【interview】型を使って型を破る“ヘンな拍子の音楽”のナゾに迫ってみる~北川とわ&岡田治郎

北川とわ(右)と岡田治郎(撮影:富澤えいち)
北川とわ(右)と岡田治郎(撮影:富澤えいち)

ジャズ・ピアニストにしてコンポーザーの北川とわ(写真=右)が手にしているのは、彼女のリーダー・ユニット“Trussonic(トラスソニック)”の3作目『Mind Universe』のアナログ盤。

『Mind Universe』は2018年8月に正規版、つまりデジタル・パッケージのヴァージョンが発売されていたが、今年になってアナログ、つまり塩化ビニール素材の30センチ・サイズのパッケージも発売された。これがTrussonicにとっての初のアナログ盤となる。

『Mind Universe』の制作は、その費用をクラウドファンディングで公募するという方法を採った。その結果は、わずか2日で目標額を超え、最終的に163%の達成率。音楽系クラウドファンディングとしては大成功といえる“プロローグ”を引っさげて、市場へ投入されることになった。

アルバム制作の費用調達にクラウドファンディングを選んだことに対して、北川とわは次のように説明した。

北川  ユニット結成以来、ツアーなどでいろんな場所を細かく回っていたんですけれど、そこで多くの出逢いがあって、その人たちに私たちのレコーディングのようすなんかをブログやTwitterよりももっと丁寧に見てもらって、共有しながらアルバムを作れたらいいなぁと思い付いたんです。あと、そうやって共有できる関係になった人たちの名前もアルバムのクレジットに入れることができれば、出来上がった作品に対して皆さんにより愛着をもってもらえるんじゃないかなと思って。それでクラウドファンディングをやることにしました。

     *

Trussonicが活動を開始したのは2015年。その2年ほど前に結成した、コンテンポラリーな指向性を持ったジャズ・クァルテット“Sonic Laboratory”を経て、ジャズ、プログレ、現代音楽などを融合した自分ならではの音楽性をさらに追求するため再起動したのが、このユニットの出発点である。

メンバーを替えながら、北川とわのオリジナルを“演奏させる”というスタンスを変えずに続けているのが、Trussonicのアウトラインとなる。

写真の左にいる岡田治郎は、3作目『Mind Universe』からの参加。

1980年代末ぐらいからプロのベーシストとして活動を始め、1994年に高橋真梨子のツアーに参加。以降15年間、ヘンリーバンド(Henry広瀬をリーダーとする高橋真梨子のサポート・バンド)に在籍しながら、WISIWYGやPRISMなどJフュージョンの伝説的なバンドでも足跡を残している。2009年には平原綾香のツアーに参加。

ボクが“岡田治郎”という名前を意識したのは、PRISMへの加入が先か、Junky FunkやLine Driveのライヴを観たのが先だったかは失念してしまったが、いずれにしてもその経歴が物語るように、硬軟取り混ぜて対応できる超絶テクニック系プレイヤーとして認識している。

“出逢い”はいきなり訪れた

音を聴いて、「あっ、この人だ!」と思った。(撮影:富澤えいち)
音を聴いて、「あっ、この人だ!」と思った。(撮影:富澤えいち)

──北川さんと岡田さんの出逢いというのは?

北川  もちろん治郎さんのことは知っていたんですけれど、私がベーシストを探そうといろいろな音源を聴いているときに、「あっ、この人だ!」と思ったんです。この人に絶対、私の曲を演奏してほしい、って。

──連絡するツテとかはなかったんですか?

北川  なかったんですよ……。それで、いきなりライヴを観に行って、「私の曲を弾いてください!」って言ってCDを渡したんです。

岡田  そうそう、そうだったよね(笑)。

北川  それで確か1枚目(『Into a Mirage』)を私の名刺と一緒に渡したら、治郎さんが「じゃあ、ここに連絡しますね」って言ってくれたんですけれど、次の日になっても連絡がなくて……。これは社交辞令にされちゃったなって思っていたんですが……。

岡田  いやいや、ちゃんとアルバムを聴いてから返信しようと思ったんだよ(笑)。

北川  そうですよね……。3日目ぐらいに連絡をいただいて、「ぜひお願いします!」って。

いきなりCDを渡されて、「連絡ください!」ですからね(笑)(撮影:富澤えいち)
いきなりCDを渡されて、「連絡ください!」ですからね(笑)(撮影:富澤えいち)

──岡田さんはそのときどう思ったんですか?

岡田  どうもなにも、知らない人からいきなりCDを渡されて、「連絡ください!」ですからね(笑)。ただ、メンバーを見たら、知っているミュージシャンだったので、それで判断しましたけど。

北川  1枚目のベースは箭島裕治さん、ドラムスは岩瀬立飛さんと平川象士さん。

岡田  でも、聴いてみると、なんだか難しそうだなぁと……。でも、難しそうだけどおもしろそうだとも思ったので。

──難しそう?

岡田  僕自身は、4拍子の音楽が好きなんですよ。

──えっ? 岡田さんの経歴からはちょっと想像しにくいんですが(笑)。

岡田  もちろん、変拍子が嫌いというわけではなくて、これまでにもいっぱいそういう音楽をやってきましたし、そういう要素も自分のなかに取り込みたいという気持ちはあるんです。

──では、演奏するのが難しい変拍子のような要素を、自分のなかに取り込みたいというのは、どういうモチヴェーションなんでしょう?

岡田  修行……、ですかね。

──ツラいことを楽しむ?

岡田  いや、ツラかったら投げちゃうと思います(笑)。ある程度、できそうだなという目星が立つからやってみたくなるというか、う~ん、なんなんでしょうねぇ。

──簡単なパズルだとすぐに飽きちゃうから、難しいほうがいいみたいな?

岡田  そうかもしれないですね。ほどよく難しいほうが。

──ほどよい?

岡田  彼女の曲は、一応、ジャズのフォーマットに則っているので、そういう意味ではほどよさがあると思うんです。それに、難しい部分を演奏するかどうかは、演奏者本人に選択の余地があるんじゃないでしょうか。この部分をユニゾンで弾いてほしいと指定してあっても、拒否権はあるはずだから(笑)。

北川  でも治郎さんは、ユニゾンの指定をしていない部分もユニゾンで弾いてくれたりして、それがまた曲を進化させることになっているんですよ。

──そういう部分って、譜面ではオープンになっているんですか?

北川  いえ、ちゃんと書いてあるんですけど、たとえばリズム的に弾いてもらっていて、そのラインの部分をユニゾンに変えてくれたりするから、「あっ、スゴい!」って思うことがよくあるんです。

岡田  そのへんの解釈はベースにしてもドラムスにしても、任されているという認識でいるので。その意味で、拒否権もあるということなんです(笑)。

──先日のライヴ(2019年7月30日、東京・神田司町 Lydian)ではツイン・ドラムス(岩瀬立飛と橋本学)でしたが、あの場合の譜面との関係というか、演奏者の任され具合というのはどうだったのですか?

北川  あれは完全にインプロヴィゼーションです。

岡田  あの2人の技量のすばらしさがなせる技ですよ。それまでやったこともない初めてのアプローチも、いきなりその場で始めてしまうような人たちですからね(笑)。

──作曲者の立場として北川さんはどういう思いでそれを見ているんですか?

北川  自分が考えていたアプローチとはぜんぜん違うかたちでどんどん演奏が展開しているときは、「あれ? 違うなぁ……」って思うこともあるのですが、それを「ダメ!」というのではなく、従ったほうがもっと違う、なにか新しいものが見えたり、自分が曲を作るときに思っていた以上のものに出逢えたりするので、チャレンジだと考えるようにしています。

岡田  僕は、自分のなかでこの曲のこの部分はこう弾こうと決めていることは弾きますけれど、それ以外はなるべく流れに従って、その場にあった音を出したいと思っています。それにしても、あのドラムスの2人は、よくあの難しい曲で、あんなに自由に叩けるなぁって思いますよね。難しい部分ほど、普通ならキメをつくって臨もうとするんですけど、そういうアプローチを採らない人たちだから(笑)。

北川  レコーディングのときも、私が「前のライヴでやったフレーズがすごくかっこよかったから、ああいう感じでお願いします」って言ったら、「あれはもう飽きたからやらないよ」って(笑)。

岡田  でも、飽きたから普通にやるんじゃなくて、もう次の、また違うアイデアを考えているから、スゴいよね。

北川とわのヘンなところって?

拍子でしょうね(撮影:富澤えいち)
拍子でしょうね(撮影:富澤えいち)

──“北川とわが書く曲のほかと違うところ”のポイントはどこにあるのでしょう?

岡田  拍子でしょうね。コード的には、そんなに特殊に感じるところは少ないですから。

北川  急な転調とかは多いけど(笑)。

──1作目から聴いていて、フレーズをリフレインする部分が特徴的で、それがまた説得力のある構成になっているところが魅力だと思っていたのですが。

北川  それについては高校生ぐらいからずっと考えていることがあって、自分の作曲法と言える部分にもなっているんですけれど……。1つのモチーフを手を替え品を替え展開させて作っていくという技法なんですね。私の曲って実は、モチーフが1つか2つぐらいしかなくて、それをもとに発展させていくスタイルなんです。だから、まったく関係のないモチーフをカッコいいからという理由だけでサビにもってきたりするようなことはしなくて、展開部分は必ずもとのモチーフと、音程は違うけれど同じだったり、という関係性があるんです。

──繰り返していると感じるんだけど、飽きないんですよ。

北川  それはたぶん、調や音程の関係を少し変えたり、幅を伸ばしたりしていることも関係しているんじゃないかな。

──フレーズの繰り返しで曲を作るという意味では、これも一種のブルースと言えるかもしれませんよね。

北川  ん? そうなんですか?

──フレーズを繰り返すうちに、だんだん感情が濃くなっていくみたいな。もちろん、サウンド的にはぜんぜんブルースと言われているものには思えないですけれど、これってブルースなんじゃないのかなと思った瞬間があったので。

北川  私は意識したことはないんですけれど……。

岡田  ブルースなんて、聴いたことあるの?

北川  えっ? まぁ……(笑)。

──モチーフって、どんなところから生まれてくるんですか?

北川  イメージとともに、ですね。音だけでモチーフを考えようとしても、やっぱり曲ってできないんですよ。一緒に映像というか、イメージが湧いてくると、曲になっていくという感じかな。

──曲は頭からお尻へと順番にできていくんですか?

北川  実は、1つのモチーフが浮かんだら、それがどんなふうに展開できるかって、何種類も考えるんです。例えば「Airglow」って曲では、「ソ、ド、ファ、シ、ミ、ラ、レ、ソ」を2分音符で書いておいて、それが途中では「ソドファシミラレソ、ソドファシミラレソ」って速く弾こうとか。あと、次は左手の低い部分で弾こうとか、いろんなバージョンを作る。で、「じゃあ、これはイントロ」「これはBメロ」「これは最後のエンディングで使えるな」とか、そういう感じです。

──交響曲の作り方みたいですね(笑)。

北川  あっ、そうですね。確かに、クラシック的な技法かもしれません。ジャズの普通の作曲法ってよくわかっていないんですけれど、Aメロを書いて、それにつなげるカッコいいメロディーのBメロを書いてみたいな、そういうのはぜんぜんやっていないんですよ。浮かんできたモチーフに関連した展開というか、理論的につながっていないと書けないんですよね。それでいて理屈だけじゃなくて、耳に残るメロディーじゃないとダメというか……。

──そういう意味では、現代音楽的な作曲法なのかな、と。

北川  そうですね。現代音楽は中学ぐらいからずっと好きで聴いていましたから。

──どのあたりを?

北川  バルトークとかヤナーチェクあたりからです。バッハとかモーツァルト、ベートーヴェンなんかを聴いても、ぜんぜんおもしろくないと思っていたので(笑)。それが、バルトークを聴いたときに「クラシックなのに、なんてカッコいいんだ!」って思った。それから、吉松隆さんとか有名どころを聴くようになったんです。

──変拍子好きは、イギリスのロック系の影響かと思ったのですが。

北川  実は、ぜんぜんそういうのって、聴いてこなかったんです。

──つまり、音をひとつずつずらしたり、拍子を足したり引いたりするような数学的な作曲法は、現代音楽の影響なんですね。

北川  きっかけはそうですね。高校生ぐらいからそういうアプローチで曲を作り始めていたんですけれど、本格的に変拍子にこだわって書き始めたのは大学のころからかな。

自分はあんまり作曲が上手じゃないと思っていましたから(笑)(撮影:富澤えいち)
自分はあんまり作曲が上手じゃないと思っていましたから(笑)(撮影:富澤えいち)

──大学で作曲を勉強したあと、卒業してからは、作曲家としてやっていこうと考えていたんですか?

北川  いえ……、在学中から、自分はあんまり作曲が上手じゃないと思っていましたから(笑)。だから、友だちに頼まれてアレンジをやったりはしていましたけど、どちらかというとピアノを弾く仕事のほうが多かったと思います。TV番組の収録でもよく弾いていたし、豪華客船クルーズなどでも弾いたりしてましたね。ただ、なにになりたいとか、あまりそういうことをちゃんと考えていなかったというか、流れに任せて生きていたというか(笑)。

──では、大学を卒業してから、最初のバンド(Sonic Laboratory)を結成するまで、どのぐらい間が空いているんですか?

北川  5年ぐらいかな……。いろいろ、そのときに頼まれた仕事をやって過ごしていましたね。

──なぜ自分のバンドをつくろうと?

北川  別になにか理由があったわけじゃなくて、あるときドラムスとベースの人と演奏したら、これって楽しそうだな~、ぐらいのノリなんです(笑)。

岡田  軽い……(笑)。

北川  それでバンドを始めて、1年半後ぐらいに「CD作りませんか?」って言われて、じゃあ、作りましょう、と。

岡田  軽い……(笑)。

北川  ただ、そのころはすごい勢いで曲を書いていました。「Cloudiness」とか「Mirage」とか、ライヴごとに3~4曲ぐらいずつ。だから毎月のように新しい曲を書いて演奏してましたね。

岡田  そうだったんだ。すごいね。でも、一緒にやる人、たいへんだね(笑)。

北川  そうかもしれないですね。でも、そのころはなぜか、どんなに難しい譜面を書いても、誰でも演奏できるって思っていたんですよ。

──?

北川  だって、CDではみんな、演奏できてるじゃないですか。だから、なんでこれぐらいの譜面を叩けないっていうのかな、って。「えっ、カリウタは叩けてるでしょ?」みたいな。

岡田  そんな……(笑)。

──いやいや、みんながヴィニー・カリウタみたいな演奏ができるとはかぎりませんから(笑)。

北川  でも、もう最近はそういうことは理解してますから(笑)。だから、譜面を渡して「弾いてください」ではなくて、私がイメージしているサウンドに近い音源を聴いてもらって、「こういう感じにしたい」ということを伝えるようにしています。しかし、それに対して、例えば治郎さんが「こういう感じでやってみない?」って別のアプローチを提示してくれて、そっちのほうが魅力的なことも多いので、いつもピアノトリオサウンドを作るうえで助けられてます。

──それが「作曲家・北川とわ」としてこぢんまりとまとまらずに、「Trussonicの北川とわ」として進化し続ける魅力につながっているわけですね。

北川  TrussonicのTrussは「三角形を基本単位とする構造の骨組み」の意味で、sonicは音。だから、私ひとりの音楽じゃなくて、しっかりとした骨組みを土台にしたバンドがあるからこそ、私の曲の世界が大きく展開していくんだと思っているんです。

◆北川とわと岡田治郎出演による2019年9月16日ライヴの告知動画です。

2019年9月16日ライヴのフライヤー(筆者撮影)
2019年9月16日ライヴのフライヤー(筆者撮影)