愛で作るマンガサイト「アル」は、スクショ違法化に代わる解決策になるかも。

(出典:アル ウェブサイト)

スクショが違法化されるかも、という議論がされていた一方で、マンガのスクショを推奨しているサービスがはじまっているのをご存じでしょうか?

そのサービスの名前は「アル」

「マンガファンの愛で作るマンガサイト」というキャッチコピーの、まだ今年の1月に正式リリースされたばかりの新しいサービスですが。

このサービスには、マンガのコマのスクリーンショットを撮影して、サービスの中はもちろん、ツイッターなどのSNSにも投稿できる機能が実装されているんです。

しかも合法的に。

何言ってるか分からないと思うので、実物を見ていただくとこんな感じ。

個人的に、アル代表のけんすうさんと面識があるというバイアスはありますが、このサービスにこそ、今の出版社が真剣に考えるべきヒントが秘められているように思います。

参考:好きな「コマ」投稿OK 漫画発見アプリ「アル」に新機能 「進撃の巨人」「きのう何食べた?」など対応、作者許諾済み

去年から繰り返される強引なネット規制論議

昨年、違法海賊版サイトとして大きく注目を集めた漫画村の騒動以降、漫画家や出版社の周辺では、日本政府や官公庁による強引なネット規制議論が話題になることが増えている印象があります。

昨年は、海賊版対策として違法サイトへの通信遮断の法制化、いわゆるブロッキングの実施を政府が宣言し、通信の秘密の侵害と非難されて大きな議論を巻き起こし、、ようやく1月に断念されたと思ったら。

参考:海賊版「ブロッキング」法制化断念 政府、広告抑制など総合対策で対応 

今度は、2月に入って文化庁の審議会が、著作権法の改正案を、「違法にアップロードされたコンテンツを、違法と知りながら、ダウンロードする行為」の対象を、静止画やテキストなど著作物一般に広げる方向で了承。

スクリーンショットなども違法化されると大きな物議を醸し、法案提出が了承されたにもかかわらず、最終的には法案提出が見送られるという異例の展開になりました。

参考:ダウンロード違法化法案、通常国会提出見送り 自民

 

この議論の過程においては、当然すべての人が、ブロッキングやダウンロード違法化法案に反対していたわけではなく、コンテンツ海外流通促進機構が遺憾の意を表明するなど、コンテンツホルダー側の事業社が、ネットユーザーの視点からすると過激すぎる対応を切望していることも見て取れます。

参考:ダウンロード違法化拡大の見送りに「大変遺憾」 賛成派のコンテンツ海外流通促進機構が表明

ブロッキングにしても、スクショ違法化にしても、漫画村などの違法サイトによってビジネスに悪影響を受けている、もしくは受けることを心配している事業社が法制化を強く期待していると言うことなのでしょう。

マンガ市場は出版社にとって最後の砦

実際問題、インターネットの普及の影響もあり、出版不況と呼ばれる現在。

新聞や雑誌の購読部数は減少が止まらないようですし、書籍の販売も減少傾向、そんな中で出版社にとって非常に重要な収入源となっているのがマンガです。

もちろん、紙のマンガの販売も右肩下がりで推移していますが、すでにコミック市場は紙の売り上げを電子書籍の売り上げが上回っている、電子化が進んでいる市場です。

紙からネットに市場がシフトして、数千円払っていたものが、無料でも類似の情報が入手できるようになってしまった新聞や、ビジネス雑誌に比べると、マンガというコンテンツは今でも基本的には紙も電子版も同じ価格。

出版社からすると、この市場だけは絶対に失うわけにはいかないということなのでしょう。

その必死さが政府や文化庁に伝わった結果、あれだけ物議を醸すような驚きの法案が、成立前提で進み始めてしまったものと想像されます。

参考:出版、最後の砦マンガ沈む 海賊版横行で販売2ケタ減

電子化によって失われる「回し読み」

ただ、実は電子化が進行する過程で、マンガ文化から失われてしまいそうになっているものがあります。

それが「立ち読み」や「回し読み」の文化です。

私が小学生だった頃、週刊少年ジャンプを毎週買って家に山積みしている友達は、みんなのヒーローでした。

放課後や休みの日には彼の家に行って、端から端までマンガを読み漁ったものですし。

書店で様々なマンガを立ち読みした結果、自分の好きなマンガに出会って、そのマンガを大人になって大人買いする、ということもあるわけです。

大人になってからも、GANTZを途中から読んだら面白かったという話を飲み会でたまたましたら、シリーズ全巻を気前よく貸してくれた広告代理店の偉い方がいたのも忘れられない記憶です。

実は、マンガの市場が電子にシフトし、出版社がマンガの著作権を厳しく管理することによって、どんどん失われているのが、こうした「立ち読み」や「回し読み」による新しいマンガとの出会いなのです。

漫画村がやっていたことは違法行為ですし、許されることではありませんが、それでもそれが違法でありながらあれだけ人気を集めていたのは、マンガというコンテンツの魅力がそれだけ高いことの証明でもあり、既存のマンガサービスがもっと手軽に新しいマンガと出会いたいというニーズに対応できていない証明でもあるというのは言い過ぎでしょうか?

ナップスターとiTunes Music Storeの記憶

実は20年前に音楽業界で、同じような議論がされたことがあります。

ナップスターというベンチャー会社がP2P(ピアツーピア)という技術を活用して、音楽ファイルのユーザー同士の相互交換を可能にしてしまったときのことです。

ナップスター上で行われた音楽ファイル交換の規模が、私用利用の規模をはるかにこえ、明らかに業界に影響を与え始めたため、音楽業界全体でナップスターのようなサービスを業界から締め出そうと様々な対策が実施されました。

参考:Napstar(ナップスター)はそれからどうなったのか~P2P時代編

その結果、ナップスターのように運営会社を叩けば止まるサービスではなく、Winnyのような中心の会社が存在しなくてもファイル交換をできるソフトウェアが大きな人気を集めることになったわけですが。

実はこの問題を根本的に解決したのは、こうした違法サービスに対する法規制ではなく、Apple iTunes Music Storeの登場でした。

参考:アップル、iTunes Music Storeをスタート

当時の音楽業界は、CDからデジタルデバイスへの変化が起きはじめていたにもかかわらず、CDを買ってもらって、それをパソコンでデジタル化させるというフローを当然として従来のビジネスを継続しようとしていました。

最初からデジタルで音楽を入手することができないことが、ナップスターの大人気の要因の1つであったと言えるわけです。

Appleはそれに対して合法的に手軽に音楽を1曲から購入できるようにし、違法でリスクのあるソフトウェアを使わなくても良い環境を提供したわけです。

もちろん、マンガ自体はすでに電子化が進んでいますから、ナップスターが登場したときの音楽業界とそのまま比較するのはおおげさかもしれません。

しかし、現在の電子版のマンガには、紙に比べると様々な制約が存在します。

紙の本の場合は購入したらその本は売ったり捨てない限り手元に残りますが、電子版のマンガサービスでは実はマンガの権利は購入者に無いケースが多いんだとか。

そのため運営サービスが終了すると、買ったはずのそのマンガを読むことが不可能になることが多いと聞きます。

さらに、一巻の立ち読みが可能なケースは多いとしても、それ以上の立ち読みは難しいサービスが多いですし、回し読みが可能なケースはすくないでしょう。

友達に本を借りたり、交換したりして、そのマンガの話題で盛り上がることも難しいわけです。

アルはマンガ業界の白馬の騎士になるか

冒頭でご紹介した「アル」は、そうした現実に対する課題に対する1つの答えとして、マンガのコマをネット上で合法的にシェアする機能を提供してしまいました。

従来だとこういう投稿をしたら、著作権者以外の方からも「そのマンガ、著作権大丈夫ですか?」と指摘されかねないと思いますが。

これを使えば胸を張って「著作権者の方が許可してるんです」と言えるわけです。

文化庁や一部の出版社の人達は、スクリーンショットを違法化することによって、漫画村などの違法サービスの拡がりを止めることができると考えているようですが、実にそれは北風と太陽の逸話における「北風」的な考え方だと言えるでしょう。

法律で厳しく違法にし、許可したことしかできないような法律を作ってしまえば、ネットユーザーは自分達の許可した形でしかマンガを読まなくなるだろう、と。

ツイッター上で違法にマンガのコマが流出することもなくなるし、それによって自分達のマンガが売れる機会を失うこともなくなるだろう、と。

でも、マンガはもともとそんな不便なものではなかったはず。

友達が読んでいるのを横で見ていて気になってしまって、借りて読んでみたら面白くって自分も全巻買ってしまったりとか。

同じマンガを読んでいる友達と、マンガの中の台詞を真似して盛り上がったり。

それを聞いていた友達が、その意味を知りたくて、そのマンガを買ったりとか。

そういうちょっとしたきっかけが、面白いマンガに出会う機会になっていたはずです。

「アル」の母体になっているのは、漫画村騒動の時に、違法な漫画村に対抗して、無料マンガの合法リンク集として注目された「漫画ビレッジ」なんだとか。

参考:読みたいマンガがそこにある ファンの熱量で作る投稿サイト「アル」公開 漫画村に心痛めたけんすう氏が開発

ナップスターが投げかけた業界への問題提起に対する答えをアップルのiTunes Music Storeが提示したように。

漫画村が投げかけた業界への問題提起に対する答えは、アルが提示しているように感じます。

漫画家にとって「コマ」のスクショは窃盗?クチコミ?

ちなみに、けんすうさんに聞いた話では、漫画家の方はコマの共有機能の説明を聞くと、喜んで賛同してくれる方が多いんだとか。

冷静に考えたら、そりゃそうですよね。

漫画はストーリー全体が価値なのであって、一コマの肖像権がコピーされたら、同じ漫画が書かれて仕事がなくなる、とかありえないわけですよ。

出版社が芸能事務所のように、マンガのキャプチャ画像を取り締まってまわる必要性はそもそも低いわけです。

出版社の視点で考えてしまうと、200ページの単行本を450円で売っているから1ページのスクショは2.25円の損害とか、そういう損得勘定をしがちだとおもうんですが。

実は1コマのキャプチャが、ネットで100人に拡がるというのは225円の損失ではありません。

知らない人が1コマを見たところで、マンガの販売収入には影響しないんですよね。

その1コマをネットで見たから、ファンがマンガを買わなくなるなんてこともありえないですし。

その100人の中の誰かがそのコマを通じてマンガの存在を知り、新しいファンになってくれれば、逆に収入が増えることすらありえるわけですから、スクショは実はクチコミと言えるかもしれません。

アルでは、このコンセプトに賛同してくれる漫画家や出版社を順次募集されているようですから、是非多くの方々が賛同して、マンガのコマのスクショが今後はマンガや漫画家を応援する行為として普通の行為になるといいな、と思っています。

漫画村のようにマンガ全てをネット上に違法にアップしてしまうのは明らかに犯罪ですし、許せない行為だったことは間違いありません。

そのこと自体はブロッキングやスクショ違法化に反対した人達も、誰も否定していません。

ただ、出版業界が自らのビジネスを無理な規制や法制化で死守しようとすればするほど、自分達の著作権を厳密に定義しすぎて読者を束縛しようとすればするほど、読者の利便性がさがり、マンガの気軽さや本来の楽しさが薄まり、読者がマンガそのものから離れてしまうリスクすらあるように思います。

少年週刊ジャンプと少年週刊マガジンが、初のコラボをするというのも業界の問題意識の表れだと思いますし、とてもよいチャレンジだと思います。(残念ながら私は年齢的にサイトの中が見えないので評価のしようがありませんが(涙))

(出典:ジャンマガ学園 ウェブサイト)
(出典:ジャンマガ学園 ウェブサイト)

参考:ジャンプとマガジンが史上初タッグ--“若者”しか読めないマンガサイト「少年ジャンマガ学園」誕生

是非、出版社の方々には、新しい法規制ばかり考える「北風」方式の根回しばかりに力を入れるのではなく、アルやジャンマガのようにネット時代ならではの、新しい可能性を追求する「太陽」方式のチャレンジに力を入れていただきたいと、1マンガ好きとして切に願う次第です。