もくじ

♪今週のスタンダード〜ブラック・コーヒー

♪今週のヴォーカル〜ジョン・ヘンドリックス

♪今週の自画自賛〜ジャズ耳養成マガジン「JAZZ100年」第5巻

♪今週の気になる2枚〜中村善郎『ボサノヴァの歴史』/今井亮太郎『ピアノ・バトゥカーダ』

♪執筆後記

「月曜ジャズ通信」のサンプルは、無料公開の準備号(⇒月曜ジャズ通信<テスト版(無料)>2013年12月16日号)をご覧ください。

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ペギー・リー『Greatest Hits』
ペギー・リー『Greatest Hits』

♪今週のスタンダード〜ブラック・コーヒー

「ブラック・コーヒー」は、1948年にポール・フランシス・ウェブスターの作詞、ソニー・バークの作曲で、同年にコロンビア・レコードに移籍したサラ・ヴォーンのために用意された曲でした。

ソニー・バークは、ディズニー・アニメ「わんわん物語(Lady and the Tramp)」(米公開1955年、日本公開1956年)の挿入歌「ベラ・ノッティ」も作っています。その共作者ペギー・リーは、1953年に「ブラック・コーヒー」をカヴァーして大ヒットを記録した歌手。

歌詞の内容は、家に寄り付かない亭主の帰りを待ちわびながら虚しく過ぎる毎日を、寂しくコーヒーを飲む姿に投影して嘆くという虚無的なもので、ブルース的といえばブルース的でしょうか。いや、ちょっと違うような気もするのですが……。

♪Peggy Lee- Black Coffee

この曲をスタンダードに押し上げたと言っても過言ではないペギー・リーの名唱です。

♪Julie London "Black Coffee"

ペギー・リーはどちらかというと“小股の切れ上がった”スタイルのヴォーカリストですが、「ブラック・コーヒー」ではかなり声帯を絞ってセクシーさを前面に出そうとしています。1960年にこの曲をカヴァーしたジュリー・ロンドンは、それに比べると直球ど真ん中と言いたいセクシーさ満開。

♪Duke Pearson- Black Coffee

1960年代に活躍した、ハード・バップを代表するピアニストであるデューク・ピアソンによるヴァージョン。彼のブルース・マインドがこの曲を呼んだのか、はたまたこの曲の“深さ”が彼のブルースを呼び覚ましたのか。いずれにしても名演。

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ジョン・ヘンドリックス『フレディ・フリーローダー』
ジョン・ヘンドリックス『フレディ・フリーローダー』

♪今週のヴォーカル〜ジョン・ヘンドリックス

インストゥルメンタル、すなわち楽器のみの演奏曲として発達したジャズに、歌詞を後付けする“ヴォーカリーズ”という手法をもち込んで、カヴァーという概念を革新したのがジョン・ヘンドリックス(1921〜)です。

米オハイオ州ニューアーク生まれ。14人兄弟だった彼の家族は、米メソジスト監督教会の牧師だった父親に連れられて各地を転々としたのち、オハイオ州のトレドに定住しました。

7歳で人前で歌うようになり、10歳のころにはトレドの有名人になっていたとか。同郷のピアノの巨人、アート・テイタムのラジオ番組にレギュラー出演していたそうです。

第二次世界大戦中は兵役につき、終戦後は復員兵援護法を利用してトレド大学へ進みますが、給付金が終了して法律家への道が断たれてしまいます。そんなころ、ツアーでトレドを訪れたときに知り合いになっていたチャーリー・パーカーに呼ばれてニューヨーク行きを決意し、本格的な歌手としてのキャリアをスタートさせます。

1957年には、デイヴ・ランバートとアーニー・ロスとで“ランバート、ヘンドリックス&ロス”というヴォーカリーズのトリオを結成。このユニットの成功が、ジャズにおけるヴォーカリーズを確立し、それを成し遂げたジョン・ヘンドリックスの名声を不動のものにしたと言ってもいいでしょう。

1960年代後半には再びソロ活動を始め、1968年に拠点を英ロンドンに移してヨーロッパ方面へも名声を広めますが、5年後にはカリフォルニアへ戻り、以降は歌手としての活動のほかに教育にも力を注ぎました。

旧知だったマンハッタン・トランスファーとのコラボレーション・アルバム『ヴォーカリーズ』(1985年)はグラミー賞7部門を受賞しています。

2013年には91歳にして来日を果たし、その健在ぶりを日本のファンに示してくれました。

♪Lambert Hendricks and Ross airegin

ランバート、ヘンドリックス&ロスが歌う「エアジン」です。ソロ・パートで延々と超絶的なスキャットを披露しているので要注目。このリズム感とセンスがあったからこそ、ジャズのクオリティを損なわない歌詞を付けてヴォーカリーズを成立させることができたのですね。

♪Jon Hendricks & The Manhattan Transfer

1991年のスペイン・ヴィトリア・ジャズ・フェスティヴァルでの、ジョン・ヘンドリックスとマンハッタン・トランスファーの共演ステージです。同じく「エアジン」を歌っています。

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JAZZ100年 6/10号
JAZZ100年 6/10号

♪今週の自画自賛〜ジャズ耳養成マガジン「JAZZ100年」第5巻

富澤えいちが記事を担当している「JAZZ100年」の「名演に乾杯」5回目は、CD収録の「アラバマに星墜ちて」の演奏に合わせてスタア・バー・ギンザの世界チャンプ・バーテンダー岸久さんが選んだアラバマ・スラマーについて。

酸味のきいたカクテルはわりと好きなのですが、どちらかといえばドライな酒に風味として合わせるほうが好みでした。それが岸さんの手にかかると、甘みと酸味のバランスが絶妙になるんですね。

もちろんレシピがあって、プロはそれを厳密に守るから、アバウトな味になるはずがない。でも、やっぱりなにかが違う。どうしてこんなに美味しくなるのか……。その謎は、どうしてこんなに演奏者によって音色が変わるのかととくに思うことが多いアルト・サックスを特集した本号を読み&聴きながら、考えるとしましょうか。

♪Cannonball Adderly Quintet 1959 ~ Stars Fell On Alabama

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中村善郎『ボサノヴァの歴史』
中村善郎『ボサノヴァの歴史』

♪今週の気になる1/2枚〜中村善郎『ボサノヴァの歴史』

世界が認めるボサノヴァのマエストロ=巨匠である中村善郎が、日本のファンに向けて“ボサノヴァ愛”を伝えるために工夫を凝らした作品です。

聴き始めるとまずビックリするのが、ナレーションが入っていること。担当は斎藤千和。人気声優さんとのことですが、ボクは『化物語』なら数回見たことがあるぐらい。『魔法少女まどか☆マギカ』はパスでしたので詳しくありません。あしからず。

セレクションはボサノヴァのオリジネーターと言われるトム・ジョビン、ヴィニシウス・ヂ・モライス、ジョアン・ジルベルトの作品から。

中村善郎が弾き語り、斎藤千和が短いコメントと曲紹介をするスタイルは、かつての深夜FM番組を彷彿とさせます。

このちょっとした工夫のおかげで、このアルバムがありきたりのカヴァー集の域を抜け出て、BGMよりも心に残り、ボサノヴァの存在感をより感じるようになっていることに気づくはずです。

“歴史”と言っているけれど、オーソライズや「かくあるべき」という精神論とはかけ離れたところにあるのもまた、このアルバムの魅力。「そんなことはまあともかく、こういうサウンドがボサノヴァという音楽の根っこにあるんですよ」ということだけわかればいいというスタンスが、とてもボサノヴァっぽいと思います。

♪Yoshiro Nakamura / A History Of Bossa Nova, Vol.1 Promo Video

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今井亮太郎『ピアノ・バトゥカーダ』
今井亮太郎『ピアノ・バトゥカーダ』

♪今週の気になる2/2枚〜今井亮太郎『ピアノ・バトゥカーダ』

期せずして、サッカーのW杯ブラジル大会を目前にブラジル系のアルバムが並ぶことになりました。いや、なにかの巡り合わせかな?

ボサノヴァ&サンバ・ピアニストを名乗る今井亮太郎の3枚目のリーダー作は、タイトルに堂々と“バトゥカーダ”という言葉が入っています。

もともとこの言葉はサンバのリズム隊が合奏するスタイルに用いられるもので、そうなるとピアノがいくら打楽器の親戚である打鍵楽器だと言い張っても、ちょっと無理がある絡み方ではないかと思いながら聴き始めると、「うーん、確かにバトゥカーダだなぁ」と。

バトゥカーダを意識するといっても、あくまでも日本流の粘着質なアプローチではなくラテンの軽いノリを崩さないところに、サンバとピアノを融合させようとする彼の真剣度が表われている気がします。

ちょっと多めのオリジナルと要所を締めるカヴァーとのバランス、耳なれた曲へのアレンジにおける原曲への畏敬と自身の個性の発露とのバランス、いずれも絶妙で、ワールド・ミュージックやフュージョンのポスト世代を担うにふさわしいミクスチャーのセンスが感じられる、Jブラジリアンな1枚です。

♪今井亮太郎「ブルー・フライト ー Voo Azulー」PV

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富澤えいち『頑張らないジャズの聴き方』
富澤えいち『頑張らないジャズの聴き方』

♪執筆後記

後半はブラジル繋がりでまとまったので、最後もなにかブラジルとジャズに関係したものがないかと検索してみると、こんな音源が見つかりました。

♪Bing Crosby & Rosemary Clooney- Brazil

中村善郎『ボサノヴァの歴史』にも収録されている「ブラジルの水彩画(サンバ・ブラジル)」です。中村ヴァージョンはジョアン・ジルベルトをリスペクトしたものと推察しますが、こちらはジャズの直球ど真ん中であるビング・クロスビーとローズマリー・クルーニーによるデュオ。

2016年のリオデジャネイロ・オリンピックも控え、ブラジルへの音楽的な興味も盛り上がっていくといいのですが。

W杯期間中平穏であることと、サッカー日本代表チームの健闘を祈りたいと思います。

富澤えいちのジャズブログ⇒http://jazz.e10330.com/