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ライヴハウスという音楽文化の発信拠点は新型コロナで潰えてしまうのか?

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家
(写真:アフロ)

ライヴハウスが喧しい。

TVを眺めていても、ネットを徘徊していても、まるで“悪の巣窟”みたいな言われ方をしていると感じてしまうほど、槍玉に挙がっているんじゃなかろうか。

アンタらライヴハウスのなにを知ってて叩いてるのよ。そもそも十把ひとからげに語ってること自体、わかってないんだよね──と義憤に燃える自分に多少驚きながらも、音楽ライターとして“取材”という貴重な機会を提供してくれる“仕事場”なんだから、なにかしら発言する責任はあるんじゃないの、と思い立ったので筆ならぬスタイラスペンをとった次第。

ライヴハウスとの個人的な関わり

実は、ライヴハウスに反応してしまうのには、もうひとつ理由がある。

5月末に開催を予定している「横浜市内でライヴのステージを提供している店が一斉に『祭りだゼ!』って声を上げちゃおうジャン」というイヴェントのお手伝いをしているからなのだ。

現在、横浜市内には調べうるかぎり100店ほどの、生演奏を定期的に提供している店、つまりライヴハウスと呼べる店が存在していることを、ネットによるサーチや口コミなどによって把握できた。

調査が必要だった背景には、ライヴハウスの孤立性がある。

本来、「映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸又は観せ物を、公衆に見せ、又は聞かせる施設」は、興行場法に従って設備等を整え、その運営には許可を必要とする。

しかし、前記の“観せ物”を提供する店であっても、ホールやシネコンのような数百人を収容する施設だけとはかぎらない。どちらかといえば、数十人収容のこぢんまりとしたスペースで“観せ物”が実施されていることのほうが多かったりしている。

こうした小規模の“観せ物提供店”は、厳しい規制のある興行法に縛られることなく営業できている、というのが現状だ。実際に“観せ物提供店”は、飲食店としての営業許可申請をして、その付帯業務として“観せ物”を提供するというスタイルが一般的になっている(このほかに風俗営業等の規制に関係する店もある)。

つまり、興行を主体とした認可ではないため、飲食店として把握することは可能でも、“観せ物提供店”としての団体はもとより、その実態を把握できるデータがほとんどない、というのが実態だった。

今回のイヴェント立ち上げでは、なるべく多くの店に声をかけて、継続的な催しにしていきたいと考えたのでこうした調査を実施していたのだけれど、さてそろそろ本腰を入れて準備に取りかからねば、という矢先に、この新型コロナウイルス騒動が勃発。それも某豪華客船のおかげで横浜が“震源地”のような報道が連日のように流れる始末。

3月に入って状況はますます悪化し、もはやライヴハウスだけの問題ではなくなっていることを受けて、ひとまず新型コロナウイルス感染症対策の情報収集とライヴハウス向けの発信を中心に、実務はペンディング状態というのが現状だ。

ライヴハウス向けの新型コロナウイルス感染症対策はこちら→横浜JAZZ協会(一般社団法人)|note

ライヴハウスの課題

ライヴハウスが槍玉に挙げられるようになったのは、大阪エリアの複数のライヴハウスがクラスター感染の原因場所とされたことが大きい。

この原因場所とされるライヴハウスの情報については、大阪府が比較的詳しく情報を公開している。

大阪府/新型コロナウイルス感染症について

ただし、規模と時間はわかっても、タイトル名からどんなライヴだったのかは把握できない。

「どんなライヴだったのか」というのは、立ち見で、ヘッドバンキングといった激しくカラダを動かす鑑賞スタイルのライヴなのか、イスに着いて移動のない鑑賞スタイルのライヴなのかがわからないということだ。

当然、観客同士の距離もライヴのスタイルによって異なる。

もちろん、ある程度の人数が一定時間同じ場所に居続けるという悪条件がそろってしまうので、「避けるべき」とされるのは仕方ない。

しかし、対処とその効果は、できるだけロスが少ないほうがいいのは言うまでもない。

風評もそうだけれど、実情を把握していないのに対処が押しつけられるのは困ったもんだ。

ただ、前述のように、ライヴハウスの実態を把握できる組織がないと言ってもいい状態なので、いまの“槍玉”状態に至っているのだろう。

ではライヴハウスはどうすればいいのか?

まず、新型コロナウイルス感染症対策で指摘されているライヴハウスの問題で課題を整理しておきたい。

とかく「ライヴハウス経営側」だけがクローズアップされがちだが、「ライヴハウス出演側」「ライヴハウスの客」という、合わせて3つの視点が必要なこと。

フジテレビ「めざましテレビ」の3/6放映分で取材を受けていた横浜・関内のライヴハウス「7th Avenue(セヴンス・アヴェニュー)」では、地下店舗であるが大型の空調を備えて、さらに空気清浄機を導入するなど、殺菌・洗浄以上の対策をとっているようすを伝えていたが、その日の営業では300人の最大収容人員に対して8名の来客だったそうだ。

翌日、7th Avenueのオーナーに話を聞いたところ、概ね報道は好意的に受け取られ、「ライヴハウスも営業を続けなければ生活ができない」という意見に対して否定的な反応は届いていないということだった。

ただ、出演側からは出演キャンセルも出ていて、それは主に全国規模のツアーを実施するアーティストに見られる傾向という。逆にドメスティックな出演者では「健康に気をつけて来てもらえるなら実施したい」という意向が強いそうだ。

どちらも「客を大切にしたい」という送り手側の想いの表われとみることができるけれど、正反対の対応になってしまうところにこの課題の難しさがあるといえるだろう。

同様に、YOSHIKIのTweet(@YoshikiOfficial)は「ライヴハウスの客」へのメッセージであって、「ライヴハウス経営側」や「ライヴハウス出演側」の視点を持ち込むべきではない。もちろん、「ライヴハウスの客」への健康的な配慮に欠けた意見や姿勢、対応であれば批判の対象になるのはいうまでもない。

「#私の好きなライブハウス」のハッシュタグ投稿は、「ライヴハウス経営側」や「ライヴハウス出演側」へのエールになるだろうし、これを「この非常時に……」と目くじら立てるのは、リテラシーが高いとは言えない行為なので、考えてもらいたいものだ。まぁ、考えが足りないからそういう行動に出るのだろうけどね。

まとめ

「ライヴハウスは潰えてしまうのか?」と、いささか扇情的な見出しを付けてしまったが、客観的に見てライヴハウスという閉鎖的で接触の機会が高まる空間は、今回の新型コロナウイルス感染症に限らず、一層の衛生面での対応が求められる対象であるだろう。

そのうえで私は、自分も関係が深い仕事場としてのライヴハウスになんとか危機を切り抜けてほしいし、音楽の揺籃の場としての価値を失ってほしくないのだ。

そのためには、自主的な営業の規制や組織的な対応といった、これまで以上に社会的な責任を意識する存在へと進化してほしいと願っている。

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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