米航空会社流血騒動から始まるリアルタイム炎上時代の幕開け

ユナイテッド航空騒動を受けて抗議デモも行われたようです。(写真:ロイター/アフロ)

4月9日に発生したユナイテッド航空の乗客流血引きずり下ろし騒動は、世界に大きな衝撃を与えました。

今回の騒動は、日本の航空会社ではとても考えられないような、既に機内の座席に座っている乗客を強制的に降ろそうとする企業の姿勢から、炎上後のCEOの火に油を注ぐ発言まで、ツッコミどころ満載の騒動でしたから、あくまで米国の特殊な企業の事例と思っている方も多いかもしれません。

ただ、実は今回の炎上騒動は、従来のいわゆるネット炎上騒動とは明らかに異なる新しいタイプの炎上事例であり、実は日本企業にとっても他人事ではない話だと感じています。

それは今回の炎上騒動が文字通り「リアルタイム炎上」として伝播した点です。

■従業員の席を確保するために顧客を降ろすことを決定

まずは、今回の騒動をご存じない方に簡単に騒動の経緯をまとめておきましょう。

今回のユナイテッド航空の炎上騒動は、ユナイテッド航空が4月9日夜の満席のシカゴ発の便に従業員用に4席の席を確保するために、航空会社側が既に機上の座席に着席している乗客4名を下ろすという決断をしたところから始まります。

その後、機内で公募をしたものの4名の公募を集めることができず、結果的に1人の乗客を強制的に選ぶことを決定。

指名されたアジア人医師が、翌日手術があるからと降りることを拒否したため、シカゴ空港の保安員を呼び出し、その保安員の1名が力尽くで乗客を降ろそうとしたことで、乗客が顔面を飛行機のシートにぶつけ、流血するまでの騒動になってしまったわけです。

実際に暴力を振るったのはあくまでユナイテッド航空の従業員ではなく空港の保安院だったこともあり、ユナイテッド航空のムニョスCEOは、炎上騒動後に従業員宛のメールに「従業員は規定通りの対応をした」と、従業員をかばう趣旨の発言をし、そのメールが流出してさらなる騒動を呼ぶことになっています。

そもそも振り返ってみれば、乗客が乗り込む前に、4席足りないことが確定して公募していれば、ここまでの騒動にならなかった可能性は高いですし、あえて翌日手術がある医師を降ろすことにこだわらなければ、ここまでの騒動にならなかったかもしれないし、血気盛んな暴力的な保安員が来なければ、ここまでの騒動にならなかったわけで悪い選択が重なってしまったということは言えなくはありません。

ただ、逆に考えれば、これだけ炎上が回避できる要素があったのに、ことごとく炎上しやすい方の選択をしてしまっているわけですから、ユナイテッド航空がわざわざ悪い選択をし続けることで、自ら大炎上に突き進んでしまったと見る方が妥当と言えると思います。

■実はユナイテッド航空はYouTube炎上事例で有名

何しろ、ユナイテッド航空と言えば、ソーシャルメディア業界では有名なYouTube炎上の代表事例の企業。

2008年にも、乗客であった歌手のデーブ・キャロル氏のギターが壊れていたとクレームしてきた際に、ユナイテッド航空側が対応を全く真摯にしなかったために、キャロル氏が「ユナイテッド航空がギターを壊した(United Breaks Guitars)」というミュージックビデオを作ってYouTubeにアップ、あっという間に500万回以上再生されて、おおいに評判を落とす結果になるという炎上騒動を起こしているのです。

そういう意味では、ユナイテッド航空が炎上というと「またか」と思う人が多いのが実際ですし、ここまでヒドい選択が重なって、ここまでの騒動になることは日本の航空会社ではありえないという印象もあるので、今回の炎上騒動を米国ならではの特殊な事例と片付けるのは簡単です。

ただ、日本企業が今回の炎上騒動で学ばなければいけない点が1つ確実にあります。

それが炎上のリアルタイム化です。

リアルタイム炎上やライブ炎上と言っても良いかもしれません。

■ネット炎上のメディア露出には数日かかるのが普通だった

通常のネット炎上と言われる炎上騒動は、ネット上でのユーザーの投稿を起点に、ユーザー同士やユーザーと企業のコミュニケーションが行われながら、検証行為や議論の過程で騒動が拡大していくことが通常でした。

ペヤングの異物混入騒動にしても、PCデポの高額解約手数料騒動にしても、投稿者の投稿がツイッター上で話題になっても、それがすぐにマスメディアに報道されることはほとんどありません。

せいぜい炎上ネタが好きなワイドショー系ネットメディアが記事にする程度で、運が悪ければヤフトピには出てしまうかもしれませんが、ツイッター上での炎上が即テレビに取り上げられることは通常ほとんどないはずです。

マスメディア側もテレビや新聞で取り上げるほどの大きな問題なのか見極める時間が必要ですし、事実確認をするための時間も必要になるからです。

特にマスメディアで報道する上でネックになるのが事実確認でしょう。

例えば、ツイッター上の写真を元に、「ペヤングに異物混入」とテレビで報道してしまって、もしそれが誤報であったら訂正報道を迫られて恥をかくことになりますし、訴訟のリスクも抱えることになります。

そういう意味で、ネット上の発言や情報を起点にした「ネット炎上」は、どちらかというと徐々に大きな話題になり、誰の目にも明らかな大きな炎上騒動になって、ようやくマスメディアに取り上げられるようになるというケースがほとんどだと思います。

PCデポ騒動においては、最初の騒動は8月14日のツイートから始まっていますが、PCデポが謝罪に追い込まれたのは8月16日と中1日たっていますし、ペヤングの異物混入騒動においても、写真がアップされたのは12月2日でしたが、大手メディアがこの話題を取り上げたのは自主回収が決まった12月4日以降だったと記憶しています。

参考:PCデポ騒動で考える、法律よりも厳しい社会の目

参考:ペヤング終了。一連の異物混入騒動(ゴキブリ)時系列まとめ

■ユナイテッド航空騒動は一日たたないうちにマスメディアに伝播

しかし、今回のユナイテッド航空の炎上は、とんでもなく速いスピードで伝播しました。

騒動が起きたのは現地時間の9日夜だそうですが、9日の夜の間にはあっという間にソーシャルメディア上で話題が伝播。

翌日の10日には大手メディアでも動画を引用する形で多数記事が出ています。

日本でもNHKが11日にはニュース番組で紹介していたようですから、時差を考えると2日もたたない間に世界中で取り上げられたことになります。

これは何と言っても動画の力です。

男性がお腹を大きく露出した状態で通路を引きずられていく動画や、血だらけで独り言をつぶやき続ける動画はツイッター上でも多数リツイートされていますが、これらの動画自体がすでに検証不要の1つの事実となっているのです。

特に今回の騒動では1カメ2カメ3カメとでも呼びたくなるほど、複数の乗客のスマートフォンで様々な角度から動画が撮影されており、CG加工等の捏造の可能性の議論の余地が全くないほどの証拠が揃ってしまいました。

通常の企業とユーザーの間でのクレームや訴訟騒ぎは、どちらが正しいかがニュースだけからは判断できないケースがほとんどです。

実際、ユナイテッド航空を巡っては、今週に入って若いカップルが機内から降ろされたことが話題になりましたが、正直この記事だけを読むと、カップル側が確信犯の可能性も否定できません。

参考:ユナイテッド航空、結婚式に向かうカップルを機から下ろす

実際、ペヤングの異物混入騒動では、当初写真をアップした人の自作自演が疑われましたし、PCデポ騒動においても当初は契約者側にも問題があったのでは無いかと言う指摘が多数されていました。

通常の炎上騒動では、両者の言い分が食い違うケースが通常で、メディアとしても一方的な視点での報道は難しいわけです。

■複数の動画が存在することが証拠になる時代

しかし、今回のユナイテッド航空の炎上は違います。

メディアの報道クルーの代わりに、乗客達のスマートフォンの映像が証拠映像として機能する形で、流血騒動の映像はあっという間に世界のメディアをかけぬけてしまったわけです。

象徴的なのが、ユナイテッド航空のムニョスCEOが「乗客はけんか腰だった」と従業員宛のメールで書いていた点が、映像によってそうではなかったことが検証され、再度の謝罪に追い込まれる羽目になったことでしょう。

参考:ユナイテッド航空、乗客を引きずり出す前の映像が新たに公開される

なぜムニョスCEOが、このような浅はかなウソをついたのか良く分かりませんが、ひょっとしたら社員の言い訳だけに耳を傾けてしまい、証拠映像の検証を中立に実施することを怠ったのかもしれません。

従来であれば、今回のような騒動ではお互いが自分に有利な証言をして、真相が分からなくなるようにすることが良くありますが、もはや今回のようなリアルタイム炎上においては動画の形で証拠が残されているので、そうしたウソは意味をなさないどころか致命傷になりかねないわけです。

映像自体を信用できるのであれば、あとはその映像がテレビの放映にたえられる画質であればあっという間にニュースのできあがりです。

写真やブログ記事に比べても、オンライン動画とテレビの相性はバッチリですから、あっという間にネットの動画がテレビのニュース素材になり、一日もたたないうちにネットの話題がマスの話題になるわけです。

一昔前に、飲食店やコンビニで、アルバイトが冷蔵庫に入った写真を上げて炎上する行為がバイトテロと呼ばれ、対策として一斉にアルバイトの勤務中SNS禁止が普通になったことがあります。

しかし、スマホによる動画撮影やライブ中継の普及により、もはや問題の中心はアルバイト自身によるSNS投稿ではなくなりました。

アルバイトのSNS投稿を禁止したところで、アルバイトが不衛生な行為を行っている現場を顧客が撮影してSNSにアップしたら、もっと言い訳できない炎上状態に追い込まれる時代に突入してしまったわけです。

そもそも、炎上の種が存在するのはネット上ではなく、リアルの世界における接客対応やサービス内容です。

踊る大捜査線的にいうと、「炎上はネットで起きてんじゃない、現場で起きてんだ!」という感じでしょうか。

もはや時代は単なるネット炎上の時代ではなく、リアルタイム炎上の時代に突入してしまっているのです。

そういう意味では、飲み屋で酔っ払って失言したところが動画に収められてしまって炎上とかの事例がそのうち出てくるんだろうなぁとか思うと、こうした告発行為とプライバシー保護のバランスの議論がどれぐらい白熱するかという点も非常に気になるところではあるのですが。

長くなりましたので今日のところはこの辺で。

とにもかくにもユナイテッド航空に比べると、日本の航空会社のサービスはレベルが高いなと再確認する今日この頃です。