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強敵を3タテ。タイトル挑戦まであと3勝とした藤井聡太七段の隙のなさ

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
最年少タイトル挑戦記録更新を狙う藤井聡太七段(写真:森田直樹/アフロ)

 29日、第91期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメント1回戦が行われ、藤井聡太七段(17)が斎藤慎太郎八段(26)を破り、準々決勝進出を決めた。

 斎藤八段と藤井七段は、昨年12月の王位戦予選決勝、1月の朝日杯本戦と3ヶ月連続で対戦し、全て藤井七段が勝利した。

 昨年までタイトルを保持し、先日は順位戦でA級昇級を決めた斎藤八段を藤井七段が3タテしたことに衝撃が走った。

 本局、筆者はAbemaTV将棋チャンネルで朝から終局まで解説を担当したので、解説者としての視点も交えながら解説していく。

記事中の画像作成:筆者
記事中の画像作成:筆者

美しい対局

 昨年12月の斎藤八段―藤井七段戦もたまたま筆者がAbemaTVで解説を担当した。

 2回の解説を通じて感じたのは、この二人の対戦はいつも美しい戦いになるということだ。

 詰将棋に対する深い愛情。

 落ち着いた所作。

 成熟した言葉選び。

 共通点の多い二人だから、共鳴するのかもしれない。

 終局後の記者会見で両者の表情は対照的だった。

 斎藤八段は、3タテされたショックもあったのだろう。表情に悔しさが滲み出ていた。

 逆に藤井七段は、落ち着いた受け答えの中にも強敵を3タテした充実感が漂っていた。

対局内容

 本局は、藤井七段が仕掛け辺りでわずかにリードを奪い、中盤の折衝でリードを広げ、終盤は一瞬の切れ味で勝利をつかんだ。

 AbemaTVでの解説では話の流れから『鬼滅の刃』をよく例えに出したが、それでいえば鋭い刃で"一刀両断”した終盤の切れ味だった。

 最後の仕上げのところでは、具体的な手順がわからず解説に四苦八苦した。

 それは斎藤八段の粘りがうまい証拠で、並の棋士であれば逆転を喫してもおかしくなかっただろう。

エース戦法

 この3連戦は全て藤井七段が先手番となり、その全てで角換わりを採用した。

 この角換わりは藤井七段のエース戦法であり、ここ半年ほど負け知らずである。

 とはいえ、斎藤八段ほどの強敵を相手に角換わりで3連勝したのは驚きもある。

 そして3局とも藤井七段が序盤でリードを奪ったのである。

 トップ棋士相手にも序盤の研究で負けず、中盤は大きなミスもなく、終盤の切れ味は抜群だ。

 これではどこに隙があるのかわからない。

 あまりに隙のない指しまわしに、解説で「強い内容」と話したが、これは誇張でもお世辞でもない本音だった。

最年少タイトル挑戦記録

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 トーナメント表にあるように、藤井七段はあと3勝で挑戦となる。

 この棋聖戦は、最年少タイトル挑戦記録更新のラストチャンスだ。

 次局は、行方尚史九段ー菅井竜也八段の勝者と対戦する。

 菅井八段は、斎藤八段同様、先日A級昇級を決めた。

 行方九段は今期6割を超える勝率で好調だ。

 どちらが来ても強敵である。

 決勝トーナメントは、先ほどの『鬼滅の刃』でいえば、「十二鬼月」のような強い相手ばかりがひしめく。

 しかしいまの藤井七段には、3連勝して挑戦を決める実力も勢いも感じる。

 今後の対局にもご注目いただきたい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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