の展開で詰めろ(詰みの一歩手前の手)を続けやすくする効果がある、ということだ。

 その意味づけ自体はわかりやすい。しかし、詰めろを続けられるかどうかの判断が難しすぎる。

 様々な場面で相手玉の詰みを考える必要がある。その判定の難易度がどれも高い。

 相手も全力で受けてくる。その全ての対応に詰めろを続けきれるのか、それも考える必要がある。

 詰めろが途切れて反撃を受ければ、もう藤井玉は逃げ切れない。

 多岐にわたる読みの中で一つでも齟齬があれば負けに転落する。

 それだけ▲4一銀は超がつくほど高リスクな手なのだから、タダで飛車を取るというわかりやすい手を選ぶのが普通の人間の判断だ。

 何億、何十億と手を読める将棋AIならともかく、全てを読み切るには人間の限界を超えているはずだった。

 負けへのプレッシャーのない将棋AIならともかく、竜王戦の決勝トーナメント進出をかけた大一番、そのプレッシャーは半端ではないはずだった。

 ▲4一銀は人間には指せないはずの手だった。

 しかし藤井二冠はその「はず」を超えてこの手を指した。そして勝利をつかんだ。

 ▲4一銀には賞賛の言葉以外思い当たらない。

 藤井二冠の深い読み、正確な判断、自分を信じる力、そして決断力。

 全てが結集した一手だった。

決勝トーナメント進出

画像作成:筆者
画像作成:筆者

 藤井二冠は2組ランキング戦決勝へ進出し、挑戦者を決める決勝トーナメントへの進出も決めた。

 2組決勝の相手は、24日に行われる渡辺明名人(36)-八代弥七段(27)の勝者となる。

(追記:24日の対局結果により、決勝の相手は八代七段に決まった)

 また、藤井二冠はこの対局で2020年度の公式戦を全て終えた。今期勝率は8割4分6厘、継続中の連勝は17まで伸びている。

 一体どこまで勝ち続けるのか。これほどの強さと充実ぶりを見せられるともはや予想がつかない。

 2021年度の藤井二冠の活躍、そして竜王戦決勝トーナメントでの戦いぶりにご注目いただきたい。