Yahoo!ニュース

出掛ける前からジャズ気分:“自由楽団”の遍歴を再定義する3夜(Orquesta Libre@新世界)

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家
ORQUESTA LIBRE『PLAYS DUKE』(LP)
ORQUESTA LIBRE『PLAYS DUKE』(LP)

Orquesta Libre(オルケスタ・リブレ)はジャズ〜オルタナティヴ・シーンの最前線で活躍するドラマー・芳垣安洋が2011年に結成したバンドで、そのコンセプトは「1960~70年代のロックやポップス、演劇舞台音楽、ミュージカルや映画音楽、ジャズ・チューンから第三世界の音楽まで、邦楽/洋楽のスタンダードソングを“うた”と“インストゥルメンタル”でプログレッシヴに再定義する」。

これまでに“イントロデューシング Orquesta Libre”となる『Can’t Help Falling Love』(2012年)、同時発売でゲスト・ヴォーカルを迎えた歌ものの『うたのかたち』(2012年)、ジャズのオリジネーターのひとりであるデューク・エリントンのナンバーを取り上げた『PLAYS DUKE』(2013年)と3枚のCDを制作し、直近では待望の『PLAYS DUKE』アナログ盤をリリースするなど、アンダーグラウンド・シーンでもっとも熱い注目を浴びているバンドのひとつだ。

アルバムのラインナップを見れば気づくように、Orquesta Libreではいくつかのプロジェクトが並行して進行している。それは彼らが自身のコンセプトをひとつにまとめたサウンドをめざしているのではなく、“音楽は多種多様で存在することが自然”という基本理念をもって臨んでいるからにほかならない。

12人という大編成のOrquesta Libreにとってサウンドにヴァリエーションをもたせるアプローチは諸刃の剣ではないだろうか。それはどんな曲を演奏しても“Orquesta Libreのサウンド”として完成させられるというひとつの“決め技”をある意味で封じられることであり、マーケット的には必須とされるブランディングに大きなマイナス作用を及ぼすリスクのあるものだ。

しかし、そのリスクを避けることは自らを限定し、可能性を狭める行為にほかならない。それではOrquesta Libre、日本語にすれば“自由な楽団”ではなくなってしまう。

彼らが求める“自由”はそれに留まらない。

音楽を作品として再現するとき、原則的な概要は作者が譜面等に指定したものを基準に限定されるが、“演奏者のバイアス”を無視することはできない。つまり、楽曲をカヴァーするという行為はオリジナルどおりでないことが当たり前であり、どれだけオリジナルどおりでないかが評価のポイントになるということだ。

スタンダードという概念もまた、オリジナルをマテリアルとして提供し、それをどれだけオリジナルから離れた地点へ“着地”させることができるかを試すための“試金石”に用いられることを考えれば、Orquesta Libreの“古今東西のスタンダードを再定義”というコンセプトはテーマを限定するものではなく、むしろ既成のジャンルへの“着地”をどうやって避けるかという、自由であるがゆえの難題に立ち向かっていることを意味する。

では、この3daysのポイントを簡単にまとめてみよう。

1日目の「plays Duke and More」はズバリ、パッケージされて完結しているアルバム『PLAYS DUKE』のリアルな音楽発展を体験するのためのステージとなるだろう。デジタル(CD)とアナログのリリースというこだわりをもって挑んだデューク・エリントンの音楽観から、Orquesta Libreはどこまで離れることができるのか? あるいは、遠く離れていると思わせておいて実はオリジナル以上にオリジナルらしさを醸し出しているという“クラインの壺”のような世界観に発展するかもしれない。タイトル“and More”の意味を解き明かすステージを期待したい。

2日目の「オペラ?!」は、彼らのプロジェクトのひとつである“演劇舞台音楽”の新たなヴァリエーションのようだ。ゲストのROLLYはロック・バンド“すかんち”のヴォーカル&ギターとして注目を浴び、ソロになってからは役者としても実績を重ねている。どんな“舞台的なステージ”が繰り広げられるのか興味津々。

3日目の「うたのかたち」は、歌もののアルバム『うたのかたち』の軌跡をたどり、新たな可能性を探ろうというものに違いない。ブルースとフォークのテイストを伝えるおおはた雄一をフィーチャーしてのステージで、邦楽や洋楽に対する聴き手の固定観念をOrquesta Libreが溶かしていく“経緯”を楽しむことができるのではないだろうか。

では、行ってきます!

Orquesta Libre 3days Live!!

●公演概要 Day1 『plays Duke and More』

9月21日(日) 開場 18:30/開演 19:30

会場:音楽実験室 新世界(六本木)

出演:Orquesta Libre:芳垣安洋(ドラム)、青木タイセイ(トロンボーン、キーボード、ハーモニカ、アレンジ)、塩谷博之(ソプラノ・サックス、クラリネット)、藤原大輔(テナー・サックス)、渡辺隆雄(トランペット)、Gideon Juckes(チューバ)、高良久美子(ヴィブラフォン)、椎谷求(ギター、スティール・ギター)、鈴木正人(ベース、アレンジ)、岡部洋一(パーカッション)、ゲスト:スガ・ダイロー(ピアノ)、RON×II(タップダンス)

●公演概要 Day2 『オペラ?!』

9月22日(月) 開場 18:30/開演 19:30

会場:音楽実験室 新世界(六本木)

出演:Orquesta Libre:芳垣安洋(ドラム)、青木タイセイ(トロンボーン、キーボード、ハーモニカ、アレンジ)、塩谷博之(ソプラノ・サックス、クラリネット)、藤原大輔(テナー・サックス)、渡辺隆雄(トランペット)、Gideon Juckes(チューバ)、高良久美子(ヴィブラフォン)、椎谷求(ギター、スティール・ギター)、鈴木正人(ベース、アレンジ)、岡部洋一(パーカッション)、ゲスト:ROLLY

●公演概要 Day3 『うたのかたち』

9月23日(火) 開場 18:30/開演 19:30

会場:音楽実験室 新世界(六本木)

出演:Orquesta Libre:芳垣安洋(ドラム)、青木タイセイ(トロンボーン、キーボード、ハーモニカ、アレンジ)、塩谷博之(ソプラノ・サックス、クラリネット)、藤原大輔(テナー・サックス)、渡辺隆雄(トランペット)、Gideon Juckes(チューバ)、高良久美子(ヴィブラフォン)、椎谷求(ギター、スティール・ギター)、鈴木正人(ベース、アレンジ)、岡部洋一(パーカッション)、ゲスト:おおはた雄一

♪『CARAVAN』 plays Duke TOUR FINAL @STB139 2013/09/18

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

富澤えいちの最近の記事