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激動の一年!将棋界の2018年度を総括!!

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
第3期叡王戦第3局、ニコニコ超会議での解説会(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 将棋界は4月~翌3月で区切りとなる。2018年度をタイトル戦を中心に振り返る。

 (タイトル戦の結果の肩書きは全て当時のもの。文中の肩書きは現在のもの)

羽生善治九段、衝撃の無冠転落

第76期名人戦七番勝負(4/11・12~6/19・20)

防衛:佐藤天彦名人4勝-羽生善治竜王2勝

 羽生九段のタイトル通算100期なるか、ということで話題になったシリーズ。第4局(先手:佐藤(天)名人)、第5局(先手:羽生九段)でどちらも横歩取りとなり、その2局をともに制した佐藤(天)名人がシリーズも制した。羽生九段は前代未聞の6者プレーオフを勝ち抜いて挑戦権を得たが、名人獲得はならなかった。

第3期叡王戦七番勝負(4/14~5/26)

獲得:高見泰地六段4勝-金井恒太六段0勝

 タイトル戦に昇格した第3期叡王戦七番勝負は、若手同士の戦いに。初代タイトル保持者をめぐって争われるのは1988年の第1期竜王戦以来。そのときは島朗六段(当時)が4連勝で制した。このタイトル戦も同様、4連勝での決着となった。

 シリーズを通じて高見叡王の終盤力が光った。また第3局は千日手指し直しとなり、終局が23時を過ぎたことでも話題になった。

 この七番勝負で2局登場した横歩取りは、このあとのタイトル戦で1局しか指されなかった。戦法の流行を見てとることができる。

第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負(6/6~7/17)

奪取:豊島将之八段3勝-羽生善治棋聖2勝

 こちらも羽生九段のタイトル通算100期なるか、ということで話題になった。2勝2敗で迎えた最終戦。豊島二冠が角換わりの定跡形から駒組みの途中で玉の下に飛車をまわる驚きの新手を披露した。「玉飛接近すべからず」の格言を無視した思い切った作戦は羽生九段の意表を突いたか。豊島二冠は中盤でリードを奪って最終戦を制し、悲願の初タイトルを獲得した。

 この段階で、八大タイトルを8人で1つずつ保持することになった。複数タイトル所持者がいないのは非常に珍しく、1987年以来31年ぶりのことだった。

 このシリーズは5局中3局が角換わりで、その流れはこのあとのタイトル戦でも続いていく。

第59期王位戦七番勝負(7/4・5~9/26・27)

奪取:豊島将之棋聖4勝-菅井竜也王位3勝

 棋聖戦と並行して戦っていた豊島二冠は、棋聖戦に続いて最終戦を制した。これで無冠から一気に二冠へ駆け上がった。全7局で先手番が勝つという珍しいシリーズでもあった。

 菅井七段は全7局を振り飛車で戦った。そしてこのあとの王将戦七番勝負でも久保九段が失冠したことで、振り飛車党のタイトルホルダーが一人もいなくなってしまった。

第66期王座戦五番勝負(9/4~10/30)

奪取:斎藤慎太郎七段3勝-中村太地王座2勝

 挑戦者決定トーナメント準決勝で藤井聡太七段、挑戦者決定戦で渡辺(明)二冠と、2018年度に8割以上の勝率を残した二人を連破した斎藤(慎)王座は、勢いそのままに五番勝負でも2連勝スタート。その後2連敗して最終戦にもつれこんだが、最終戦を斎藤(慎)王座が制して悲願の初タイトルを獲得した。

 5局中4局が角換わりで、こちらでもその流行ぶりがうかがえる。

第31期竜王戦七番勝負(10/11・12~12/20・21)

奪取:広瀬章人八段4勝-羽生善治竜王3勝

 羽生九段のタイトル通算100期か、無冠転落か、ということで2018年度に最も注目を集めたシリーズ。羽生九段が連勝スタートで防衛に近づくも、第3・4局で広瀬竜王が逆転勝ちしてシリーズの流れをつかんだ。最終第7局は大熱戦だったが、終盤戦での広瀬竜王の力強い指しまわしが光った。羽生九段の無冠転落は社会的にもニュースになるほど衝撃的な出来事だった。

渡辺明二冠の無双

第68期王将戦七番勝負(2019/1/13・14~3/26・27)

奪取:渡辺明棋王4勝-久保利明王将0勝

 秋口頃から渡辺(明)二冠の好調ぶりが際立っていた。迎えたこのシリーズはその強さばかりが目立つ内容で4連勝での決着に。久保九段の失冠で振り飛車が冬の時代に入った印象だ。

 また気になることとして、これで「会館建設準備委員会」に所属するタイトルホルダーが全員(羽生九段、久保九段、中村(太)七段)失冠となった。私は内部の人間ではあるものの委員会の活動内容についてそこまで詳しくないのだが、大きな負担になっているのではないかと心配になる。

第44期棋王戦五番勝負(2/2~3/17)

防衛:渡辺明棋王3勝-広瀬章人1勝

 王将戦七番勝負と並行して行われたこのシリーズも渡辺(明)二冠が制した。2018年度に充実著しかった広瀬竜王を相手に圧巻の内容だった。渡辺(明)二冠は2017年度を負け越しで終えていただけに、この活躍ぶりは驚異の復活と言えよう。

 2018年度は名人戦以来(初めてのタイトル戦である叡王戦は除いて)奪取が続いていたが、ここでようやくその流れが止まった。奪取が続いていること、そして競った番勝負が多かったのは、トップの実力が拮抗している証と言えよう。

女流棋戦と藤井聡太七段

 女流棋界では里見香奈女流四冠の強さが際立ち、5棋戦中4棋戦で防衛を果たした。一方で、マイナビ女子オープンで西山朋佳女王女流王位戦で渡部愛女流王位と、2名が初タイトルを獲得した。女流でタイトル8期の実績を持つ加藤桃子女流三段は奨励会を退会して正式に女流へ転身した。里見(香)女流四冠へ迫る勢力も少しずつ拡大している。

 また新たにヒューリック杯清麗戦が設立され、7つ目の女流タイトル戦が誕生した。これは非常に明るい話題だった。

 藤井(聡)七段は2018年度も活躍が目立った。年度最高勝率の記録更新はならなかったものの、0.849の歴代3位の好記録で年度勝率1位に輝いた。

 第12回朝日杯将棋オープン戦では連覇を達成。決勝の渡辺(明)二冠戦は、結果・内容ともに衝撃的だった。

 順位戦C級1組では9勝1敗の好成績ながら昇級を逃し、王座戦挑戦者決定トーナメントでは準決勝敗退と、あと一歩届かないところもあった。2019年度はさらなる活躍が期待される。

今後について

 私事になりますが、2018年度をもって9年間務めたモバイル編集長を退任することとなりました(詳細はブログにて)。将棋連盟の運営から外れることで少し時間の余裕もできそうです。

 Yahoo!ニュース個人での記事も今まで以上に力を入れていくつもりですので、今後もご愛顧いただければ嬉しく思います。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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