デスストの成功は、ゲーム業界やクリエイターの常識を変えるかもしれない

(出典:Sony Interactive Entertainment Inc.)

2019年を代表するゲーム作品を選ぶ「The Game Awards2019」が発表され、フロム・ソフトウェアの「SEKIRO」が大賞を受賞。ソニーから発売された「デス・ストランディング」が3部門で受賞するなど、日本のゲームに改めて脚光があたっています。

参考:The Game Awardsが選ぶ「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」は「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」! 「デス・ストランディング」も3部門で受賞

特に今年のゲーム業界における歴史的出来事と言えるのが「デス・ストランディング」、通称「デススト」の成功でしょう。

筆者自身が、デスストのゲームデザイナーである小島秀夫監督の1ファンですので、少し思いが入りすぎてしまいますが、ゲームに詳しくない方に、今回のデスストの成功がいかに歴史的な出来事かをご紹介したいと思います。

■おつかいゲーの新境地を拓いたデススト

まずデスストがどんなゲームかを一言で表現するとしたら「運び屋ゲーム」です。

(出典:デス・ストランディング)
(出典:デス・ストランディング)

プレイヤーは主人公であるサム・ポーター・ブリッジズを操作するんですが、この「ポーター」とは文字通り荷物の運搬を仕事とする人のこと。

言葉だけ聞くと、そんなの面白いの?と思う人が多いと思います。

実際にいろんなゲームにおいても単純に手紙や宝物を運ぶだけのミッションは良くありますが、そういう単純な行ったり来たりのミッションが多いゲームは「おつかいゲー」と批判的に表現されることも多く、ゲーム自体の主役ではないという認識が一般的でした。

しかしデスストでは、この「おつかいゲー」のおつかいだけを究極に突き詰めて、新しい分野を開拓しています。

なにしろ、デスストを作った小島監督は「メタルギアシリーズ」によってステルスゲームを確立した立役者。

従来の一般的なゲームにおいては、主人公一人で何百何千という敵をバッタバッタとなぎ払ったり、無限の弾薬を打ち続けられるものが多い中、主人公が敵から隠れて進むというステルスゲームは画期的で、私にとってもメタルギアシリーズは最も好きなゲームシリーズの1つになります。

ステルスゲームの1つの特徴は、主人公が案外弱いこと。

敵に見つかったら最後、大勢の敵に囲まれて結構あっさりとやられてしまうことが多いんですよね。

冷静に考えたら、ある意味、人間なんだから当たり前の話で、一人で何千もの敵を無傷で倒せちゃうゲームの方が実はおかしな世界観なんですが。

ステルスゲームが確立するまでは、実はステルスゲームは異端な存在だったんです。

そういう意味で、今回デスストが切り拓いた「運び屋ゲーム」はステルスゲームの主人公から、さらに弱く(?)なっています。

デスという死を意味する単語がタイトルに入っているにもかかわらず、主人公は基本的には人間は殺さず、敵から逃げ回りながら荷物を運ぶという、ゲームの歴史のなかでも最弱の部類に入る主人公を操作することになるわけです。

なにしろ、ちょっと荷物を積み過ぎると足下がふらつくわ、川を渡ろうとすると疲れて流されちゃうわ、でこぼこがあるとつまずいて転ぶわ、で、その挙動はまさに普通の人間そのもの。

従来のゲームではアイテムを無限に持てるのが普通ですし、重さの概念があるゲームでもせいぜい動けなくなったり動きが遅くなったりする程度だったことを考えると、異様に普通です。

でも、普通なんですけど、ずっと操作してると普通なだけに自分や、自分の人生と重なってきて、めちゃ愛着が湧いてくるんですよね。

■何もない状態から開発されたゲーム

まぁ、ゲーム自体の紹介はこれぐらいにして、実際の所は是非プレイして楽しんで頂ければと思いますが。

デスストの何が歴史的かというと、そのゲームシステムもさることながら、注目して頂きたいのはゲームが開発された背景です。

小島監督は前述していたように「メタルギアシリーズ」を大ヒットさせた立役者で、コナミデジタルエンタテインメントの執行役員まで上り詰めた方でした。

それが「メタルギアソリッドV」の発売前の2015年3月に執行役から外され、コナミの社内組織だった小島プロダクションが消滅。

9月のメタルギアソリッドVの発売後の2015年12月にThe Game Awardsの授賞式への出席をコナミに阻まれたことが騒ぎになるなど、大変な騒動の中、コナミを退社することになったという歴史があります。

参考:コナミ、小島秀夫監督の「The Game Awards」出席を禁止

その小島監督が退社後に設立した新会社コジマプロダクションの最初の作品となるのが、今回の「デス・ストランディング」になるわけです。

そうやって聞くと、有名なゲーム監督が独立したけどファンがついてきてくれて、ちゃんとゲームつくれて良かったね、という簡単な話に聞こえてしまうかもしれませんが、実はゲーム業界においては、こうした個人の独立により大作ゲーム開発が継続されることは難しいと言われてきました。

特にPS4のようなコンソールゲーム業界においては、ゲーム開発は映画も上回る大金が必要な大プロジェクト化が進んでおり、開発費も開発するための組織も大規模なものが必要です。

小島監督が手掛けていたのは世界でもトップレベルの大作ゲームであり、詳細は謎に包まれているとはいえ会社側とケンカ別れのような形で独立したゲーム開発者が、その後も大作を手掛けるのはありえないという見方が4年前には多かったように思います。

実際、今回のデススト発売前に小島監督は、日経クロストレンドのインタビューに対して「事務所もない、スタッフもいない、信用も金もない、まさに何もない状態だった」「個人や独立系のプロダクションは小規模なインディーズゲームが主戦場で、過去に成功した者はいない。個人では到底できっこないという声ばかりだった」と当時を振り返っています。

参考:小島秀夫氏が挑む 新型ゲーム「デス・ストランディング」の勝算

■「つながり」が救ってくれた、つながりのゲーム

そんな小島監督を救ったのが、人の「つながり」だったそうです。

そのシンボル的なつながりの例が、今回のデスストにも出演しているギレルモ・デル・トロ監督と、主人公のサムを演じたノーマン・リーダス氏。

実は、デル・トロ監督は小島監督がコナミに在籍時代にサイレントヒルの続編の開発を予定していたが、小島監督の降格と同時に中止になったという経緯があります。

そのサイレントヒルの主人公を演じる予定だったのがノーマン・リーダス氏だったのです。

参考:小島秀夫監督による「サイレントヒル」新作が開発中止に

この三人の間では、サイレントヒルの開発という仕事は中止になっても、三人の関係はつながっていて、デスストでリベンジが達成されたと言えるわけです。

また、独立した小島監督が、デスストを開発することができたのも、ソニーが全面バックアップしているからですが、その挑戦にOKが出たのもソニーのハウス氏とのつながりがあったからだとか。

だからこそ、このデスストにおいても「つながり」自体がゲームの大きなテーマになっているのです。

■組織と衝突した個人でも、活動が続けられる時代に

ゲーム業界においてはゲームの著作権はゲーム会社に紐付くのが通常のため、いかに有名なゲーム開発者といえど、退社すれば自分が考え、開発したゲームの権利もゲーム会社側に残るのが普通です。

当然、普通のゲームのファンは開発者の去就は知らずに、新しい開発者によって作られたシリーズの続編をプレイすることになりますし。

独立したゲームクリエイターは、小規模なインディーゲームなどの開発に転向するのが一般的でした。

しかし、小島監督は信用も金もない状態から、つながりを辿って突破口を見いだし、デス・ストランディングという大規模な新しい作品を作り上げ、数々のゲームアワードでタイトルを取ることに成功したわけです。

これは非常に歴史的な出来事だったと言えるでしょう。

なにしろ、PlayStationブログのGame of the Year 2019では7冠だったというから凄いです。

小島監督が自身のツイッターアカウントで、プレイヤーの様々な投稿を丁寧にリツイートされているのも、つながりを大事にしているというシンボルでもあり、こうしたデスストの盛り上がりに一役買っていたように思いますし。

その結果、「#デススト」などのファンの投稿がツイッター上にあふれかえったのは、ある意味昨年の映画「カメラを止めるな!」のカメ止め現象にも似ていたような気がします。

振り返ってみると、実は、こうした組織から独立した個人による活躍は、すでに様々な業界で始まっている現象です。

企業から独立した個人が活躍するのは、ビジネスの世界ではもはや珍しくありませんし。

わかりやすいところでいえば、2年前の元SMAPのメンバー3人による独立が記憶に新しいところでしょう。

参考:元SMAP72時間テレビで振り返る、SMAPファンの凄さ

インターネットによる、「つながり」の技術が進化したことにより、仮に組織と個人のクリエイターが衝突し、たもとを分かつことになったとしても、その個人のクリエイターにちゃんとつながりやファンがいれば、次につながる活動ができる時代であることも、小島監督は証明してくれている気がします。

とはいえ、ゲーム業界は大作化が進んでいますから、小島監督の後に続くような成功事例がこれから数多く出てくるかは分かりません。

ただ、きっと今回のデスストの成功に刺激された誰かが、今回のデスストにつながる挑戦を、どこかで始めているのではないかと思いますし。

まだデスストをプレイしていない方は、そんなデスストのできた背景やこれからのつながりを考えながらプレイすると、より楽しめると思います。