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“北欧ジャズ”の新鋭ファーガス・マクリーディーの『Forest Floor』【ジャズコラ#001

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

♬ ファーガス・マクリーディー

ファーガス・マクリーディーがシーンに登場したのは2018年。

1997年にスコットランドで生まれたマクリーディーは、12歳でピアニストになろうと決意。その3年後にはスコットランドのジャズ賞を受賞するなど国内での注目度が高まり、翌年も同賞を連続して受賞するなど、ティーンエイジャーながら期待の新星として知られる存在となる。

21歳でリリースした自主制作のデビュー作『Turas』で本格的に世界へ発信された(このデビュー·アルバムがリリースされた2018年にはBBCジャズ·ミュージシャン·オブ·ザ·イヤーのファイナリストにも選出されています)、というのが彼の短い経歴のほぼすべてなんだけれど、“短い”といったって、まだ25歳なのですからアタリマエかな。

♬ 第3弾アルバム『Forest Floor』

ファーガス・マクリーディー『Forest Floor』ジャケット(筆者撮影)
ファーガス・マクリーディー『Forest Floor』ジャケット(筆者撮影)

『Forest Floor』はマクリーディーにとって3作目、デビュー作から一貫してピアノ・トリオでレコーディングを行ない、メンバー(デヴィッド・ボーデン / ベース、スティーヴン・ヘンダーソン / ドラムス)も同じという、このメンバーでワタシの音楽を展開していきます的な確固たる意志を感じさせる編成になっているかもしれない。

スコットランドも“北欧ジャズ”という言葉で括られるエリアにあると言えるんだけれど、実際にマクリーディーのサウンドを耳にすると“北欧ジャズ”的な印象を受ける人が多いと思うんだ。

まぁ、“北欧ジャズ”が音楽スタイルとして規定されるべき特徴を有しているかどうかは置いといて、マクリーディーのトリオが発するサウンドには、スコットランドのプリミティヴな音楽的継承を感じさせる要素がちりばめられ、それが彼の音楽的特徴にもなっている。

とは言ったものの、この3枚目『Forest Floor』では“北欧ジャズ”的なテイストは残っているものの、いわゆる“スコットランド的な”と呼べるような要素が薄れてきたように感じてしまった。

“スコットランド的”というのは、一般的な“極東の日本”に住む者がイメージするバグパイプで演奏される音楽や、フォーキーと呼ばれる民衆音楽を想起させるサウンドというところかな。

フォーキーはまた、マクリーディーがリスペクトすると言っているキース・ジャレットも用いることで知られている表現方法のひとつなんだけど、リスナーに“懐かしさ”を与える効果があるとされている。これは例えば“日本人ジャズ”で言えば「さくら」や童謡唱歌の類いの旋律を織り込んだりする技法に通じるものがあるんじゃないだろうか。

マクリーディーがピアノの音を重ねる演奏ではバグパイプ的な効果を狙っていると思える曲もあったんだけれど、そのあたりの溶かし込み方についても3枚目ともなれば腕を上げている、ということからくる印象の違いなのかもしれない。

♬ ポスト“北欧ジャズ”を狙った“作戦”?

トリオのバランスを見てみると、これまでの“北欧ジャズ”にはない、ピアノに重心を置いたものになっていて、そんな部分にも彼らの新しさを感じる“源泉”があるみたいだ。

ベースとドラムスが表立たずにしっかり仕事をすることで、ジャズの難しさを際立たせずに耽美的なサウンドを追求できるという“作戦”だったりするならば、この新鋭たちはやはり只者ではない、ということになるわけ。

ちなみに、このアルバムのタイトルは“フォレスト・フロアー”。そこで思い出したのが、1966年9月に開催されたモンタレー・ジャズ・フェスティヴァルに出演したチャールス・ロイド・クァルテットのステージを収めたアルバムのタイトルで、こちらは“フォレスト・フラワー”。チャールス・ロイド・クァルテットのそのときのピアニストはキース・ジャレットなんだよね。

参考:ファーガス・マクリーディー オフィシャルサイト

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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