ポスト・コロナの音楽ライヴ興行BCPを考えようと思いました

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いまから2ヵ月ほど前の3月10日、私は「ライヴハウスという音楽文化の発信拠点は新型コロナで潰えてしまうのか?」という記事をアップしました。

2月あたりから新型コロナウイルス感染症の影響が日本でも無視できない状態となり、3月に入って大阪のライヴハウスでのクラスター感染が報道されると、一気にライヴハウス営業が難しい状況となっていたなかでの執筆でした。

その時点では、自主的な警戒でなんとかやり過ごして、4月の新学期を迎えるころには完全ではないにしろ3割ぐらいの落ち込みで持ち直し、元に戻るための準備を始めることができるだろうというような、かなり楽観的な見通しでいたのだと思います。

しかしその後は、まずは出演者のほうから辞退(自粛)が広がり、4月7日の特定警戒都道府県に対する緊急事態宣言発出と、4月16日に対象地域の全都道府県への拡大に至って、甘い見通しはすべて白紙に戻さざるをえなくなってしまいました。

すでに11月開催予定のイヴェント中止のニュースが届き始めている──というのが、現時点でのコロナ禍にあえぐエンタテインメント業界の概要です。

記事アップ後の2ヵ月の推移

3月にライヴハウスの記事をアップしたのは、5月に開催する横浜市内のライヴハウス有志が集まってのイヴェントのお手伝いをしていたという事情が大きく関係しています。

その時点では、ライヴハウスがなにをしているのかわからない“悪い場所”であるような風評を改めてもらうための発信をしておかなければという想いと、もう一方でライヴハウス側にもコロナ禍のリスクを意識して「なんとか危機を切り抜けてほしいし、音楽の揺籃の場としての価値を失ってほしくない」という想いを伝えたいと、筆をとったわけです。

そして収束を願いつつ2ヵ月。

緊急事態宣言は延長され、ライヴハウス営業をはじめ多くの音楽イヴェントは、いまだに再開できる見込みが立っていないというのが現状です。

なぜイヴェントは再開できないのか?

もちろん、緊急事態宣言の解除が大前提であることに変わりはありません。

ただ、イヴェントに関しては、解除されたからすぐに元通り──とはいかない事情があると考えています。

まず、イヴェント再開の大きな足かせになっているのが、新型コロナウイルス感染症の感染リスクを高めるとされる3密(密閉、密集、密接)の状態を回避できる対策をすぐにはとれないであろうこと。

方法はあるのです。会場への入退場時に手指の消毒、マスクの着用、発話の抑制、そしてソーシャルディスタンスを保った位置取りと定期的な換気などなど。

栃木県が5月6日に公表した「催物(イベント等)の開催自粛の要請(特措法第24条第9項等)」や5月8日の「施設の使用制限の要請(特措法第24条第9項等)」では、原則としてリスク対応が整わなければ中止または延期としながら、「以下の条件を満たす場合は、上記要請の対象外」という、緩和するための条件が明示されていたりもします。

そこから引用しながら、イヴェント開催の条件を探ってみましょう。

前提としてあるのが、「新しい生活様式の実践例」に基づく取り組みをすること。つまり、イヴェント自粛の解除は、新しい生活様式に基づかなければならない=元通りではないことが前提になっているのです。

「新しい生活様式の実践例」は以下を参照ください。

新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」を公表しました(新型コロナウイルス感染症)|厚生労働省

次にイヴェント自粛解除に必要なものとして、特に「発熱、風邪の症状がある者は参加しない。マスクを着用する。」を挙げています。

イヴェントの規模については、「参加人数が最大でも50人程度」という線引きが採用されています。

そのうえで、先述の手指の消毒やマスク着用などの対処を講じて、2メートルを目安としたソーシャルディスタンスの確保ができれば、「イヴェント開催は不可能ではない」というのが、大方の行政側の見解ということができるでしょう。

「施設の使用制限の要請」の問題点

なんだ、すでに“正解”があるなら、それを守ればライヴハウスの再開もお茶の子さいさいだね──とはいかないから、この問題は厄介なのです。

消毒や換気についてのハードルは、高くないといえるでしょう。

高いのは、ソーシャルディスタンスの確保。

まず、物理的に1人あたり半径1メートルの円(つまり1×1×π≒3.14平方メートル)の面積分のスペースを必要とすることになります。このソーシャルディスタンスのエリアは重ねることができません。

自粛解除許容範囲の50人を収容するイヴェントを想定した場合、そのソーシャルディスタンス的な客席面積は3.14×50=157平方メートル(約47.5坪)ほど必要になります。

飲食店の広さというのは一般人にはピンとこないものですが、消防法に収容人員の算定方法が決められているので、これに則って広さから基準の収容人員を逆算してみましょう。

単純に立見客だけのライヴハウスを想定すると、床面積を3平方メートルで割った数、すなわち52.3人が157平方メートルの店舗で入場が許される人員となります。これはおおよそ、40人の入場者(出演者を含む)と5~10人の店舗スタッフ、という割り振りになるでしょうか。

ということは、この消防法による収容人員算定基準と「施設の使用制限の要請」の50人規制はほぼイコール、つまり消防法を遵守して営業しているキャパシティが50人以下のライヴハウスであれば、なんとか再開できるかもしれないということでしょうか。

また、50人を超えるキャパシティのライヴハウスが50人に限定すれば再開が可能なのか、再開できてもキャパシティを下げることで経営が成り立つのか、という問題は残ります。

もちろん、50人以下のキャパシティのライヴハウスがきちんとソーシャルディスタンスを確保した場合の客席数(入場者数)で経営が成り立つのかという指摘はするまでもないでしょう。

ということは、ボスト・コロナのライヴハウスは“まだ闇の中”なのです。

BCPってなんだ?

収容人員は、イヴェント運営の利益計算に大きな影響を与える数値です。消防法という規制に沿いながら、最大の利益を得られるように店舗のレイアウトを考えることは経営者の責任であり、それができなかった店舗は淘汰されてきたはずです。

しかし、今回のコロナ禍では、損益分岐点が規制によって下げられ、再開後の損失回収が従前の目論見どおりにはいかない可能性が高いと言わざるをえません。

そこで考えなければならないのが、「ライヴハウスにとってのBCP」ではないか、と思ったわけです。

BCPとはBusiness Continuity Planの頭文字で、日本語にすると“事業継続計画”。

中小企業庁のホームページでは、次のように説明されています。

企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。

出典:中小企業庁のホームページ

コロナ禍に遭遇したライヴハウスなどのエンタテインメント業界では、自粛要請が続く期間はもちろん、自粛明けであっても感染予防の見地から、その営業形態の見直し(収容人員だけでなく営業時間など)を要求されることはかなり濃厚だと思います。

実際に、この原稿を書いているとき(2020年5月11日)にも、規制を緩和した韓国で新たにクラスター感染が発生というニュースが入っています。場所は人気のナイト・スポットとして知られるクラブで、確認された15人の感染者だけでなく、来場者1,500人にも拡大する恐れがあると報じられています。

つまり、3密のイヴェントには、今後は常にこうした感染症対策とアフターケアが必要な世界になっているということ。

3密を避けてイヴェントを実現させることも含めて、BCP=新しいイヴェント開催(あるいはライヴハウス運営)のマニュアルづくりを早急に打ち出していくことが、緩和を待っている演奏者や客のためにも、求められているのではないでしょうか。

これについては、規制する行政とライヴの運営側の双方に、安心・安全はもちろん、音楽文化を次代へ繋ぐことを念頭に、考え抜いてもらいたいと思っているのです。

追記

ライヴハウスをはじめとしたイヴェント運営側のみなさんには、利用できる制度はなんでも使って、ライヴを復活させる日のために備えてください。

利用できる制度については、以下を参照するなどしてください。

新型コロナウイルス感染症 ご利用ください・お役立ち情報 | 首相官邸ホームページ

緊急事態宣言の延長アナウンスのあと、堰を切ったようにインターネットを使った生配信やコラボレーション動画が巷にあふれるようになったと感じています。

演奏者側が緊急事態宣言解除でライヴ活動を始められると待機していたのに、それが叶わずにオルタネイティヴな方法論へ注力したことが原因ではないかと思っています。

こうした“背に腹は代えられない”という状況は、新たなアートを生む原動力になることが期待されます。

コロナ禍で生まれた新たな芸術表現が、再開したライヴ提供の場を使って、もっと刺激的な世界へ私たちを誘ってくれるはず──そう願って、緊急事態宣言の解除を待ち、BCP作成へと進みたいと思います。