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廃止された長野の公園~公園はどうあるべきかを、現地で専門的見地から不動産鑑定士・税理士が考えてみた

冨田建不動産鑑定士・公認会計士・税理士
現在の青木島遊園地跡地。特記のないこの記事の写真は令和5年7月13日筆者撮影。

■はじめに

過日、長野市で「近隣住民からの声で、公園※が廃止された」報道がありました。

※正確には青木島遊園地という遊園地とのことですが、世間一般に言うところの公園ですので、この記事では公園という表現に統一します。

令和4年12月8日付のNHKの報道によると、要旨「1件の近隣住民から子供の声が騒がしい」との声があり、市が閉鎖を決めたところ、長野市に300件以上の意見が届いた…とのことでした。

また、令和5年10月24日の長野放送により、以下の報道がありました。

長野県長野市が廃止した青木島遊園地に隣接する児童センターを近くの市青木島小学校に移転する計画を巡り、市が同校敷地内に新たな建物「新多目的棟」を建設する方針を地元関係者に説明していることが16日、分かった。

何か気になるものがあったのですが、長野市ですので、東京の筆者は気軽に自転車で行く…というわけにもいきません。

機会があればと思っていたところへ、7月に富山市での不動産鑑定の案件を頂きました。そして長野駅は、北陸新幹線で東京駅と富山駅の間にあります。

結果、長野市に寄ることができましたので、その時に調べた所感を述べたいと思います。

yahoo!マップで青木島遊園地のある長野市青木島大塚付近(画面下の明るい部分)を筆者が令和5年7月18日に撮影。長野駅から道路距離でおよそ4Km南に位置する。
yahoo!マップで青木島遊園地のある長野市青木島大塚付近(画面下の明るい部分)を筆者が令和5年7月18日に撮影。長野駅から道路距離でおよそ4Km南に位置する。

■まず、登記を上げてみた

該当の土地の所有者は、明治時代の家督相続がどうのという所有権の記載があり、その後、直近では平成29年に相続による所有権移転登記がありました。

家督相続の際の苗字と、現在の所有者の苗字が一致していますので、代々、所有し続けている土地であり、地域に愛着をお持ちで自分の敷地を公園用地として善意で提供したのだろうな…と思われました。

■市役所へ

思いのほか富山市での不動産鑑定が順調に進みましたので、7月13日の午後3時20分に長野駅に降り立てました。

正直、富山からでは夕方5時15分の市役所終業まで間に合わないと思い市役所での調査は諦めていたのですが、この時間であれば長野市役所も行けます。

と、いうことで、長野駅から20分ほど歩いて長野市役所に赴きました。

ここで聞くのは、以下です。

①資産税課に行って、公園の場合の固定資産税都市計画税の扱いを尋ねる

②公園緑地課に行って、一連の経緯について尋ねる

まず、資産税課に行きます。

このような公園の場合、土地の固定資産税都市計画税の扱いはどうなるのかと聞いてみました。

公共の用に供しているので、固定資産税都市計画税は免除なのかと思っていましたが、「無償で公園にしているなら免除であるが、有償で賃貸の上で成立している公園であれば課税する」とのことでした。

長野市役所
長野市役所

また、公園の前面道路の最新の令和5年固定資産税路線価も聞くと、公園の西側でわずかに平米32,060円の箇所にかすりますが、大部分は平米27,510円とあり、この土地の課税評価額の計算に際してはこちらを用いるとのことでした。

筆者は土地所有者ではないので実際の固定資産税評価額は教えてもらえませんが、面積は1,376平米※とのことですので、形状その他の補正もあるので概算に留める前提で計算すると、27,510円×1,376平米→約3,785万円となります。

※なお、土地の登記簿上の地積は1,395平米とありますが、公園緑地課の後述の藁半紙の記載に従うこととします。

固定資産税評価額はあくまでも「固定資産税等の算定のための便宜的な価格」であり、不動産鑑定士が求める実際の市場価値を反映した公正価値とは異なり、これより割安なことが多いです。

いわば、所有者の方は、少なく見積っても3,000万円台の価値の土地を、少ないであろう公園の地代に基づく稼ぎ程度で甘受して公園に提供していたわけで、今回の対応はその志を無駄にした面もなくはないのでは…と思いました。

右の建物が青木島公園隣接の児童センターである~前面道路付近から撮影
右の建物が青木島公園隣接の児童センターである~前面道路付近から撮影

次に、公園緑地課です。

行くと、報道関係者が多いからか、「青木島遊園地の廃止を判断した経緯について」という藁半紙が用意されていましたので、こちらを頂きました。

概要を抜粋すると、以下が書かれていました。

・青木島遊園地は民有地を借地していた

・平成16年4月1日開設

・公園事業にも予算があるので、公園愛護会活動を地域住民や団体にお願いしていたが、その後、児童センターが単体で担っていた

・児童センター、保育園や小学校に近く、昼は保育園や小学校から多数訪れ、夕方は児童センターから毎日40~50人で一斉に遊ぶ状況で、大きな声や音が発生していたようである

・ボールの宅地への飛び込み、ボール回収の際の植栽の踏み荒らし、夜間にはサッカーのリフティングや花火の音の騒音等もあり、近隣住民より意見があった

・児童センターでは平成20年5月に遊園地でのボール遊びをやめた

・令和3年3月以降は児童センターの遊園地利用が実質、困難となり愛護会活動の継続ができないとの相談が公園緑地課にあった。公園緑地課は愛護会活動を各施設や住民等に依頼したが、引受先がなく廃止はやむを得ないとなった

・子供たちの遊び場の確保は、小学校のグラウンド、青木島遊園地の徒歩5分圏内の遊園地等を利用いただきたい

個人的には、令和3年3月以降の児童センターの遊園地利用が困難になった理由が気にはなったのですが、それはそれとして、藁半紙を読む限りでは、「愛護会活動の担い手がいなくなった」ために廃止したと読めました。

なお、更に「このような公園用地を賃借する際の地代はどうやって定めるのか」と尋ねたのですが、個別に決定するとかで、ご教示頂けませんでした。

奥が公園跡地。右が青木島保育園、左は青木島小学校。跡地の奥が児童センターである
奥が公園跡地。右が青木島保育園、左は青木島小学校。跡地の奥が児童センターである

■現地へ

長野市役所から徒歩10分強歩いたバス停からバスに揺られること20分程度で着いたバス停から更に10分歩き、現地に着きました。

まず、最も気になっていたのは、跡地の現況です。

結論から言いますと、草が生い茂る遊休地となっていました。

仮に筆者がこの土地を鑑定評価するとしたら、「数区画に分譲しての戸建住宅(の敷地)の分譲用地」が最も有効な使用方法と判定の上で、鑑定評価をするでしょう。

所有者の方がこの土地を売却したり建築したりかししない理由は不明ですが、せっかくの土地が有効活用されておらず、残念な気持ちになりました。

実は市役所で「公園の跡地で建築計画が出ていないか」との点も長野市建築指導課で聞いていたのですが、「ない」との回答。

現地を見れば、「これでは建築確認がない筈だ」とも思いました。

一方で、夕方5時台でしたが、児童センター内には子供たちが何人かいるようでした。

児童センター(左側)から跡地を望む~奥が青木島保育園
児童センター(左側)から跡地を望む~奥が青木島保育園

■筆者の見解を

長野市の固定資産税都市計画税の税率は、1.4%と0.3%です。

先ほどの概算結果に従い37,850,000円程度を仮に固定資産税評価額とすると、通常はその6~7割程度が固定資産税課税標準額となりますので、37,850,000円×6~7割×(1.4%+0.3%)→40万円前後の固定資産税都市計画税が毎年生じると考えられます。

所有者は遊休地となることで、土地から得られるものは特になく、その税額を毎年垂れ流す。

一方で、子供たちの遊ぶ場が確保しづらくなる。

いわば、国土の有効利用と真逆のことをしている感じはしました。

児童センター側から公園跡地の前面道路を望む。左が跡地で、道路の対面には民家が建ち並び、音や声が気になるというのもわからなくはない。
児童センター側から公園跡地の前面道路を望む。左が跡地で、道路の対面には民家が建ち並び、音や声が気になるというのもわからなくはない。

■福祉施設の過度の設置は避けるべきである

この件も、有償の土地賃貸借の公園であったので、公園を維持することで少なからず税から払われていた面もあります。

福祉施設の増やしすぎに代表される過度の福祉のバラマキは、結局のところ、皆に負担になるとの点は忘れてはならないでしょう。

ですので、筆者は提唱します。

過度の福祉施設の設置は、厳に慎むべきと。

しかし、大人には「子供が安全に遊べる場」をある程度は確保する責務があるのもまた、事実でしょう。

公園の跡地。入口は残っているが、緩くロープが張られ、それがもの悲しい。
公園の跡地。入口は残っているが、緩くロープが張られ、それがもの悲しい。

■最後に

非常に難しい問題とは思いますが、公園その他の福祉施設の維持は無料ではなく、この公園のように土地賃借料として少なからず税からの支出がある場合もあります。そのような公共の支出負担を無視して、安易に「公園や福祉施設の設置や維持を」と叫ぶのは疑問です。

仮に地代を払わずに無償の公園や福祉施設にしたとしても、実はその分の「本来、自治体が得られる筈であった固定資産税や都市計画税の免除がかかるため、自治体の税収が減る」結果、他にしわ寄せが行きますので、やはりその使い方は慎重にあるべきです。

ちょうど、この記事を書いている令和5年10月時点で所得税の4万円減税とか7万円給付とか言っていますが、間違っても、議員の票稼ぎのためのバラマキとしての福祉や給付への垂れ流しは断じて許されるべきではないでしょう。

すなわち、「それが本当に日本のためなのか」との視点を筆者を含めた国民は意識することが必要でしょう。

考えてみれば、無料で使える福祉施設やその他の施設・ハコモノが多すぎるということは、誰かに過度の負担を課していることに他ならないですし、むしろその方が不公平です。

国民一人一人に「福祉施設をはじめとする公共施設の設置・運営は公共に負担がかかるので、本来は無償利用ではなく受益者負担であるべき」点も浸透させていくべきと言えるでしょう。

ただ、公園について考察すると、大人には子供の良い遊び場を確保する義務があります。

ですので、全国である程度の公園は集約の上で、管理費程度の額は有料とすることも考えるべきとも思いました。その管理費で、住環境を害さないような防音設備や安全に遊べる設備を充実させたり、場合によっては指導員や教育者も常置させたりしてもと思います。

ただし、中には経済的に難しい状況の子供たちもいると思われるので、子供は将来を担う面があるとの意義を認めてこの部分は納得の上で、ある程度の税からの補助はなされるべきであろうとも考えます。

今回の閉鎖で、筆者個人が一つ気になったのは、「子供たちの意見は?」との点です。

理論的な話はさておき感情としては、なんだかとっても不幸な解決をしたように思えました。

現場からは以上です。

不動産鑑定士・公認会計士・税理士

慶應義塾中等部・高校・大学卒業。大学在学中に当時の不動産鑑定士2次試験合格、卒業後に当時の公認会計士2次試験合格。大手監査法人・ 不動産鑑定業者を経て、独立。全国43都道府県で不動産鑑定業務を経験する傍ら、相続税関連や固定資産税還付請求等の不動産関連の税務業務、ネット記事等の寄稿や講演等を行う。特技は12 年学んだエレクトーンで、平成29年の公認会計士東京会音楽祭では優勝を収めた。 令和3年8月には自身二冊目の著書「不動産評価のしくみがわかる本」(同文舘出版)を上梓。 令和5年春、不動産の売却や相続等の税金について解説した「図解でわかる 土地・建物の税金と評価」(日本実業出版社)を上梓。

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