Yahoo!ニュース

A級棋士に逆転勝ち!藤井七段が見せた勝負手と華麗な詰み

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
強敵相手に逆転勝利をおさめた藤井聡太七段 (写真:森田直樹/アフロ)

 24日、第61期王位戦挑戦者決定リーグ白組、稲葉陽八段(31)―藤井聡太七段(17)が行われ、藤井七段が129手で勝利した。

 藤井七段は終盤まで追い込まれていたが、稲葉八段の一瞬のスキをついて逆転。最後は華麗な詰みに討ち取った。

勝負手

 「まさか」それが正直な気持ちだった。

 ずっと不利だった藤井七段のほうにチャンスが来てそうな、そういう予感はあった。

 しかし、まさか相手玉に詰みが生じているとは、全く気が付かなかった。

 中盤以降、少しずつ藤井七段が劣勢に追い込まれていった。

 残り時間も少なく、相手はA級棋士の稲葉八段。

 逆転するムードは感じられなかった。

 しかし、藤井七段が敵陣に王手で飛車を打ち込んだ時、ちょっとムードが変わった。

 稲葉八段がその王手を防ぐには、持ち駒を打てばいい。しかしどれを打っても後の変化に不都合が生じるのだ。

 藤井七段の強烈な勝負手に稲葉八段が長考に入った。金を打つか歩を打つか。

 苦悩の末、稲葉八段が打った合駒は金。

 稲葉八段の考慮中に藤井七段も必死に読んだはずだ。そして金を打ってくれればチャンスがくる、そう藤井七段は考えていただろう。

 局後のインタビューで、「歩を打たれたら厳しいかと思っていた」そういう趣旨のコメントをしていた。

詰み

 稲葉八段が金を打った手を境に藤井七段が一気に攻めかかる。

 そして劣勢だったはずの藤井七段が稲葉八段の玉を詰ましにいった。

 リアルタイムで見ていた私は、こんなツイートをしていた。

 藤井七段が詰ましにいった手が、また予想しづらい手だった。

 それは敵陣に侵入しているわずか2枚の駒、そのうちの一つを捨てる手(▲7三成桂)だったからだ。

 部分的な図しかご紹介できないが、

記事中の画像作成:筆者 圭=成桂
記事中の画像作成:筆者 圭=成桂

 金を持っていたので、成桂を守りながらその金で王手することも可能だったのだが、あえて成桂を引いて捨てたのだ。

 相手が玉で取れば桂で銀を取って王手を続ける。指されてみれば狙いはわかる。

 しかし、指されなければ非常に気が付きにくい手だ。

 

 自分で考えてみても、簡単には詰まない。

 しかしAbemaTVに映る藤井七段の姿は、秒読みにもかかわらず落ち着いている。

 将棋AIの示す勝率は藤井七段99%。おそらく「詰み」があることを示している。

 少し進んで、ようやくわかってきた。

 遠く離れた2二の成桂も活躍して、ピッタリ詰むのだ。

躍進の予感

 最近の藤井七段は、序盤中盤終盤とスキのない将棋が目立っていた。

 本局は中盤で形勢を損ね、もうダメだと思われたところからの一気の詰み。

 ファンは沸いていた。私も久しぶりに興奮する内容だった。 

 こういう将棋を拾うと勢いがつくとしたものだ。

 王位リーグはこれで3連勝となり、リーグ優勝に一歩近づいた。

 リーグ戦では次に菅井八段と対戦する。ここで勝てばリーグ優勝へ大きく近づく。

 リーグで優勝すると、もう一つのリーグで優勝した棋士と挑戦者決定戦を行う。

 俄然、タイトル挑戦が現実味を帯びてきた。

 そして菅井八段とは31日に棋聖戦決勝トーナメント準々決勝を戦う。

 こちらもタイトル挑戦まであと3勝としている。

画像

 藤井七段の今後の躍進を予感させる逆転劇だった。

 31日の対局にもご注目いただきたい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

遠山雄亮の最近の記事