46歳で悲願の初タイトル獲得。木村新王位が将棋のプロとして大切にしてきたもの

2017年11月、木村王位の九段昇段祝賀会にて(主催者提供)

 豊島将之王位(29)に木村一基九段(46)が挑戦する第60期王位戦七番勝負は9月25・26日に最終第7局が行われ、木村九段が勝って悲願の初タイトルを手にした。

 46歳3ヶ月での初タイトル獲得は、初タイトル獲得最年長記録を大幅に更新した。

 一方、防衛に失敗した豊島王位は、二冠から一冠(名人)に後退した。

 最終第7局は改めての振り駒で豊島名人の先手となり、豊島名人のエースである角換わり戦法に進んだ。

 豊島名人が攻め込む展開となったが、自玉が不安定で思い切った攻めができず、好タイミングでの反撃を決めた木村王位が優位にたった。

 終盤は際どいところもあったが、豊島名人の最後の突撃をギリギリで見切る木村王位らしい指し方で勝負を決めた。

読みを大切に

 昨日の対局含め七番勝負全体を通して、木村王位は常に薄い守りでの戦いだった。そういう戦いで大切なのは丹念な読みである。相手の攻めを一つずつ見きわめ、ギリギリを見切って反撃に出る。その戦いではあらゆる手をくまなく読むことが求められる。

 昨日の投了図も象徴的で、豊島名人の王手に対し、勝ちをつかむ正解はたった1つしかないギリギリの状況だった。

 木村王位は読みを大切にして、昔からその戦い方で多くの勝ちを重ねてきた。

 以前のプロの将棋は玉を固める戦いが主流で、薄い守りで相手の攻めを受ける木村王位の指し方はやや損とみられていた。

 ところが現在のプロの将棋は、将棋AIの影響もあって薄い守りで戦うのが主流となっている。木村王位の指し方が時代にマッチしたのだ。時代が木村王位に追いついてきたと言えるかもしれない。

 損と言われ苦労しても自分を信じて読みを大切にしてきたことで、木村王位は初タイトルを獲得したのだった。

 薄い守りで戦う流れは今後も続くことが予想される。木村王位ほど丹念に読んで指す棋士はなかなかいない。そしてこの戦い方を続けてきたことで誰よりも経験値がある。

 時代にマッチした木村王位の将棋は、今後ますます輝くのではないかと予想する。

ファンを大切に

 そして何より木村王位が大切にしているのはファンの存在だ。

 筆者が同じプロ棋士としてみていて、木村王位ほどファンの多い棋士はなかなかいない。

 そのことは他媒体で書いたこともある。

 昨日の対局中、そして対局が終わった後、Twitterでは「木村九段」「木村王位」がトレンド入りしていた。

 将棋界でトレンド入りしたことがあるのは、誰もがその名前を知る、羽生善治九段や藤井聡太七段くらいであろう。

 私もTwitterでファンの反応を追っていたが、木村王位を応援するツイートで埋め尽くされていた。

 豊島名人も令和の覇者を狙う棋士としてファンが多い。それでも昨日は木村王位を応援する声が圧倒的だった。

 ずっと破れなかったタイトルという厚い壁を破れたのは、ファンの後押しが大きかった。

 そしてファンの後押しを得たのも、木村王位がプロ入りから22年、ずっとファンを大切にしてきた故であろう。

 ファンを大切にして、ファンの応援で悲願の初タイトルを獲得した木村王位の存在は、棋士にとって、そして将棋界にとって一番大切なものを強く示唆している。筆者も一棋士として心に刻みたい。

戦いは続く

 豊島名人と木村王位の長く熱い戦いが終わった。

 筆者も何度か記事を書いた炎の十番勝負は5勝5敗のタイで終わり、木村王位はタイトルを獲得し、豊島名人は竜王の挑戦権を獲得した。

炎の十番勝負は豊島名人が一歩リード

炎の十番勝負は最終章へ!竜王戦は豊島名人の挑戦が決定、木村九段は王位戦での巻き返しなるか?!

王位戦七番勝負、最終決戦 令和の覇者を目指して初防衛か、ファンの後押しで初戴冠か

 これほど熱い戦いは筆者の長い将棋人生でも記憶にない。

 これから先も語り継がれるであろう、ファンの記憶に残る戦いだった。

 ようやく一息、家族とゆっくり、とできないのが勝っている棋士の辛いところだ。

 タイトル獲得の余韻もなく、木村王位は明日順位戦A級3回戦を戦う。しかも関西将棋会館での対局のため今日は大阪への移動日となる。

 過酷な日程はまだ終わっていない。

 ゼロを1にするのは苦労が多いが、1を2にするのはそれより容易いと言われる。

 時代は木村王位に味方している。ファンの応援も増える一方だ。

 令和の覇者を狙う豊島名人からタイトルをもぎ取って待望の「1」をつかんだ木村王位が、「1」を「2」にする可能性も十分にあるだろう。

 46歳のタイトルホルダーの戦いは続く。