Yahoo!ニュース

[訃報]R&B魂を秘め嵐のように吹きまくったアーサー・ドイルさん逝去

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

フリー・ジャズのシーンで活動を続けたサックス奏者のアーサー・ドイルさんが亡くなられました。享年69歳。

It is with a heavy heart that we confirm the passing of Arthur Doyle, a performer of what he called “free jazz soul.” He died on January 25.

出典:RIP: Arthur Doyle, legendary “free jazz soul” artist|TINY MIX TAPES

Arthur Doyle『The Songwriter』
Arthur Doyle『The Songwriter』

知る人ぞ知る、というミュージシャンですが、ノイズ系の世界ではかなり名の知れた存在だったのではないでしょうか。

資料が少ないので、Wikipediaから生い立ちを抜粋します。

1944年に米アラバマ州バーミングハムに生まれたアーサー・ドイルは、幼いころからサックスに興味を示し、ルイ・アームストロングやデューク・エリントンの出演しているテレビの音楽番組を好んで観ていました。

テネシー州立大学で音楽課程を修了したあとは、グラディス・ナイト&ザ・ピップスへの参加やR&Bバンドでの活動を経験していたようです。グラディス・ナイトは“ソウルの女帝”と呼ばれたR&B界のスターで、彼女が率いたザ・ピップスは1960〜70年代のヒット・チャートの常連でした。

アーサー・ドイルの名前がジャズ・シーンに現われたのは1969年にリリースされたノア・ハワードのアルバム『The Black Arc』。ノア・ハワードは黎明期のフリー・ジャズを代表するアルト・サックス奏者です。

急速にムーヴメントが萎んでしまった1970年代前半のフリー・ジャズ・シーンでは彼の活動を追うことが難しいようですが、1976年にリリースされたミルフォード・グレイヴスのアルバム『Babi Music』で健在ぶりを見せた後に、ようやく自身初のリーダー作となる『Alabama Feeling』を1978年にリリースします。

1980年代は再び表舞台から遠ざかったようですが、1990年代にはリーダー作も多く、アメリカでは伝説的なフリー・ジャズのアーティストとして認められていたことがわかります。

彼への評価が表現されたものでもあり、その名前をさらに知らしめるきっかけにもなったのは、ソニック・ユースが2004年にリリースしたアルバム『ソニック・ナース』に収録された「マライア・キャリー・アンド・ジ・アーサー・ドイル・ハンド・クリーム」(アルバム収録時は「キム・ゴードン・アンド・ジ・アーサー・ドイル・ハンド・クリーム」に改題)でしょう。ソニック・ユースは1981年結成のアメリカのインディーズ・シーンを代表するノイズ・パンク系のバンド。

つまり、ノイズ系の音楽シーンにおいてアーサー・ドイルという名前はすでに神格化されていたというわけなのです。

♪Arthur Doyle Solo

2007年のソロ・パフォーマンスを記録した映像です。

♪Arthur Doyle & Takashi Mizutani & Sabu Toyozumi

1997年の来日公演を記録したライヴ・アルバム。水谷孝、豊住芳三郎という日本のノイズ&フリー・シーンの両巨頭との共演で、凄まじいばかりのエネルギーを放出しています。

♪Sonic Youth- (7/10)- Mariah Carey and the Arthur Doyle Hand Cream (2004/08/27)

ソニック・ユースの「マライア・キャリー・アンド・ジ・アーサー・ドイル・ハンド・クリーム」も参考までに聴いてみてください。彼らのアーサー・ドイルへのリスペクトが伝わってきます。

ご冥福をお祈りします。

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

富澤えいちの最近の記事