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清原果耶演じる百音の空の写真集めは正解? 気象予報士が明かす実際の勉強法

冨永幸気象予報士/防災士/ウェザーマップ所属
冨永撮影 二重虹 外側の副虹は色が反転する

 NHKの朝ドラ「おかえりモネ」が始まって早くも3週間目。主人公の永浦百音(モネ)がいよいよ気象予報士の資格の勉強をはじめたところからスタートしました。その勉強方法は“撮った空の写真に雲の名前を調べて書いていく”というもの。個人の感想ですが、ちょっとオタクっぽい勉強方法だと思います。天気が好きだからできること、好きだからしたいことで、とても共感できました。つまり、私も天気オタクです。

観天望気とは

 モネがしている勉強は「観天望気」につながります。「観天望気」とは、雲などの自然現象や生物の行動の変化から天気を予測することです。朝ドラのエンディングの、投稿のテーマにもなっています。第12話の終盤では、モネが月の写真を撮って「あしたは雨かな」とつぶやくシーンがありました。まさにこれが「観天望気」です。月の周りには虹色の輪、「月暈(つきがさ)」が現れていました。「月暈」とは、月の明かりが上空の薄い雲の氷の粒によって屈折することで見られる光学現象です。つまり、その夜は薄い雲が広がっていたということ。前線を伴った低気圧がゆっくり近づくときなどに広がる雲なので、月暈は“天気下り坂のサイン”といわれています。ぽそっとつぶやくだけのシーンでしたが、モネが雲の名前を調べるだけではなく、雲の特性や天気との関連性についても覚えはじめていることが推測できました。

 この「観天望気」、実は天気予報をする上で最も重要なプロセスを踏んでいて、モネは天気予報の原点や根幹の部分を何気なく学んでいると思います。その重要なプロセスとは「観測」です。天気予報は、“今こうだから●時間後はきっとこうだろう”という計算をします。そのため、”今”の誤差が“未来”の大きなズレを起こしてしまうこともあり、“今”をなるべく正しく把握する観測はとても重要です。

 そんなモネも、教科書を難しそうに見ているシーンがありました。難しい原理などは一旦飛ばしているのでしょうか。このまま独学で勉強していくのか、朝岡予報士が何かしら手助けしてくれるのか、気になるところです。

天気の勉強をすると自分のためになる

 天気と生活がとても深い関係にあることは承知の通りだと思います。雨が降る日は古傷が痛む、屋外のイベントが中止になるなど、生活に時々大きな影響を及ぼします。でも、その原因の天気はある程度予測できるわけです。

 気象予報士として一人前になれば、朝に「きょうは傘が必要か」、「洗濯物は外干ししても大丈夫か」と確認する必要はありません。自分の頭の中に答えがあります。日によっては最新レーダーを見て自分の予報を自分のために修正し、“やっぱり洗濯物の外干しはやめよう“などと考えることも比較的容易です。さらに、服装選びが楽になります。空模様や、気温、風向・風速、湿度の予想から、一日の体感の変化を想像できるようになるからです。同じ晴れでも、雲一つない快晴の時の日差しの暖かさと、空全体に薄く雲が広がっている薄曇りのときの日差しの暖かさでは、体感に大きく差がでます。その体感に合う服装・上着選びをすればよいので、私は「思っていたより寒くて風邪をひく」という失敗はしなくなりました。

気象予報士試験とは

 ただ、その気象予報士試験の合格率は5.5%(気象業務支援センターより 2021年4月1日時点)となっていて、難易度が高いといわれています。でも、ほぼ受験資格がない上に資格の知名度はあるので、受験人数は増えやすいのではと私は思っています。

 といっても、私は合格するまでに約2年かかりました。勉強は得意な方ではなく、はじめて人生でちゃんと勉強したと思います。試験に受かるにはとにかく気象について理解が必要です。単に覚えるだけでは応用がきかず合格できません。試験問題も理解できているかを問うものがほとんどだったように思います。

 私の勉強方法は、①ノートにまとめる→②覚える→③問題を解く→④間違えた原因を探す→⑤理解が足りない部分は関連する論文や文献を探す→⑥論文や文献を教科書代わりにまたノートに書き加える、という方法でした。今でもこのノートは活用しています。一般的な資格の本でおおよその勉強はできるのですが、毎回のように見たことのない問題が出てくるのでそこをカバーするのに苦労しました。

 もちろん、試験に落ちてツライこともあった2年でしたが、飽きることなく勉強し続けられたのは、結局は自分が楽しかったからだと思います。はじめて勉強が楽しいと思いました。そういった「天気が好き」という気持ちが探求心につながって、コツコツ進めることができたのだと思います。

気象キャスターとは

 気象予報士に無事合格し、今は気象キャスターとして仕事をさせていただいています。昔に比べ、天気予報はいつでも気軽に見られる時代になりました。例えば、翌日の天気をスマートフォンで調べれば、天気マーク・気温・降水確率などをすぐ手元で見ることができます。より詳細なページに進めば、住んでいる町の1時間ごとの天気と気温の変化まで見ることもできるでしょう。でも、記号や数字では表現しきれない部分が、実はたくさんあります。

・気温18度で北風7mだと体感は?

・1時間で15mmの雨が6時間続く時は何に警戒が必要か

・曇りマークだけど小雨が降る可能性がある

・晴れるが黄砂が飛来する見込み

 こういった天気予報の“ちょっと深いところ”が実際の生活には必要で、そういったことが伝わるように工夫しています。この工夫があるところが、気象キャスターの天気予報の価値ではないでしょうか。

 最後になりましたが、気象予報士・気象キャスターとして最も重要なのは防災の天気予報です。ネットやテレビで“災害の恐れあり”と伝えていても、気象災害で命を落とす方は後を絶ちません。そんな時はどう伝えればよかったのだろうかと落ち込みます。画面の向こうにいる人に、いかに行動につながるような防災の天気予報ができるか。私を含め、多くの気象予報士・気象キャスターが試行錯誤を繰り返しています。ドラマの中では“天気と防災”についてどのように描かれ、モネは気象予報士として人の命を守れるのか。ぜひ注目していきたいです。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

気象予報士/防災士/ウェザーマップ所属

奈良県出身。学生時代に最先端の科学授業を受講したことで、地球温暖化などの環境問題を入口に気象に興味を持つようになる。一度就職したものの「やはり気象の仕事がしたい」と思うようになり、2016年3月に気象予報士を取得。2017年からは宮城県、2019年からは愛知県で気象キャスターを務める。現在は名古屋テレビ放送の「ドデスカ+」と「ドデスカ!」で東海3県の天気予報を伝えている。テレビでは伝えきれない天気や季節の話を発信していきます。

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