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子どもたちに「防災」をどう伝える? #災害に備える

冨川万美NPO法人ママプラグアクティブ防災事業代表理事
(写真:アフロ)

長かった夏休みもやっと終わり、一息つかれているお父さんお母さんも多いことだろう。家族で出かけて楽しい思い出がつくられた反面で、皆さん思われたのではないだろうか。

子どもの体力ってすごい…

この夏は暑すぎるが故に家でYouTubeやゲームにお世話になりっぱなしの日々。

これは流石に身体を使わせなければ体力が落ちてしまう…と思い立ち、この炎天下にもかかわらず、小学3年生の長男とお友達2人を連れてフィールドアスレチックへ遊びに出かけたのだが、正直我が子を甘く見ていた。

40箇所ほどあるアスレチックのコースを、忍者のように飛び回り、1時間半ほどかけて達成した直後に、3人揃って「別のコースを回ろう!」と笑顔で頼まれる。私はといえば、ただついていくだけなのに終わった頃には疲労困憊、子どもたちを着替えさせ、水分補給させたら既に「帰りたい」モードしか発動していない状態。

この時、私は実感したのである。

子どもたちの底知れぬ体力と、生きる力は、どんなに世代が変わっても健在なんだなと。

今回は防災について、そんな子どもたちにどう伝えるべきか、学んでいくべきか書こうと思う。

先に触れたアスレチックの話題は、実は三つ大きなポイントがある。

一つ目は、今の子どもたちが完全にデジタルネイティブであること。

私がアスレチックに連れ出そうと思ったのも、息子が朝から寝るまで、ほぼデジタル生活をしているからで、とはいえ、この灼熱の中、なかなか外遊びも長時間できず非常に助かったのも事実。これがもし、災害時に停電してこの子達からデジタル系のものを全て取り上げることになった場合、どんなことになっちゃうんだろう…とイメージしてみる。

これは大切な「防災」である。

二つ目は、子どもは生きる力でみなぎっていること。

子どもは日々のアップデートが著しい。昨日できなかったことが今日はできるようになっているし、昨日入った靴が今日はきつい、なんていうこともある。

災害が起きたとして、いつまでも大人が子どもを守って「あげる」ばかりが正解ではないこともある。アスレチックで実感したように、案外なんでもできる。むしろ子どもの方ができることも多い。体力・知力共に「生きる力」を最大限に活かす、育てることが一番の防災である。

三つ目は、子どもには笑顔を絶やさないでほしいということ。

子どもたちの笑顔に勝るものがこの世にあるだろうか。子どもたちは宝だ。

どんなに疲れ果てて、イライラしてしまう私のような大人でも、

「ママー、超楽しかった!また来よう!」ととびきりの笑顔で言われれば、疲れなど全て無かったことにできる(泥のように寝たけれども)。

災害時に必要なのは、前を向ける希望だ。

それを作れるのは子どもたちだ。

だから子どもの防災は最大限の配慮をしなければならない。

それは、恐怖で心をいっぱいにしないこと。

以上が三つの抑えるべきポイントだ。では、そこから考えてみよう。

◾️子どもの成長度合いに応じた備えを

まずは、子どもと一言で言っても、それが新生児から高校生くらいを指すとしたら、全く備えるべきものが違う。

共通して言えることは

・日々成長している「今」の我が子に合った備えができているか

(備えも日々アップデートできているか)

・生きる力を育てられているか(怪我をしないで過ごせるか、普段通りに生活できるか)

・子どもたちが前を向いて生活できるよう、ストレスケアできているか

(災害に負けずに楽しい生活が送れるか)

だ。

■新生児〜3歳位までの子どもの防災ポイント

生まれたばかりの赤ちゃんから、3歳くらいまでの子どもたちに、災害時のことを詳しく伝えるのは不可能だ。

だから、この時期の子どもたちには、大人の力でとにかく「日常生活」を送らせてあげること。

災害時はライフラインやインフラがストップする。

電気・水道・ガスが使えない、物が買えない…という状況になった時、今の我が子に必要なものをよく考えてみよう。

この時期の赤ちゃんは、授乳期・離乳食期・普通食期と食事も全く違うのと、その子によってこだわりが非常に強い時期であること。

例えば、完全母乳のお母さんが、突然粉ミルクに変える必要は全然無いし、粉・液体ミルクで授乳中のお母さんが哺乳瓶が洗えなくて授乳できない、粉ミルクが手に入らないなどといった事態ないようにしたい。

いつものスタイルをいつも通り継続するには、完全母乳なら、少しでもリラックスできる環境を作るために、お母さんのための十分な水分や栄養価の高い食べ物、万が一、避難所などで人目に付くところしかなくても目隠しできるようなケープなど。

粉・液体ミルク授乳のお母さんとお父さんが、いつでも清潔な状態で授乳できるためには、使い捨ての哺乳瓶や消毒グッズ、十分な量のミルクの備えが必要だ。

また、離乳食が始まってくると、いつもは離乳食を手作りしている場合、それが作れなくなってしまう可能性もある。

市販のレトルト離乳食も美味しく食べられるように、普段から試してみたり、市販のレトルトが好きな子には、好きな味のものを多めに備えておいてあげるだけでも、災害時でも安心して食事ができる。

同じような目線で、身に着けるものや普段の習慣も考えてみる。

オムツのサイズや、肌着のサイズ、靴のサイズなどは「今」の子どもたちにフィットしたものでなければならないので、常に少し多めに備えておこう。

また、子どもたちは小さければ小さいほどこだわりも強い場合がある。とあるお母さんが、セミナーでこの話をした時、

「うちの子は、肌にピタッと密着する服を着ないと眠れないんです」

と仰った。会場では、かわいいねーなんていう声が飛び交ったが、これは全然極端な例ではない。

子どもたちは皆それぞれ成長過程でこだわりを強く持っていて、それが個性として育つ。

音に敏感な子供もいれば、偏食を極めている子もいるし、お気に入りの毛布がなければ落ち着かない子もいる。

日常生活を送らせてあげるためには、保育者がこれをカバーしてあげることが防災につながる。

■未就学・小学生位の子どもの防災ポイント

子どもが少し大きくなってくると、上記に加え、少し別の視点も加える必要がある。

社会生活が始まり、行動範囲が増えて来ると「自分でなんとかしなければならない」状況が生まれる。

例えば、学校の行き帰りに被災したらどうするか、学校へ戻るのか、家に帰って来るのか。

習い事に行っている時は?家の中だったらどこが怪我しないで済むだろう。

と一緒に考えて、それを共有することが非常に有効になる。

実際に、過去の災害で、小学3年生の兄と2歳の妹が家で被災し、親が慌てて買い物から帰宅すると、兄が妹を抱えて、比較的安全な和室に逃げていてかすり傷一つ作らなかったという話を聞いた。そのご家庭は、日頃から小さな地震があると、「うちはこの部屋もお兄ちゃんの部屋も危ないから、和室が安全だよ」とずっと伝えていたという。

それこそが、生きる力だ。

大人が守ってあげないと怪我をしてしまう子どもではなく、

ガラスを踏んだら怪我するかもしれないな。

火があったら近づけないな。

声を大きく出したら誰が来てくれるかも。

と自分の頭で考えて行動に移せる力は、突然芽生えるものではない。

このご家庭のように、普段から親子で1日の行動をお喋りしあったり、いざという時のことを話してみると、案外子どもの方からアドバイスを受けることもある。

■前向きなイメージで災害と向き合ってみよう

大切なのは、恐怖を植え付けないこと。恐怖からの訴求は、実行動につながるのは早いかもしれないが、心に傷として残る場合がある。

さほど大きな災害ではなくても、ニュースの映像や緊急地震速報などで怯える子供たちも少なくない。普段の生活の中で話して、一緒に行動して育てよう。

また、デジタル漬けの毎日であることも子どもが大きくなるにつれて、災害時にストレスが大きくなる。

動画サイトやゲームなどは、そればかりが良いとは思えないが、現代の子ども達にとっては憩いのツールであり、かつて私たちが漫画やテレビを見て楽しんでいたように無くてはならないものだ。

とはいえ、停電時にデジタルに頼り切ることは難しい。

だからこそ、家庭用のポータブル電源や、少なくとも携帯用のバッテリーは今の世代の防災に必須のアイテムとなる。

災害時にずっと使うわけでは無くても、少しの間だけでも楽しめる工夫があった方が良いのではないだろうか。

さらに、中高生くらいになったら、自分達がリーダーとなって災害時に人を助けることができる力があることを伝えたい。

自分達の「今」と向きあい、不便な生活の中でも前を向ける術を自ら見つけてほしい。

最後に、子どもの防災とは、机に向かってお勉強しながら身に付くものではない。そして、ここで記したことは、災害時だけに役立つことでもない。

日常的に、自分達の体と心を大切にすることが防災への第一歩で、それを皆さんの家でも是非、美味しくご飯を食べながら、散歩しながら、ドライブしながら話し合って欲しい。

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサー編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

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NPO法人ママプラグアクティブ防災事業代表理事

青山学院大学卒業後、大手旅行会社・PR会社勤務を経てフリーランスに転向。東日本大震災の母子支援を機に、子連れや家族のための防災を啓発するためにNPO法人ママプラグ設立に携わる。被災体験を元にした「アクティブ防災」を提唱し、全国各地でのセミナー・自治体との連携・イベント・企業との協働・書籍の出版及び監修など様々な分野で活躍中。東京都「東京くらし防災検討・編集委員」、農林水産省「あってよかった家庭備蓄」委員、厚生労働省「非常時における児童館の活動に関する調査・研究」委員、東京都「帰宅困難者対策に関する検討会」委員などを務める。主な著者に、「子連れ防災BOOK」、監修本に「いまどき防災バイブル」

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