タイトル獲得通算100期に向けて、羽生善治九段がみせた「円熟」

タイトル挑戦を決めた羽生善治九段(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 19日、第33期竜王戦挑戦者決定三番勝負第3局が行われ、羽生善治九段(49)が丸山忠久九段(50)に勝利し、豊島将之竜王(30)への挑戦権を獲得した。

 竜王戦七番勝負は、10月9日(金)に東京都渋谷区『セルリアンタワー能楽堂』で開幕する。

 羽生九段は前人未到のタイトル獲得通算100期を目指す2年ぶりのタイトル戦登場となる。

 また、羽生九段はタイトル戦開幕時には50歳を迎えており、50代以上のタイトル挑戦は土居市太郎名誉名人、升田幸三実力制第四代名人、大山康晴十五世名人に次ぐ史上4人目となる。

完勝

 後手番の丸山九段が得意の一手損角換わり戦法を採用した本局。

 ポイントは、丸山九段の放った自陣角にあった。

 丸山九段が勝てば「竜王挑戦を決めた名角」になる、そんな予感もする一手だった。

 しかし羽生九段が「大駒は近づけて受けよ」の格言通りの受けで角の働きを弱めて優位を築いた。

 最終的に丸山九段の角は飛車と交換になったが、その間に羽生九段の攻めが止まらなくなっていた。

 終盤の入り口くらいから差が広がっていき、ABEMA将棋チャンネルの中継においても丸山九段の諦めている様子が窺えた。

 言うまでもなく丸山九段の終盤力はトップクラスであるが、その丸山九段を諦めさせたのも、羽生九段の指しまわしに全くスキがなかったからだろう。

 総手数99手。互いに持ち時間を使い切らない早い終局で、文字通り羽生九段の完勝だった。

好不調の波

 本局の内容は、羽生九段強しを印象づけるものだった。

 一方、挑戦者決定三番勝負第1局や先日のA級順位戦では終盤に失速しての敗戦も喫している。

 筆者はいま40歳だが、若い時と比べて集中がもたない時がある。対局途中、突然集中力が切れてしまい、そこからスイッチが入らなくなってしまうのだ。

 タイトル獲得通算99期の羽生九段をもってしても、年齢に勝てない時もあるのではないか。

 昨日の局後インタビューで羽生九段は

「一手ずつ丁寧に指していこうとは思ってました」

 というコメントを残していた。

 これはおそらく上記のことが頭にあったのではないかと思う。

 仮に集中が切れても、羽生九段の技量で丁寧に指せばそんなに大きなミスはおかさないで済む。

 また本局は残り時間にゆとりをもって進めており、秒読みに追い込まれる前に勝負を決めた。

 時間が残っていれば集中が切れても取り戻すゆとりも生まれる。

 本局の羽生九段はタイムマネジメントも完璧だった。

 このあたり、年齢を重ね経験を積んだからこそ為せる技だろう。

 結果的に本局は大きなミスもなく、「円熟」を感じさせる一局だった。

 羽生九段は局後インタビューで

「他の棋戦では勝ち進んでいないので、今回挑戦できたのは幸運だった」

 というコメントも残しているが、今期の竜王戦ではランキング戦と決勝トーナメントにおいていい内容の将棋が続いていた。

 唯一不出来だったのが一つだけ負けの許される挑戦者決定三番勝負だったのも幸運だった。

筆者作成
筆者作成

円熟

 年齢を重ねると、若い頃に比べて頭の回転が遅くなる。筆者もそれを痛感している。

 しかし嘆いていても仕方がない。年齢を重ねたゆえの強みを出していかなければいけないのだ。

 羽生九段の局後インタビューで一番印象的だったのが、

「50代は50代なりの将棋を指していけたら」

 というコメントだった。

 羽生九段も年齢に意識を置き、その年齢だからこそ指せる将棋を目指しているのだ。

 筆者もこの言葉を胸に、「40代なりの将棋」を指していけるよう頑張りたい。

 竜王戦七番勝負は10月9日に幕を開ける。

 「円熟」の域に達した羽生九段の将棋に対し、豊島竜王がどう対抗するのか。

 開幕が待ち遠しい。

 そして22日には第70期王将戦挑戦者決定リーグ戦の開幕局として、藤井聡太二冠(18)ー羽生九段戦が組まれている。

 おおいに注目される一局となるだろう。